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[さあ今日もやって来たぜ諸君! 闘技大会決勝トーナメント二日目! 今宵、全てが決まる……!!]
[GMデルタです。昨日の反省をして、解説の為に特殊AIを用意しました]
[名付けて解説君!!!]
[まあ、そのまんまですね。さて、GMからのお願いです。このAIは皆様の会話から一番的を得ている解説を吸い上げフィードバックします。ご協力お願いします]
[各種スキル、プレイヤースキル、全てを語れる者は御高説垂れ流してオッケーだぞ!!]
[では……]
[[闘技大会二日目、スタート!!]]
会場は大盛り上がり。
ちなみに前日の対決ハイライト映像から始まった。
予選を勝ち上がり、決勝トーナメントへ足を進めた十六名。
そしてその数は今日で四分の一になった。
勝ち抜いた四人にシード権を持つスペシャルプレイヤー達が参戦する。
そんな構成になっている。
ワクワクするじゃないか!
一試合目は久利林と十六夜。
対峙する二人、十六夜に身長で負けるクリバヤシ。
彼の装備は?
やはり無手だった、そして手甲ではなく鉄の輪をいくつも腕に身につけて行く。
「あれはなんですか?」
「ん?」
いつの間にかツクヨイが隣に座っていました。
彼女は昨日負けたから後はフリーで観戦に回るつもりらしい。
俺を応援してくれるかな?
してくれると嬉しいな。
「鐵線拳っていう洪家拳の套路の一つかな」
洪家三法と呼ばれる三つの套路-練習法のこと-の内の一つ。
内功を練るための外面的攻防技法だ。
「つまり、どういうことですか?」
「私も気になるわね」
「彼等のプレイヤースキルは目を見張る物があるのである」
横にレイラとガストンが居た。
……いつの間に。
気付けなかった、殺気が無かったからか。
えーと、つまるところ。
もともと洪家拳は船の上で重用される足腰重視の重心の低い拳だったりする。
地に足つけて、軸を確り保った奴が、腕に重石をつけてぶん回したらどうなる?
[十六夜選手! 弾き飛ばされたああああ!!!]
「おおおおおおおおおお!!!!」
「ねえちゃん頑張れー!!!」
「あのチビ、弓矢を腕で弾いてるぞ!!」
「誰か解説……、あっモニターに映ってるぞ、……ローレントだ!」
[さっそくAIが仕事しましたね、久利林選手の攻撃はスキルではなく洪家拳というなの拳法。そして、鐵線拳と呼ばれる技法で……、つまり久利林選手は練習していると言う事? これ、解説大丈夫ですか?]
あってるわ!
直に辞書でも引いて来いよ!!
腕の鍛錬にはもってこいは腕輪だったりする。
そして、使うのは一般的な洪家拳の技だが、腕輪をはめる事でその重さは増す。
まあ武器として使っても良いというだけで、本来邪魔なだけなのだが……。
「奴は俺らをおちょくってるんだろう……、ふん」
一閃天が後ろに腕を組んで立っていた。
そして、そのまま俺の真後ろに座っていた人を退けて、ドカッと音を立てて座った。
ちょっと、なんでみんなこっちに集まってくんの。
「まあ、見てればわかる。だからイライラするな」
「ちっ」
観客にも何となくそう言う筋に精通する人が居るみたいだ。
まあ劈掛拳だとか言ってる奴さ。
単純に久利林が一閃天おちょくってるだけだから、……うん。
そして一閃天は自分の扱う武術が馬鹿にされた事に腹を立てている。
ゲームなんだから、落ち着いて。
「っていうか、よく遠距離相手に素手で押し込めますね」
「一、……二、……三、ほら弓を射った」
「あっ、なんで……」
「ふん、基本的な戦いのリズムも、ここの雑魚共からすれば脅威になるのか」
「一閃天! 私のダチにそういう言い方は良く無いじゃないの」
「あ、ちょ、痛いわね! 貴方も強引よ十八豪!」
「あっはは、ごめんごめん、ここは特別良く見える特等席みたいだからね」
ヤバイ、ツクヨイと十八豪に挟まれた。
十八豪にドヤされた一閃天は押し黙る。
多分心の中では反省している筈。
言葉と心が正反対、そういう奴だったような。
十六夜の癖は、陽動の為に動き、そして隙を付く様に矢を射る。
その時に、一定のリズムがあると言う事だ。
もちろん例外もあるが、久利林が跳躍し接近する。
すると、十六夜は怖がって逃げるしか無い。
バックステップのスキルに何かを織り交ぜているな。
バックステップと同時に矢筒から矢を抜き、次のステップで番え弓を引く。
そして三歩目で狙いをつけて、放つ。
彼女は知らない内に久利林によって行動制限をされ、単調な攻撃になっていたのだ。
[なななんとーーー!!! これ程のプレイヤースキルを持っているなんて!!! 久利林選手、恐るべし!!]
