-149-
本日更新七回目です。折り返しですねー。
取り急ぎ水運とプレイヤーのログアウト地点や生産活動拠点を優先して作られた村も、今では土建屋チームが色々な建物を建築し。
かなりのプレイヤーで賑わいを見せているのである。
人が集まれば物好きも居る。
露店から道具屋に鞍替えしたプレイヤーとか。
有志で週刊紙を刊行し、広場のモニュメント前で配るプレイヤーとか。
うーむ、現実逃避?
いや、それを言うならば、俺もなのだろうが。
「ここに居るのは珍しいであるな?」
ローブを深くかぶって、広場のベンチで休んでいるとガストンがやってきた。
馬を興味津々と言った様子で見ている。
「二匹目であるか?」
「そう」
「レイラが聞けば、また溜息をつくであるな」
「いや、ノークタウンでは馬は高いけど売ってるみたいだぞ?」
「それはしっかりテイミングできるであるか?」
「わからん」
「テイムモンスターは、今の所一人につき一体までである」
それでふと思い出した。
あれ、アンジェリックは?
あいつ、持って無かったけ蛇のテイムモンスター。
馬を買いに行った時、そういえばエスメラルダを連れていなかったな。
もしかして捨てたのか?
テイマーの風上にも置けん奴だ……。
「まあ今度教えるよ。それと丁度良い、相談がある」
「なんであるか?」
そのまま場所を変えて第一生産拠点に作られたガストンの鍛冶屋に赴いた。
鍛治師を目指すプレイヤーには解放しているようだな。
ローヴォとノーチェは外で待機させて、熱気の中へ入る。
見知らぬ来訪者に視線が集中した。
主に俺だよな。
「親方誰ですかこいつ」
「親方?」
「呼ぶなと言っているのである。でも皆呼ぶのである」
「あっしらに鍛冶を教えてくれた恩師ですぁ!」
で、鉢巻き巻いたタンクトップは再びこちらを向き直る。
そして指差して改めて誰だと叫んでいた。
おうおうおうおう、勝手に熱くなったこいつに促されて。
金槌や焼き入れしたばっかの真っ赤な鉄を持った奴がこっちに歩いてくる。
敵意バリバリ感じるんだけど。
全員この場で相手してもいいんだけど?
そっちの方が面白そうだし。
「やめるである。お前達が束になっても敵わないである」
「はあ、親方。あっしらは泣く子も黙る鍛治師ですぜ?」
「随分威勢がいいのが居るな。嫌いじゃないよ」
「ローレント、すまないが刺激しないでほしいである」
「ろ、ローレント!?」
俺の名前を知った鍛冶見習いみたいな奴は、驚きの声を上げる。
ぶっちゃけそれもそれでおかしい反応じゃない?
なんでびびられるの俺。
「へいへい」
ガストンに言われてしまったので挑発はやめておこう。
ここに来た目的はまた違うからな。
「すいませんごめんなさい殺さないでください」
だから俺はどう思われてんだよ。
殺さないって。
「闘技大会でほとんど目つぶしや急所攻撃で倒してたのを見てたらしいである。ここの鍛治師達もプレイヤーの動向にはかなり注目をしていた」
タッグを組む専属鍛冶師は憧れの的だそうだ。
生産メインの鍛治師に取って、強い攻略プレイヤーはまだ見ぬ素材を供給してくれる。
こうした生産プレイヤーは密かに強いプレイヤーの動向を追って、アクションを仕掛ける準備をしているのだと。
「親方、まさかローレントさんの専属なんですか? そりゃすげぇや!」
「いや違うである」
「へ?」
「彼もまた生産職。漁師の先陣プレイヤーだったからな。元々生産職繋がりで一緒に活動していたよしみである」
出会いはなんだったっけ。
とりあえず攻略進まなくなって、皆で生産職やって開拓しよう。
見たいなノリで昔やってた気がする。
今ではレベルも上がって色んな所へ行ける様になった。
「でも最近漁師やってないけどな」
「プレイスタイルは人それぞれである」
さて、適当な絡みはこれくらいにして。
部屋を変えると本題に移る。
