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パイプが軽快な音を立てた。
そして灰が受け皿に落ち、魔法陣が部屋中に広がる。
「え、私も行くんですか!?」
「当然じゃろ」
瞬間移動ではなく、魔法陣を用いた転移?
っていうか今更だがスティーブンの家のギミック謎過ぎる。
荒野に繋がる謎の転移門。
岩山の小槍に繋がる煉瓦の隠し扉。
そして今回は部屋自体が魔法陣だ。
なんてことだ、陣縁魔法にしておけば良かった!
「師匠、これは……?」
「心配するでない、いずれ扱える」
俄然、やる気が出る情報をありがとう。
「私も欲しいですー! それ使いたいですー!」
「闇魔法には既にあるじゃろう」
ダークサークルの事か?
それより、勢い余ってヤンヤンを抱きしめるなよ。
極ってるから、首。
「心配するでない、お主もまた、使える様になる。もっとすごい奴じゃ」
「……ど、どんなですか?」
「闇の門から悪鬼共を出せる様になるじゃろう」
「こ、こわ!」
「きゅ、きゅぅぅ…………」
茶番は放っておこう。
視界が戻ったら、そこは深い深い森の中だったとさ。
南の霊峰の森よりも一回り以上大きな樹木が立ち並び、そしてあちこちに獣の爪痕が残されている。
ミニマップの名前はなんだ?
[深淵の森]って、明らかにヤバそうな雰囲気なんだけど。
「そうおののくな、古い古い旧友がここにおるんじゃて」
日没では無い筈だが、当たりは暗い。
陽の光が遮られているだろう。
……空気が濃い。
そんな気がした。
おののくと言うより、どことなく懐かしい物を感じるんだな。
「ぐるるるるる」
「ローレントさんとローヴォちゃんの目が光ってる!」
「……探す手間が、省けたのう」
一際大きく捩じれた大樹が、轟音を撒き散らして倒れてくる。
思わず身構える、ヤバそうな敵の気配。
「はわわわわ!!」
「今回はこのバカ弟子に合わせとるからのう……」
「私なんで連れて来られたんですかああ!」
「……成り行きじゃ。まあ見ておく事に越したことは無い。安全はわしが守るからのう」
ちょ、安全圏に転移するなら俺も連れて行けよ。
言葉を発する暇もなく、襲撃があった。
鞘から長剣を抜いてる暇は無い、パッシブスキルの魔纏を起動し、受けに回る。
「良い受けだ!」
「くっ!」
手首が千切れそうな程の、衝撃を感じた。
左から手刀が飛んで来て、何とかそれを手甲で受け止めた所だった。
同時に腹部に前蹴りがくる、忙しいなもう!
「ステファンから連絡は貰っていた!」
魔物の毛皮と身につけた男は獣の様に短く跳躍し、俺の脳天を狙って踵落とし。
頭上で腕をクロスさせ、十字受け。
同時にお返しの蹴りを見舞っておく。
「いつ来るのか楽しみにしていたぞ!」
そう言ってバク宙し、男は俺の蹴りを躱してあっさり距離を取る。
誰だ、この野郎ー!
【ハモン】Lv:???
職業:魔闘家
称号:???師範
「マジで誰だ!」
「視りゃわかるだろう!?」
ほとんど[???]だから視てもわからん。
蹴りに力が乗る前に、半歩前に進んで半身肘当て。
「ウィンド・ブラスト!」
なんと、肘打ちの威力が相殺された。
……HPが二割減った。
何が相殺か、思いっきり格上相手にダメージを受けてしまっている。
俺の腕から肩へ、そのまま受けていた左手を滑らせて距離を測るハモン。
そして、右掌に魔力が溜まるのが見えた。
「ほら、受けてみろ! ストーム!」
「おがっ」
左手引き戻しの反動を利用して、魔力の溜まった右掌が横っ面にぶつかる。
そしてとんでもない衝撃と共に俺は吹っ飛ばされた。
「な、何なんですかこれー!」
「魔術師でありながら武道の道を行く者じゃよ。門を破ると書いてハモン。文字通り、奴は素手で城門を突破出来る程の力を持つ」
流暢に解説している場合じゃないぞスティーブン。
叩き付けられた樹木が朽ちていて助かった、衝撃の威力は多少なりとも押し殺されていた。
手加減された?
「そら!」
間髪入れずに空き瓶が飛んでくる。
慌てて躱すと割れて中身が飛び散った。
毒?
いや、この匂いはHP回復ポーションです。
一割くらいまで減らされていたHPが半分以上まで回復した。
とんでもない回復量だな。
……。
なるほど、死合えと言う事か。
回復のクリスタルだ。
フェアリーに俺の回復を頼む、もうダメージは負わない。
「ローレントさん、立ち上がって構えました?」
「元よりわしの教えを聞いとらん馬鹿弟子じゃからのう、こうせねば戦い方すら判別つかん」
「……はあ、よくわからないです」
「まあ見ておくのじゃ、いずれ戦う事になるじゃろう。常識を覆す様な敵とな」
「グハハハ! 意気が良いなあスティーブンの弟子の癖して! ヒットブロウ!」
見た所風の魔法使いなのかな?
明らかにスピードが風って感じがする。
歩幅が所々おかしいから、マジで風の魔法で移動をアシストしている様だった。
木を飛び移り、左横から掌撃を用いてくる。
どうする?
こうする。
「お!?」
「ほっほ、奴の打ち付ける風掌も受けよったか」
倒れた樹木を盾に使う。
そして、ハモンの攻撃と共に押し寄せていた風よけにもする。
五点半身受け。
懐かしい技だ、熊相手に大剣で戦った時の技?
予想した通り、拳と共に突風が襲った。
腐敗が余り無い、ハモンが登場する時に圧し折っていた捩じれた大木をガードに使って正解だった。
吹き付ける突風に大樹が削られる。
押し返す事は最早不可能なのに、五点半身受けの接触点を順番に動かし受け流す。
「じ、地震ですぅぅ!! はわわわ!!」
「こ、これ! サモンモンスターの首が絞まっておるぞ!」
さて、この見るからに達人っぽいNPC。
どうやって戦おうか。
武器?
無手相手に武器を持つなんて、出来ないね!
ええ、悪のりです。
遅れました。
感想にもご指摘がある通り、このゲームには重大な欠陥があります。
死にスキル化です。
こういう感想貰えて。
昨今あるアプリゲー然り、そういう風にシステム面での糞さを見て頂ける。
同じ様な感覚になってもらえて本当に嬉しい限りです。
感想のご要望というか、システム面でマジかよおかしいだろ。
とかそう言うものはこそっと返させてもらったり、闘技大会が終わってからのアップデートに含ませてもらってます!
さて、プロテインを300ml一気のみにして、夜の仕事に備えますよー!
ってことで合間抜け出し投稿と、さらに後書きでした!