「ああー!! バラしてんなよこら!!」
[久利林選手たまらず解説役のローレント選手に罵声を浴びせるー!!!]
[いや、もろ貴方ですよGMベータ]
[え? AI読んだだけだし!! 笑笑笑!!!!]
GMベータ、覚えていろよ。
バラしたっていうか、説明しただけじゃん……。
「そ、そんな癖があったんですね」
「お? うはっ」
種明かしを聞いた十六夜は、直に手を変えた。
目にも留まらぬ早さで矢を放つ。
その連撃に、たまらず久利林は逃げの一手となった。
「こ、これは?」
「そこまではわからん」
[ちょっと解説! しっかりして! ギャラリー盛り上がらないから!]
[GMベータ、よく見てください。MPが減っていますからアレは弓スキルの速射です]
[し、知ってたけどあえてそう言っただけだもんね! マジで!]
「小さいハゲさん、これならリズムはわからないでしょ?」
十六夜は弓を構えたまま前に出る。
一歩一歩進む度に弓を放つ。
[速射スキルは、矢を一本消費して素早く矢を放つスキル。背中に背負った矢筒から、一本一本引き抜く手間が省ける、それだけで相手のリズム読みは崩れる。そんな所でしょうか?]
[なななんと! 十六夜選手! この状況をスキル一つでひっくり返したーー!!]
会場が湧く。
GMの目にも、ギャラリーの目にも、十六夜のシンプルな打開策に逆転勝利を思い浮かべた。
身体に何本か矢を受けながらもギリギリで躱す久利林に近付いて行く十六夜。
そして、速射の後、素早く腰からナイフを取り出して斬り掛かる。
「十六夜さんいっけえええ!!」
ツクヨイの声が響いた。
どうやら、決着がつきそうだった。
十六夜の負けで。
「迂闊に近付いちゃダメだぞ、金髪のねえちゃん」
スキルで放つ矢は、プレイヤースキルに織り交ぜる事で力を発揮する。
一定のリズムの中にアクセントを入れるだけで、違う戦いのリズムになるのだ。
一辺倒に矢を射ち続け、止めのナイフ。
恐らく近接職である久利林に対しては悪手以外の何物でもない。
狙いは急所攻撃だったのだろう。
クリティカルスキルを優先している十六夜はそこの一発逆転の勝機を見出したかもしれないが、それが久利林の近付く為の布石だとしたら?
近接職はあのガンストでさえ、頑丈だ。
そして接近戦では遠距離職では到底及ばない無類の強さを誇るだろう。
「うぎっ!!!」
久利林の両拳が彼女の顔面と腹を打ち付けた。
空手の山突きとは違う、洪家拳の技の一つである。
ここでは洪家双拳打破とでも言っておこうか。
[洪家双拳打破だあああああ!!!!!]
AI読み取るの早いよ!
十八豪と一閃天がクスクス笑うのが聞こえてくる。
なんだよ、ネーミングセンスそんなに悪いかよ。
「ちげーよ、スーパーウルトラミラクル諸手突きだばーろー!」
[こっちのネーミングセンスはもっと酷いですね。GMベータ]
[面白いので何でもあり!!]
後ろにぶっ飛んだ十六夜のHPは全て無くなっていた。
二日目第一試合の勝者は、シード権を獲得したスペシャルプレイヤー久利林。
次回、色々飛ばしてvsトモガラになります。
まあ、ローレント色々はめられてるし、ブチ切れ回ですぐ終わるかと思います。笑
忘れてました、本日まだ更新あります。