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***続・観客席サイド***
「あら、やっぱり?」
「やっぱりって、レイラお姉様わかるんですか?」
「気になって休みの日にログイン時間確認してみたんだけど、ずっと居たわね……」
「えええーー」
ツクヨイの中で、何かが、何かが崩れ落ちて行く様な感覚。
あんなに強いのにニート。
まあ確かにゲームばっかりやってれば強いのもレベルも納得出来る。
だが、腑に落ちない何かがあった。
「一閃天、あんまり言うと後が怖いよ?」
十八豪の呟きにツクヨイの背筋に悪寒が走った。
と、当時に女の勘もピキーン。
「……ふん」
「これだから馬鹿は……、戦えれば誰でもいいのかい?」
「正直、氷結女帝。貴様とはまだ一戦交えた事は無かったよな」
「おいてめー、一閃天! 先に俺を倒してから言え! はれほれ~~」
「瀕死の奴が何をほざく? 元より貴様らとはずっと戦いたかった。女子供は相手にせんと誓ったが……、武道を歩むなら皆平等だ」
「はあ……、別に闘技大会じゃなくても相手になってやるけど?」
「十八豪! そいつは俺が~~! ってかマジで足に力入らないんだけどナニコレ!!」
雰囲気が変わる。
十八豪と一閃天の間に一触即発の張りつめた空気が流れる。
だが、それはGM実況の前に飲まれてしまった。
[やばい! ヤバイ! ピンチに陥っているローレント選手!!]
「はいはいやめやめ! 特にアンタ達二人は勝てば当たる試合順なんだから、待ちなさいよ!」
「ちなみにこっそり打ち明けておくが、それは森の蛇の神経毒に手を加えた代物である」
「は、はひい!? 本当にあぶねーのはこの薬師のねえちゃんだな……」
「安心するである、これが特効の解毒剤である」
「お、恩にきるぜ鍛冶屋の人」
「楽しみは取っておく。じゃあな十八豪。俺と当たるまで負けない事だな」
「てめぇ……」
そう言いながら去って行く一閃天。
十八豪は、舌打ちを一つして、乱暴にベンチに座った。
「あいつは、確かにニートだけどねえ」
「そうだな、なんだっけ? 中国で見つけた金塊がまだ残ってるんだっけ?」
「そうそう、財力もアンタと桁違いだね」
「捨てないでくれえ! 十八豪!!」
金塊と言う言葉を聞いて、レイラが関心しだす。
へえーと頷いてから言った。
「……高身長で、顔もそこそこで、ガッシリしてて、お金持ち」
「目が、金になっているである」
「悪く無いわね……」
レイラがその一言を言った瞬間、ガストンと久利林は空気が変わった気がした。
さっきまでの一閃天と十八豪の間に流れていた物よりも、もっと恐ろしくドロドロとした何かが、このツクヨイ、十八豪、レイラの間に流れていた。
「いや、問題は、なんで中国でってところである」
「まあ修行だな、確か」
「違うわよ! オフ会の話よ!」
「それも色々関係してるんだって薬師の姉ちゃん!」
***本編***
開幕から全力なのか?
いや、そんな感じがする。
全力で三節棍を横ばいに叩き付けたが、戦斧は全く微動だにせず打ち付けた。
そして闘技場を破壊する。
マジか、ありかよ?
それだけ、トモガラの身体能力が引き上げられていて、まるで野獣の如き印象を見受けた。
「おらおらおら!」
連撃につぐ連撃にて、俺は今劣勢に断たされている。
BCoEの時も、こういうスキルの力で負けていた。
だが、今回は違う。
限りなく現実の自分に近いコンディションを出す事が可能。
流石RIO社のVRゲーム。
獣じみた連撃の合間を縫って、隙を付く。
そう、こういうピンチこそ、あえて一歩先へ進むのだ。
同時に振り下ろされる必殺の戦斧。
相手が極める一撃こそ勝機はある。
化勁も取り入れた総回し受けで刃を流し、無理矢理戦斧の間をすり抜ける。
懐に入れば、掌打を顎に見舞うべく踏み込む。
「毎回思うが、すげー技術だな。……あっさり力の均衡を崩しやがる」
「ぐっ!?」
懐に入って、妙な悪寒を感じた。
トモガラの腕は既に斧を掴んじゃいない、何が来る?
「迎門鉄臂!! 鉄扇!! 鉄山靠!!」
派手にぶっ飛ばされました。
HPが八割削られた。
魔闘という新しいスキルを覚えてもこれだけ削られると言う事は、相当な威力を秘めているのか?
初手にて何とか腹と顎は守ったが、……鉄扇?
わからん、両腕を横から打ち付けられ、鉄山靠にて弾き飛ばされた。
「ま、ゲームで見て覚えた」
「……天才か?」
「てめえ程じゃないがな、BCoEの時は散々覚えさせてもらったぜ」
なるほど、散々対戦に付き合わされたのは、俺から技を盗むためだったのか?
過去の事を思い返してももう良い、実に効率的なやり方だと思う。
山にこもらなくても良いもんな?
猿真似が上手い奴だと思う。
トモガラは二つの戦斧を持ち直すと、一方を肩に背負って俺を見た。
「どうする? 力負けしてる上に、俺は技も持った。負ける通りは無いよな? ハッハ!!」
まるで勝ちが決まった様な言い草だが……。
俺も立派な廃人ゲーマーとやらだ、プレイ時間は負けてない。
だから、負けんよ。
何の為に単身魔物に特攻してたと思う?
慣れる為だよ、ゲームにな。
「やってみろ、マジで相手してやる」
糞みたいなアビリティもない。
最適化されたごっつぁんスキルで、お前をぶちのめしてやる。
***続々・観客席サイド***
「あーあ、火つけちゃったよ」
久利林は立ち上がって構えるローレントを見て顔を覆った。
「まあ、まさかトモガラが技を使うなんてね」
「あ、あの……、一体何の事かさっぱり」
「トモガラは効率厨だって言えばわかる?」
久利林の言葉に、ツクヨイは納得した。
第一陣でも先人を切っていたプレイヤーとして、トモガラの名前が掲示板で上がっていた事は多い。
いつしかそれは鳴りを潜め、ローレントやケンドリック達が騒がれる様になったのだが……。
まだこのゲームがただのVRMMORPGだと思われていた頃。
プレイヤーはとりあえず開かれているルートに従って攻略を行っていた。
NPCとの関係、開拓が複雑に絡み合ってるとは知らずに、関係を悪くする。
そう言った悪循環まで陥った事があった。
その最前線にトモガラは居た。
誰よりも早くスターブグリズリーを倒して第二の町に行った。
そしてローレントから生産職の事を教わると、直にプレイスタイルを改めて樵夫になり。
一人目のランバージャックとして、荒稼ぎしていた。
「まあ、何となくわかります。唯我独尊って感じで」
「そりゃローレントもだけどな」
「確かに……」
「流行に恐ろしく敏感で、そして一番自分が楽しい方法で、全てをかっさらう。端的に言えば、トモガラとはそんな奴で」
「——同時に」
と久利林の言葉に続く様に。
十八豪が言葉を重ねた。
「付き合いの長いローレントは一番それをわかっていて、受け止めて来た。前のゲームの時もね」
ゲームで見て覚えた技をゲームで使う。
とは、これ如何に。