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***本編***


 正直、あのトモガラが技を身につけるなんて思っても見なかった。

 しかもそれが、別ゲーで前にやっていたBCoEで使っていた技だったって事。


 昔々、一緒に山ごもりに行った俺とトモガラ。

 その内一人が脱落し、もう一人が死にかけた。


 脱落と言うなの逃避行をしたのは、トモガラで。

 熊に遭遇して死にかけたのは俺。


「仕返しはしないと誓ったがな、今日はやり返す」


「あの時は悪かったよ」


 トモガラは「めんご」と軽く謝っただけだった。


「まあ、あの爺さんから逃げ切った俺も褒めるべきじゃね?」


 それは断じて違う。

 スーパージジイが、子供だった俺達を山から逃す筈も無い。

 後々わかったが、あえて逃がしたんだった。

 それがトモガラのためになると踏んでな。


「もういい、死合おう」


「……言っとくが、ことゲームにかけて。俺とお前の対戦成績は?」


「全敗一引き分け」


「それが事実だ」


 振り上げられた戦斧が容赦なく振り下ろされる。

 三節棍はもう無い。

 鬼魔の長剣は?

 動きの邪魔になる。


 外して投げ捨てた。

 今は出来るだけ身を軽くして、斧との接触域を狭め、避けるしか無い。

 そして来るべきチャンスに、来るべき一撃を見舞うためにな。


「何を狙ってか知らんが……、おらあ!!!」


「ぐっ」


「圧倒的な力の前に、お前は伏っする」


 強烈な斧の一撃を躱して再び懐へ。

 だが、トモガラの拳が待ち構えていた。


「組んでも意味ないぞ、この斧の内側は死地だ」


 確かに、一撃を警戒して先手を取りあぐねる。

 今までは確実に先手を取るために得物を投げて陽動し攻撃に映っていた。

 縦横無尽に戦斧を振るうトモガラにそれは通じるか?

 急所攻撃も確りガードしてくるだろうな。


「お得意の接近戦も使えんし、アスポートの目つぶしも出来ないんだろ!?」


 そして中に入れば、あらゆる身体能力強化スキルで力を増した本陣が出てくる。

 ガードしても、スキルじゃないただの攻撃だけでHPがほとんど持って行かれる。

 全く逝かれた野郎だこと。


 だがアレだ。


 死地だからこそ、心の隙間が見て取れる。

 闘技場はある程度の力が掛かると壊れる様な演出がされているが、アスポート出来る様な小さな石はいつのまにか消えていた。

 あくまでエフェクトだけだって事か?

 なぜ、そこをリアルに作らない運営よ。


「知らん、そんなもん」


 一番信頼を置いているのは自分の身体とずっと使い続けてマックスボーナスのついたアポートだ。

 身体を細めて斧を搔い潜り接近。

 トモガラの体当たりが来るが、俺の手元には、投げ捨てたばかりの鬼魔の長剣。

 居合い抜きとばかりに長剣の刃でトモガラを受ける。


「ちっ! 奥の手だ!!!」


 トモガラの身体が光る。

 そしてスピードが上昇した。

 これは見た事ある。

 闘気か?


 そうだ、こいつ黒帯取ってたな。

 自分が行ける限界まで道場スキル持ってそうだ。

 こいつが膂力だけで門下生を打ち崩すとなると、さながら道場破りだな。


「闘気か」


「ご名答! 全能力値上昇の上に部位破壊ダメージの軽減だぜ!」


 つまるところ、刃物は怖く無いってか。

 トモガラもここまで接近されれば戦斧を取る暇は無い。

 構わず腕で長剣を打ち払ってくる。

 そして空いた片腕には、拳が固められている。


「ッ!? その目の光は何だ!」


 今日はついてる。

 ローヴォの強運の瞳の効果が、契約魔法によってダイレクトに俺の力に。

 そして、長剣の刃は、闘気の膜を破りトモガラの腕に食らい付いた。


「ぐっ!!!」


「斧はもう持てないな?」


 なら俺も長剣は捨てておこう。


「しゃらくせえええええええ!!!!!!」


 アバダーを通しても、トモガラの瞳で燃ゆる闘志の炎が見えた。

 唯我独尊の動の気、こいつがこいつである由縁の代物か?


「おおおおおおお!!! ゲームでお前は俺に勝てねえ!!!! ぜってえに勝てねえんだよ!!!!!」


「吼え方が甘い。お前はいつも躊躇してる。だからゲームの世界で勝ち誇った振りをする」


「何が言いたい! わかった様な口を聞いてんじゃねぇ!!」


 化勁と回し受けの応用技、総回し受けで切断されてない方の、無理な体勢から気合いで殴り掛かる拳を受け流した。

 俺のHPも地味に一割を切る。

 これだから脳筋は、これだから闘気は、魔法職ってばHP少ないんだからな。


 さて、トモガラの防御が開門した。

 腕は戦斧を握るに距離が足りないな。

 一撃で葬ってやる。


 技とは、己の力のみでは無い。

 食物連鎖における、立ち位置を覆すために。

 圧倒的な力に対抗するために。

 必要最小限の動きで息の根を止めるために。

 生まれた物であると知れ、一つひとつに礎が詰め込まれている。


「ぐるあああ!!!」


 諦めないトモガラの噛み付き。

 下から顎に掌打を見舞っておく。

 首が折れかねない程の一撃だ。


 そして、踏み込み両手を突き出す。

 一つは喉仏へ、一つは眼孔と人中へ。

 人体の急所に抜き手を突き刺す。

 まるで龍の顎門アギトの様にな。

 そして捻りを加えて首を圧し折る。

 龍拳ロンケン――武を尊ぶ、一人の恩師の絶招である。


[勝者、ローレント選手!!]


[AIに何の情報も上がって来ませんね。皆沈黙しているようです?]


[ふ、ふっとんだトモガラ選手の顔面が……]


[GMベータってグロ系苦手でしたっけ?]


[君は得意なの?]


[まあ、比較的一般的ですよ?]


[…………あっそう]


 ともあれ俺は、無事準決勝の舞台に足を進める事となったのだ。

 スッキリした。

 トモガラよ、これからは確り修練を積む事だ。







後ほどあとがき、ついか

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