「馬の装備が居る。あと長めの槍が欲しいんだけど、なんとかできる?」
「あの黒馬か? 任せるである、さっそくサイズを測らせてもらおう」
小回りの利くローヴォに比べて、ノーチェはその直線的な機動力と突進力が持ち味だ。
出来るだけ身体を守り衝突の威力を強める馬装が欲しかった。
ガストンは表に繋いであるノーチェのサイズを測って行く。
筋肉の具合を触って確かめ、そして頭の中に思い描いた設計図を紙におこしていった。
ってか、普通に即興で馬装作れるとかはんぱねーなおい。
ブリーダーに貰った基本的な馬具は、鞍、鐙、腹帯などの乗馬に必要な基本的な物である。
それにカスタマイズするのは鉄で出来た面甲と胸甲かな。
流石にフル装備となると、重さも尋常じゃない筈だ。
中世の戦馬はフルプレートをつけた騎士を乗せていたと聞く。
その重さ実に百三十キロ以上。
競馬の様に全力で走る事は出来なかったってね。
機動力は捨て難いから、正面を固めていくよ。
横は俺とローヴォでカバーできるし。
「概ね作れそうである」
「それでも出来るだけ重さは削ってほしい」
「何とかしてみよう。して、槍は? 騎士槍であるか?」
「いや、この素材を使う」
アイテムボックスから伐り出した魔樫の木材を取り出した。
「六尺棒と三節棍の元になった木であるか?」
「そう、鑑定してみて。攻撃力が魔力依存だから、俺が持つとかなり強い」
長く鋼鉄製の騎士槍は、直線的な攻撃に猛威を振るうだろう。
だが、大剣すらまともに片手で扱えない俺に、一体どう扱えると言うのか。
基本的に大きい装備の材質は木由来の軽め素材に限られる。
「丁度良い、魔法銀……、ミスリルについての情報が少し上がって来ているである」
「む?」
「魔素を服有する銀で、魔法スキルの仕様に補正が掛かり、尚且つ魔力を消費する事で鉄並みの強度を確保できると言われる銀である」
「おお!」
銀は武器に向かない。
一般的な炭素鋼と比較するとかなり柔らかいからだ。
突きの剣にするならば問題は無いだろうが、打ち付けでも使う槍となるとまた勝手が違って来そうだった。
ガストンからの情報は、それをクリアできつつ。
尚且つ魔法スキルの仕様に補正を掛けるというミラクル素材の事だった。
なに?
ミスリル?
何だかわからんがとりあえずすごく良い物だって事はわかった。
「それはここにあるのか?」
「加工には限りなく上級に近い鍛治師のスキルが必要そうであるが、生産だけやって来たプレイヤーなら、その域に到達する者もちらほら出て来そうである」
ニヤリと笑うガストン。
なるほどね、ガストンはもうすぐそこに手が届くと。
流石レイラとずっと生産職やってるだけある。
「致命的なのが、錬金術師の技術も必要な所である」
「ツクヨイが居るんじゃ?」
「彼女はまだ駆け出しみたいなもので、闇魔法と両立させているので流石に期待は出来ないである」
第二陣プレイヤーだったし、そんなものなのか。
ツクヨイの錬金割りかし傍で見てたけど、すごいぞ。
ミスリルはもっとすごいというのかな。
「下手に鉄をつけると攻撃力が下がりそうな素材である」
「三節棍の時は上手く行ったんだけどね」
「それは打撃点が魔樫の素材だったからである。とにかく、後少しで魔法銀の存在に手が届きそうなのである。そっちも何か情報が入ったら教えてほしい」
二つ返事で了承しておいた。
今回はそれだけでガストンの鍛冶屋を後にした。
スキルで簡単に作成できるらしいのだが、実際ガストン自ら鉄を打った方が良質な装備が出来る事は知っている。
要望も多い事だし、精算はニシトモ経由で多めに貰っていい事を伝えておいた。
でも、彼的には喉から手が出る程、魔法銀の情報を知りたがっていたようだ。
ガストンがいつのまにか弟子を抱えていました。
親方ガストン。
彼はチョビ髭がにあう筋肉マンです。