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やる気に満ちあふれたセレクは、北門で待機して手を振っていた。
おーいおーいと手を振る姿、大いに目立っていた。
俺はそっとローブのフードを被った。
後ろからワンワン吠えながら着いてくる駄犬。
目立つからやめてくれ。たのむ。
「ここの服屋で間借りしてるわけ!」
連れて来られたのは、いたって普通の呉服屋だった。
ガストンもそうだが、いわゆる生産職プレイヤーだと言われている方々は、自分の工房を持つまではこうしてどこかで間借りして生産活動を行う事が多い。
「貴方、魔法職よね? だから装備は軽めで作ってるわ」
それでは出来上がった装備を見せてもらう事にする。
持ってみた感じはかなり軽かった。
そして丈夫そうでもある。
【革レザーシャツ】製作者:セレク
フォレストウルフの革を基盤に、要所にはスターブグリズリーの丈夫な革が使用されている。
裁縫スキル【本返し縫い】によって耐久性の向上もされている。
・防御Lv2
・耐久Lv2
・耐久100/100
【革レザーパンツ】製作者:セレク
フォレストウルフの革を基盤に、要所にはスターブグリズリーの丈夫な革が使用されている。
裁縫スキル【本返し縫い】によって耐久性の向上もされている。
・防御Lv2
・耐久Lv2
・耐久100/100
【軽兎のローブ】製作者:セレク
繊細なラビット系モンスターの素材の中でも特殊な部位を使用。
裁縫スキル【兎止め】を使用。
裁縫スキル【本返し縫い】によって耐久性の向上もされている。
格上相手には身体能力の向上(微)。
・防御Lv1
・耐久Lv1
・耐久100/100
【首輪】製作者:セレク
丈夫ながら、キューテーな仕上がり。
着け心地もなかなか。
・耐久100/100
「預かった装備、意外と良い素材で作られてたから気合い入れちゃったわ!」
彼女は腰に手を当てて胸を張っている。
普通に強そうな感じで、これは彼女の評価を改めなければならなそうだった。
スキルを多用して作られてるけどコストとか大丈夫なの?
「お詫びの印も含めてるわよ。もう入らない勘繰りはしないわ。掲示板の書き込みで色々と嫌な思いしてるって気付かなくてごめんなさい」
そういって彼女は頭を深く下げた。
そんな事より首輪の着け心地は?
「わんわん!」
良さげっぽい。
「……謝って損した気分。貴方ってそんな人よね。ちなみにその首輪、名前刻めるわよ。まだ名前付けてなさそうよね?」
完全に忘れていた。
鑑定しても名前を付けてくださいなんて出なかったからセーフだよね。
名前は、どうしようか。
従兄弟の家にチョキって名前の犬がいたな。
「じゃ、チョキで」
「グルルル……」
手を噛まれた。
じゃ、安直だけどローヴォで。
スペイン語からとってみた。
「わかったわ、ローヴォね」
彼女がスキルを使用したのがわかる。
つづりは?
もちろん[lobo]でお願いします。
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv1
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。
狩りが得意。
※躾けるには【調教】スキルが必要。
まぁ、【調教】スキルが必要な所で察していた。
テイムネームってことは、俺は知らずの内に狼をテイムしてしまっていたようだ。
情報の漏洩を気にするばかり、ソロプレイになりがちな俺には大いに助かる仲間である。
「よろしくたのむ」
「わんっ!」
駄犬もとい、ローヴォをわしゃわしゃと撫でてやるを俺を見ながら、
「テイマーなんて誰もあるなんて思ってないわよ……、ありえない奴〜」
と呟いていた。
さらにセレクは続ける。
「でも、どっちにしろ多く口撃は受ける形になりそうだから、情報は適度に流した方が良いわよ?」
真剣な視線で、そう忠告を受ける。
確かに、トモガラもそう言うことは仄めかしていた。
スキルのグロウアップを公開するのは良いが、流石にどこで手に入れられるとかは無理。
せめてテイムくらいでも良いが、実際の所テイムのトリガーとなった状況だって謎が多い。
どの面さげて掲示板に書き込めば良いんだろう。
「私が適当にかいておこうか?」
「流石にそれは……」
「レイラ達とちゃんと相談しながらやるわよ!」
任せなさいと拳を握るセレク。
テイムとか【調教】スキルの情報ならば流しても良いかな。
それにレイラ達、ガストンとサイゼが居るとなると、まだ安心だろう。
俺は二つ返事でローヴォをテイムした前日の状況を話すのであった。
「テイム情報だけで、どこでなにしてるかは言わないでください」
「わかってるわよ」
一応釘は刺しておいた。
さて、首輪をはめたローヴォはいつもより三割増でご機嫌だった。
そのままガストンの居る鍛冶屋へ向かおう。
途中の公園でサイゼが手を振っていたので振り替えしておいた。
「力作である」
ガストンさん流石です。
台に乗せられたのは黒いレイピア。
【鋭い黒鉄のレイピア】製作者:ガストン
黒鉄で作られたレイピア。
貫くことを念頭において鍛えられたもの。
耐久と攻撃力を両立させている。
・攻撃25
・耐久Lv1
・耐久100/100
やっちまったで、おい。
凡庸の大剣より強い。
これ一つで十分なんじゃないかと思う程だった。
素材の力ってそんだけ良いのかな。
「あくまで貫く為に作っているので、そこそこ打ち合えるが気をつけるのである」
「わかっています、ありがとうございます」
重さというのはこのゲームでも結構重要視されていて、いくら大剣の攻撃力より勝っていようと、破壊力という一点では、大槌や大剣、ハルバードの様な獲物には勝てない。
色んな武器を持っておくのも良いね。
生憎制限が装備スロットは二つまでだって決まっているんだな。
割りかし序盤だからスロットを増やす装備とか出れば良いんだけど。
これからのセレクに期待しよう。
そのままローヴォを連れてフィールドへ。
北の森の踏破?
