-127-
戦いの最中、レベルが上がる事は無かった。
何と言う事か、トモガラ倒したってのにレベルすら上がらない。
場面は打って変わって観客席へ。
プレイヤー達が道をあけてくれた、一体どうした?
「いやあ、次戦うのがローレントとか~! こりゃまいったな」
「本人を目の前にして言うセリフ?」
「トモガラと戦ったら俺は派手にやられてたと思うしなあ」
相性の問題だってあるのだ。
俺の攻撃は魔法に依存している。
詰まる所、魔法耐性が低い近接職には比較的聞きやすい部類だったりする。
魔法職相手には相手の攻撃は耐久を持ち、近付けば無双出来る。
「な、なんたる優遇職! そんなことがあったんですね」
「ツクヨイ、スティーブンは推奨していたか?」
「いいえ、していませんでした」
「そう言う事だ」
「は? え?」
近接の癖にHPは低いし、耐久も紙だったりする。
使いどころを選ぶ、ピーキー仕様だって事かな。
その分俺にはアポートとかスポートっていう特殊なスキルがあるんだけど。
「まあ、一回見れば対策は考えやすいからなあ」
久利林は俺の腰に差した長剣を見やる。
端的に名前を付けるとするなら、転移居合いみたいなもんだろう。
刀を持って無い状態の奴が、既に刀を持っていて刃を向けてくる。
なんて怖い技だ。
やっといて思う。
「ほんと、対人特化よねアンタ」
レイラがそう言った。
トモガラと戦ってる途中にちらちら目に入っていた十八豪と一閃天は既に居なかった。
まあ次の戦いで出て来るんだろうな?
トーナメント表を東西でわけるなら俺は東グループで十八豪達は西グループ。
丁度対戦が行われている。
あの二人とも、決勝戦で戦う事になるのね。
そう考えるとわくわくしてきた。
「ちょっと、十六夜と連絡が取れないんだけど?」
「ログインは?」
「してるけど、メッセの返事が無いのよ」
久利林との戦闘で敗北してから、十六夜はどこぞへ消えてしまったらしい。
心配になった女性陣が連絡を取ろうとしているが、未だ音信不通。
「狩りでもしてるんじゃない?」
「まあ、ありがちね」
レイラは溜息をついた。
心配の溜息では無い、という察しはつく。
十六夜は負けたショックで引退とか、へこむとかそんな次元じゃない。
もっと別次元の、どす黒い何かを抱えていると存ず。
断じて狩りのお誘いメッセージが入っていたとか知らないんだからね。
本当に、返事なんてしないんだからね。
闇溜まってそうでこえーよ。
試合が進む。
十八豪と一閃天は共に勝ち上がる。
そして、二人が戦う前に。
俺と久利林の試合が行われるのだ。
「へへっ、久々の感覚だぜ」
こうして俺と、相対するのはって事かな?
「思い出すぜー、十八豪をかけて戦ったあの時」
「してないしてない」
「あれ? そうだっけ? まあ何でも良いや、とりあえず勝負しようぜ」
適当な男、久利林。
BCoEのチーム無手組を作ったチームリーダーである。
こいつと戦うと、勝っても負けても何故か憎めない。
思えば……。
「まだ勝った事無かったな」
「あれ? そうだっけ?」
「トモガラほど試合した事は無いが、確かに無かった筈」
「そりゃ、糞アビリティ取らされてたからだろ?」
「それもそうだが……」
「現実でのお前は、もっとすげーやつじゃん。大体、ゲームで合う前から俺も名前は聞いてたしな?」
別に名を馳せていたとか、そんなんじゃない。
たまたま、修行の帰り道に行き着く先が、厄介な戦地だっただけで。
火の粉を振り払って帰宅した、それだけなのだが。
武の世界では、名前は売れているのな。
まあ俺に技を授けた人がすごいだけであって、俺自身はすごく無い。
だから、平等に死合おう。
そう、思うのである。
「わくわくするぜ、こうして万全なおめーと戦えるなんてな! なはっ!」
構える久利林。
ご丁寧に、実況のGM二人は待ってくれていた。
その間に、色々と勝負の煽りを行っていたようだが、目の前に集中し過ぎてて聞き取れなかった。
[始め!!!]
ゴングが鳴った。
同時に動き出す俺と久利林。
俺の得物は、鬼魔の長剣である。
ご丁寧に無手で戦う。
なんて事はしない。
どうせ、対策はあるだろう?
「ハードスキン!」「ハイブースト!」「フルポテンシャル!」
ハードスキンとは?
