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「おりゃおりゃ、この野郎! 俺の十八豪! 十八豪ううう!!!」


「うるさい」


 あえて猛攻の中へ斬り込め。

 相手の動きを良く見て隙を付く、……のでは無く。

 こいつの攻め手に全て反応して迎撃する。


 左手が打ち下ろされるがこっちも下から蹴りと喉仏の急所を狙う。

 簡単な話、不利な流れになる前に、決死の攻撃に移るんだ。


「うわっ!?」


 動の者の戦いはチキンレースみたいなところがある。

 思い切りの良い方が伸びのある攻めを繰り出せる。


 トモガラは、プライドが高くセコい。

 絶対に飛べる崖か、落ちても死なない崖じゃないと飛べないし。

 久利林は、崖の先に十八豪が居れば飛ぶ。

 だが、そのおちゃらけた性格が優柔不断な思考を産む。


「カハァー……、シッ!!」


 急な攻撃に転じた結果、久利林のリズムが止まる。

 その一瞬をついて、息を整える。

 天地の構えから息吹によって呼吸を整え、そのまま空手の技では無く半歩崩拳。

 ちなみに魔闘は既に起動しているから、魔闘状態で天地の構えって、ぷっ。


「くっそ、なんなんだ! 空手じゃないのかよ!」


「んー知らない」


 敵に情報は与えない。

 これ、鉄則ね。


[今度はローレント選手の猛攻だあああ!! 一体何があった!? あの一瞬で何が起こったんだああああ!!! 解説する奴が居ないから誰か頼むううう!!]


[GMベータ、実況解説の意味ないですね]


 久利林は完全にリズムを断ち切られ、受け手に回る。

 こうなれば基本的に攻めて側の蹂躙が始まるのだが……。


「おりゃああああああ!!!」


 ある種の根性だと思う。

 劣勢を弾き飛ばす気合い。

 いや、手負いの獣は手強い。

 そうして場をコロコロ引っ掻き回す。

 動の者はそういう厄介な性質を持っている。


 これがラブパワーか?

 心の強さに持ってこいだが、それは相思相愛の場合のみじゃないか?

 そうした心の迷いが久利林の拳に歪みをうむ。


「目つぶし!?」


 残念、これはじゃんけんのチョキだ。


「くっ、金的、鳩尾、喉仏!? あぶねぇなてめ!」


 残念それもフェイク。

 鳩尾への膝蹴りに見せかけて金的を潰しに掛かるし。

 本筋の目的は金的ではなく足を掛ける事だ。


 人は、そこへの意識が必ず向く。

 そらそらどうした、下を気にしたら喉仏を潰すぞ。

 流れる様なフェイク攻撃。

 これぞ猛攻と言わずになんと解く。


 反則技だと言われても、構わず一撃で殺せる技を相手にぶちかます。

 容赦をしない、武の鉄則。

 そして動の気を持つ者ならスポーツマンシップに乗っ取るな馬鹿。


「……むぐわあああ!! 俺も決死の一撃だバーロー!!」


[こ、これは洪家双拳打破だああああああ!!!]


[唯一知ってる技ですね。っていうかこんなに武術武術するなんてこっち側も思ってませんでしたしね?]


 決死の一撃は、こうするんだよ!

 体格、リーチの差を考えろ。

 双拳をすり抜けて俺の掌打が先に彼の顔面にヒットする。


「ぐッ……!」


 ちっ、そのまま眼孔に指突っ込んで転がそうと思ったのに。

 顔背けてやがるぜ。

 だが、勝敗は決したな。


「ら、ぶ、……ぱわぁ」


 脳にダメージっぽい?

 もしかしてラッキーパンチ入ったかな?

 強運の瞳が効果を発揮しても、こっちはわかんないからな。

 アポートで鬼魔の長剣を引き寄せて、首を切り落そうかと思ったが。


 この場では武人らしい最後を遂げさせよう。

 肘を振り上げて、久利林の脳天に叩き落とした。


 何故かはわからんが、闘気もハードスキンも全て綺麗さっぱり解除されている手応えでした。

 脳ダメペナルティだと、バフ全部消えるんか?


[勝者、ローレント選手! やはり強い! 大旋風を巻き起こすスペシャルプレイヤーの中でも彼は群を抜いている!]