それとも南の森へ?
午後は東の川へ向かうことにする。
川岸のモンスターも気になる所だし。
【フィッシャーガー】Lv3
水を飲みに来た動物を襲う淡水のハンター。魚類。
びっしりと硬い鱗を持つ。
大きな牙には注意。
アリゲーターガーみたいな魚がそこに居た。
だが、水辺から虎視眈々とこちらを狙う姿はまさにモンスター。
魚釣りはしないことも無いが、魚が何をどう思ってるかなんて考えたことない。
さて、どうやって狩りをすれば良いのだろうか。
よってきたラビット達を蹴り転がしながら川岸を進んで行く。
川の流れはそこそこ早い。
砂利が敷き詰められた川辺にはこんなモンスターもいた。
【リバーフロッグ】Lv2
比較的どこにでも生息しているカエル。
伸縮性の高い舌は素材になる。
革は水を弾くが脆い。
飛びかかって来た所を弾き飛ばして転がすと、そのまま腹をひと突きしただけで光になって消えて行った。
ドロップは?
【川蛙の皮】
水を弾く素材、傘や資材の雨除けで使われる。
汚れも弾くので敷いても良い。
ビニールシート的な役割を果たすようだ。
だが、ビバークの機会があったらテントの素材としてでも活用できそう。
比較的多めに狩っておこう、噛んでも毒は出ないからローヴォには安心だ。
進むと、一隻の船も無いボロボロの桟橋が見えて来た。
そしてそこに資材を運び込んでいる人影がまばらに。
時たまよってくるリバーフロッグがすごく邪魔そうだった。
蛙のレベル帯が丁度良いのでローヴォを嗾けて蹴散らしてやると、お礼を言われた。
「鬱陶しかったから助かったよ」
「いえ、素材まで頂いて」
「君の犬が倒したからいいよ」
この人達はNPCでは無くプレイヤー勢だった。
だったらこんなボロボロの桟橋で何をやってるんだか。
「水資源を開発しようと思っていてね、土建とか造船とかに詳しい奴らを掻き集めたんだ」
ウィンドウに表示された掲示板を見せられる。
ーーー
第一の町を復興しようぜ☆1
1.ミツバシ
攻略組が先へ進む中、俺達生産職も支援できる体系を組みたいと思う。
有志での参加になるが、色々と手狭になってきたこの町を再建させようぜ。
生産職プレイヤーで手があいてる人は賛同を求む!
ちなみに俺は細工屋!
2.ガストン
手があいているならば手伝うのである。
鍛治師である。
3.サイゼ
お弁当は任せてください〜!
調理師です!
4.イシマル
石材加工とかならする。
木材屋は知り合いが居るから引っ張ってくるわ。
別にゲーム外からでも新しく連れて来ていいのか?
5.レイラ
薬師だけれど、活躍できるかしら。
6.ミツバシ
>>4
ガチものじゃないか!
全然構わないよ!
>>5
気持ちだけでも十分!
7.ニシトモ
で、どこから着手するの。
資材調達は任せろ。
8.ガストン
>>7
卸業者じゃなくて、小売りの間違いではないか?
9.ニシトモ
>>8
てへぺろ
〜〜〜〜省略〜〜〜〜
48.ミツバシ
みんなありがとな!
攻略組によると、川は第二の町にも続いているんだとか。
水運とか面白くない?
丁度東の川に古い桟橋があるから、それを直して運用してみよう。
49.イシマル
なら木材か?
簡易じゃないなら基礎を打ち込まないといかんから、石材杭に木材はめ込む感じにするか?