名前のニュアンスから、皮膚を硬くするスキルのようだな。
久利林は小柄だが、素早い。
鐵線拳の腕輪で器用に長剣を弾くと、身を低く俺の横に回り込んだ。
「おりゃ!」
足を確りと地に着けた上で放つ、洪家拳の技。
合わせる様に肘鉄と膝蹴りで挟みガードする。
挟んだ素手の感触は、硬かった。
「いつつ、手首が折れたらどうする!?」
攻撃と防御は常に同時に行う事を考えるべきだろう。
素手による攻撃は相手に一番近づく。
その瞬間が一番危険なのは物の道理という訳だ。
「うは、おっ、ちょ」
手を抑える久利林に対して、剣を捨てると突きと蹴りを同時に出す。
掌打と蹴りによる膝折だ。
先ほどまでは小手調べだったのだろう。
久利林も俺の動きに合わせる様に徐々にヒートアップして行く。
「感覚が研ぎすまされて来たのか?」
「燃えてくるねえ、十八豪! 俺の勇姿を見てくれえ!」
[おおおーーー!! 久利林選手、客席で待機する金髪の女性。シードを獲得したスペシャルプレイヤー十八豪選手に対して熱烈なラブコールだ!]
[鬱陶しそうに顔背けてますけど]
[良いんだよ、おもしろければ。勝利の女神はどちらに微笑むのか!? ラブパワーだ、クリバヤシい!! その頭は勝利の輝きを反射しているううう!!!]
[反射しちゃダメでしょう? GMベータ]
辟易として片手で額を覆う十八豪。
GMベータの煽りは、久利林の動きを更に加速させる。
「俺は負けないぞローレント! 何たってラブパワーがあるからな!」
中国武術において言われる言葉で、先に開展を求め、後に緊湊に至るという物がある。
俺と久利林の戦いは、そうはならない。
トモガラも、彼も、相手を冷静に判断して攻め手を決断するタイプではなく。
相手の動きに呼応する様に、徐々にヒートアップしていく尻上がりタイプなのだ。
ただ一つ。
トモガラと違う点は、典型的な動の気を持つ久利林はそれを熟知していると言う事。
「おりゃおりゃおりゃ!! 魔法職なのが仇になったな! 受けきれてないぞローレント!」
崩しの反撃を貰う前に小刻みなヒット&アウェイによる猛攻。
だが彼の逃げ場は後ろではない。
超接近状態で、小柄な体格を利用した身体の動き。
無理矢理にでも受けと同時に攻撃を放つなら、逆に俺の体勢が不利になる。
[息もつかせぬ猛攻だー! ローレント選手、攻めあぐねている! そしてHPが、HPが徐々に削られて行く! ピンチか!? ピンチなのか!?]
「長剣のアポートか? それはもう知ってるからな! やってみろよ!」
言葉と共に捲し立てる様な連撃。
さて、どうしようか。
身体が発光しだした所を見ると、こいつも闘気を持っているな。
このままヒートアップすると、どんどん隙は無くなって行く。
非情に厄介な性質だと思う。
同時に思い込みも激しいし、恋愛にも愚直だ。
冷静に付け入る隙を探す前に、俺のHPが削りきられそうだった。
だったらどうする?
十八豪が地獄に落ちろ、敗者を殺せのハンドサインをしていた。
あ、久利林の動きが若干乱れた。
……なんとなく可哀想なので、同じ土俵で戦ってやる事にした。
あとがき更新しようと思ったら、仕事終わりにスナック連れて行かれておじさんたちとヤンヤヤンヤしていた。
だから後書き二日分!
ついにこのお話も50万文字を突破すると言う、異例の事態に。
相変わらず展開が遅いのはヤンヤヤンヤ。
年明け一発目に、何となく新作を投稿できたらなぁなんて思いながら。
ちまちま書き進めている訳ですが……。
なろうにて発表するかしないかはまだ未定となっています。
話は変わりますが、グローイング・スキル・オンラインの今後の展開。
闘技大会と言うなの武術回が無事終わったら、また再びほわほわしたフィールド開拓日誌になりますよ。
相変わらず話が進んでないので、展開ガッツリ早めたいと思っています。
後書き二日分終わり!
いつも読んで頂いてありがとうございます!
年末、食べて飲んでが多いかと思いますが、みなさん身体に気をつけてください。
ブックマークも一万を越えて、評価も400件を越えました。
ここまでこれたのおは、本当に皆様のおかげです。感涙。