[GMアルファは予定が狂うって頭抱えてましたけどね]





 試合後、観客席へと戻った俺の前に、久利林が来た。


「やっぱり勝てねぇや」


 お前もよくがんばった方だけどな。

 敗者に向かって勝者が掛ける言葉は無いので、言わずに置くけど。


「……十八豪を守ってくれよ」


「は?」


「もう俺は、――守れねえ! ぶわっ!」


 涙を流した久利林は、それだけ告げて走ってどこかへ言ってしまった。

 いや、フレンドリスト送ってるから居場所はわかるんだが……。

 あ、ログアウトした。

 相当ショックだったのかな?


「悪い事したかも」


「そんなことないよローレント。あたしがあいつと別れたのは浮気者だったからさ!」


「ええ、何それ気になるわね」


「ああもう、ローレントの試合結構逃しちゃった! で、あたしも気になる所よ!」 


 俺の言葉が言い終わる前に、十八豪が口を挟み。

 それに合わせる様に後ろからやって来たレイラと、たった今ログインして来たセレクが話に便乗する。


「久利林と十八豪はBCoEで出会って同棲までしてたんだっけ?」


「そうだね。無駄な時間を過ごしちまったよ! ああもう!」


「きゃー! 同棲ですってレイラ! レイラー!」


「えっと、セレク? 貴方のその急なテンションにも動揺を隠せないのだけど?」


 ヤバイ、ここで女子トークが炸裂すると戦いの観戦に集中できなくなる。

 っていうか十八豪、一閃天が闘技場で待ってるぞ。


[おっと、十八豪選手! これは相手を待たせていらだたせる兵法の一部かああ!?]


[向こうでガールズトークしてますよ、一閃天選手には有効っぽいですけど]


[ピクピクしている! ピクピクしているぞ! 一閃天選手!]


[さて、やっと役者がそろいましたね。今回は私がコールさせて頂きます。GMデルタです。それでは、準決勝スタート]


 ゴングが鳴って、十八豪を知る生産チームの面々は固唾をのんで見守った。

 ワイルド金髪レディとGMベータに呼ばれ贔屓される十八豪。

 得意技は水魔法を使った一撃と少し齧った素手での喧嘩殺法。


 対する一閃天は?

 オーソドックスな近接職業でありながら、無手を貫いている。


[今回、完全に素手による唯一の出場者ですね。一閃天選手]


[愛破れたクリバヤシ選手は、一応武器として鉄の腕輪を登録していた!]


[そしてローレント選手と同じく、近接魔法使いである十八豪選手。有利なのは断然十八豪選手ですが?]


[なに! そんな事が!? ローレント、十八豪、クリバヤシ! この三角関係の行方は――]


[ちゃんとやりましょうGMベータ]


[あ、はい。十八豪選手、攻めあぐねている。これは一体!?]


「ローレント、ローレント」


 レイラが俺の名前を呼んだ。

 彼等の戦いに集中していて気付けなかった。


「なに?」


「なんか解説して欲しそうに、こっちを見てるわよ?」


 ええー!

 AI仕事しろよ、いいの持ってるって言ってたじゃん!


「っていうかあたしは全くわからないから説明してほしいわ」


「鍛治師もおなじくである」


「ぶらっくぷれいやぁもお願いします」


「お前らな……」


 単純に実力が違いすぎる。

 それに尽きた。

 一閃天はBCoEでも、類を見ないトッププレイヤーだった。

 何故、久利林の集う無手組に身を置いていたのか?


 単純に彼等が一緒に中国武術をおさめた仲間同士だった。

 ただそれだけだった。

 俺と境遇が似ているのか?

 俺はトモガラに誘われ。

 一閃天は久利林に誘われて、ゲームの世界に身を投じる様になる。


 BCoEでついていた一閃天の異名。

 無手の魔王。

 BCoEでの名前は一線天カミソリ

 八極拳を主体とした猛烈な拳の使い手だった。


 俺との戦績は?

 それは秘密だ。

 彼のプライドに触るからな。


 十八豪の武器は魔物相手に効果力のエネルギー弾みたいな水魔法。

 それが果たして対人戦にてどういう作用をするのか。

 無詠唱を持っているから、上手く組み合わせられるだろうが、遠くから放たれる矢を躱す事なんて、俺にも一閃天にも出来て然るべき技術である。


 ならば近接?

 勝てる道理が無い。


 一閃天の拳が届く範囲で、彼の八極拳は無類の強さを誇る。

 それが至極だ。



異世界に派遣されるお仕事です!の方を既に完結済みですが、ちょくちょく更新しています。

本当にちょこっとずつですが、そっちも見て頂けると幸いです。

異世界チートコメディ路線なので。

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