どっちにしろ調査から始めないとな。
50.ガストン
金具で必要な物があればいうのである。
ーーー
ふむ、下らん話しばっかりじゃないと見える。
ならリバーフロッグの素材とかかなり使えそうだよね。
「防水素材です、つかえますか?」
「おお! こんなにも!」
ミツバシと名乗る男の人は手に取った素材を確かめていた。
生産プレイヤーは戦闘にそこまで慣れている訳じゃないらしい。
そんなもんだろうな。
でも資材が多く準備されている所を見ると、こう言った物作りにかけて人の右に出る物は居ない。
戦うより作る方が得意な人種だよな。
「東のフィールドは川だけなので余り来る人がいないんだよ」
「へぇ」
「だいたいみんな北か西さ」
確かに鬱蒼とした南の森は、先へ進んでも何かがあるという情報は無い。
東の川は今日来て思ったが手合いが温いし水棲モンスターには手の施しようがない。
初心者は西の草原で兎を狩り、そこから北の森へ攻略をかけるという。
掲示板にも攻略最短ルートとして書かれてあった。
楽しまない勢はちょっとログアウトしてください。ほんとに。
「意外と、スキルを取得したらレベル上げにいそしむ人が多くてね」
「あれ、生産職のスキルってどうなってるんですか?」
「元々基礎スキルは取得して、ある程度自活できるようになったら生産スキルをゲットできるようになるよ」
「ポイント制ですか?」
「そうだよ、世知辛いポイントだよね」
「不遇じゃないですか?」
「実は生産スキルで活動すると、経験値が入るんだ。それでレベルも上がるし、別枠で生産ポイントも貯まって行く」
良いことを聞いた。
スキルポイントは全てのスキルに振る事が出来るポイント。
レベルアップで2ポイント。
そして生産ポイントっていうのが、生産活動をした時に貯まって行くポイントなんだとか。
俺は一度も生産活動をしたことがないから表示すらされていないが、生産すればするだけポイントは稼げて行くらしい。
興味深いので、生産スキルをとろうかな。
攻撃用のメインスキルと被らないようになってるみたいだし。
だとすれば何が良いんだろう。
とにかく、彼等の手助けがてら、よって来たリバーフロッグを駄犬と共に狩って行く。
レベルが上がっていた。
駄犬の。
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv2
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき]
[引っ掻き]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
噛みつきと引っ掻きを覚えていた。行動によって覚えるのだろうか。
心無しかローヴォの攻撃を受けるカエル達の悲鳴もかなり苦痛を感じさせるものだったし。
ドロップを回収しながらそう思った。
うーむ、俺としてはフィッシャーガーの一本釣りにしけこんでみたい物だが、グリーンラビットの肉は餌として使えるのだろうか。
川を眺めているとミツバシに声を掛けられた。
「いやぁ君強いねぇ、ペットと蹴りだけでカエル狩るなんて、意外と飛びかかりの一撃が痛いんだよね」
そりゃ先制攻撃はきちんととってるからね。
攻撃を貰う前に殺さないと、ただでさえHP少ないんだから。
さておき、気になることを聞いてみる。
「桟橋、水中の仕事とかはどうするんですか?」
「そりゃ泳ぐよ、水泳のスキルももちろんあるし、一度入って活動してみたら派生スキルの水中作業も取れることがわかったからね……」
ミツバシは川を見ながら肩を落とした。
「奴をどうにかしなきゃだけどな、一回噛まれて一撃で死に戻りしたよ」
フィッシャーガーがこちらを見ている。
あの牙は本当に危険みたいだな。
ーーー
プレイヤーネーム:ローレント
職業:魔法使い見習いLv10
信用度:50
残存スキルポイント:0
◇スキルツリー
【スラッシュ】
・威力Lv10/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【ブースト(最適化・黒帯)】
・効果Lv3/10
・消費Lv3/5
・熟練Lv3/5
【アポート】
・精度Lv5/10
・距離Lv2/10
・重量Lv10/10
・詠唱Lv1/1
【スティング】
・威力Lv1/10
・消費Lv1/10
・熟練Lv1/10
・速度Lv1/10
【投擲】
・精度Lv1/3
・距離Lv1/3
【掴み】
・威力Lv1/3
・持続Lv1/3
【採取】
・熟練Lv1/3
・眼力Lv1/3
【解体】
・熟練Lv1/3
・速度Lv1/3
【鑑定】
・見識Lv1/6
【調教】
・熟練Lv1/6
◇装備アイテム
武器
【凡庸の大剣】
【鋭い黒鉄のレイピア】
装備
【革レザーシャツ】
【革レザーパンツ】
【軽兎のローブ】
【黒帯】
◇テイムモンスター
テイムネーム:ローヴォ
【リトルグレイウルフ】灰色狼(幼体):Lv2
人なつこい犬種の狼の子供。
魔物にしては珍しく、人と同じ物を食べ、同じ様な生活を営む。
群れというより社会に溶け込む能力を持っている。狩りが得意。
[噛みつき]
[引っ掻き]
※躾けるには【調教】スキルが必要。
ーーー
やっと川です。