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第一話 呼ばれて異世界

気づいたとき、俺は落下する感覚に襲われていた。次に感じたのは浮遊感。その次にみたのは、こちらをみつめる人間達だった。



なんだ、こいつら。



わけもわからず、横をみればクラスメイトの聖洋一(ひじりよういち)が立っていた。俺と目の前の人間達と視線が行き来している。こいつも戸惑っているらしい。



「おお!成功したぞ!」

「勇者様だ。本当に勇者様が現れた!」

「「「「わー!」」」」



 その様子に苛立ちが募る。



おい、抱き合って喜ぶ前に俺に説明してくれ。



俺達のいる円形の部屋で、涙を流しながら抱き合って喜んでいる人間は7人。そしてこいつらは日本ではみかけないような、いや、日本のゲームやマンガではよくみかけるようなローブを着ている。そして、俺は地面にへたり込んでいたわけだが、自分の座る地面には丸い陣のようなものが書かれていた。



おい、これってまさか……。



「なあ、この状況ってどういうことかわかるか?」



聖が話しかけてきた。



「俺にわかるわけないだろ……てかお前……」



俺は思わず固まった。聖とはクラスメイトだが仲がいいわけじゃない。というか、俺はクラスメイトと話したことがほとんどない。だからこそ聖も面と向かってちゃんと話したことはなかった。そんな俺でもわかる。こいつほんとに聖洋一か?



「なあ、あんたほんとに聖洋一だよな?」

「え?そうだけど……」



聖は首を傾げた。さらりと金髪が揺れる。そう、金髪なんだ。聖は別にハーフというわけじゃない。生粋の日本人だ。生粋……だったよな?



「あんたの親戚とかひいじいちゃんが外国人だったってことないよな?」

「は?どうしたんだよ、緒方。まあ、僕が知る限りうちの家系に外国人はいないはずだけど……」



じゃあ、じゃあなんで……



「なんであんた金髪なんだ?」

「は?」



他人にいわれて初めて気づいたんだろう。聖は自分の髪を掴んで目の前に持ってきた。



「え、俺なんで……?」

「ついでにいっとく。あんた目の色も変わってる」



青色にな。


「ええっ!」



聖は目もとに手をあてた。残念ながらここには鏡がない。そのとき、俺達がいた部屋に一人の少女が入ってきた。



「成功……したのですね!」

「「「「リリア様!」」」」



ローブの男達が叫んだ。リリアと呼ばれた少女は、目を潤ませて聖をみている。こいつも日本では着られていないようなフリルのたくさんついたピンクのドレスを着ていた。



「え、僕?」



みつめられている聖は戸惑ったように自分を指した。するとリリアの目が俺に向けられ、その目が大きく見開かれた。



「この方は……誰?」

「「「「え?」」」」



ローブの男達が初めて気づいたように視線を俺に向けた。なんとなく気に入らない。



「勇者様が……2人?」

「いったいどういうことだ?勇者様は一人じゃなかったのか?」



男達が動揺している。


「……とりあえず、この状況を説明してくれないかな?」

「ああ、申し訳ありません。今ご説明いたしますね」



リリアが聖にむかって笑った。



「わたくしはエネルレイア皇国第二皇女リリアと申します。わたくし達は、召喚の儀を行い、異なる世界から勇者様をお呼びさせていただきました」

「勇者?」

「はい。今世界は混乱しているのです。それというのも、魔族達の動きが活発化し、どうやら魔王の復活が近いようなのです」

「は?」

「魔族の活発化に伴い、魔物も大量発生、狂暴化し、あらゆる場所が襲われその被害は拡大しています」



こいつ、俺のことさらっと無視しやがった!



「ちょっと待て!魔物だの魔族だの魔王だの、意味がわからない。それがいったいどういう存在なのかちゃんと説明しながら話してくれ」

「そうだね。僕達が異なる世界から来たってことは把握してもらっていると思うけど、僕達がいた世界には魔物や魔王なんておとぎ話やゲームでしか聞いたことないんだ。そこから詳しく教えてほしいかな。というか、僕達は今異世界にいるってこと?」

「ああ、そうでございますよね!配慮が足らず申し訳ありません。はい、仰られるとおり、わたくし達はあなた様を異世界からお呼びしました。この世界には言い伝えが残っているのです。全世界を支配しようと魔王が復活するそのとき、星の召喚の陣は稼働する。世界を救いたくば召喚せよ。さすれば異界から救世主が現れるだろう、と」



うさんくせぇ!なんだその物語で使い古された設定は!



そう思った瞬間、俺の思考を察したのかリリアが俺をキッと睨んだ。



なんだよ、今まで俺を視界に入れないようにしていたくせに。



「なるほど、魔王の目的は世界の征服なんだね」

「そのとおりでございます」



聖にはキラキラする眼差しを送っている。なんだこの落差は。



「魔族は人間より身体能力に優れた種族であり、魔王を戴いています。魔物は狂暴化、または魔力を得て進化した動植物です」

「なるほどね。じゃあさ、その召喚された勇者っていうのは僕達2人のこと?」

「……」

「「「「……」」」」



違うみたいだぞ、聖。



「なら、俺か聖が勇者ってことか。どちらかはその召喚ってやつに巻き込まれたんだな」

「そう……みたいだね。どっちなんだろ?」



俺達の視線が一斉にリリアに向かった。見分ける方法はあるんだろうな?



「どちらが勇者様かを判断する方法ならございます。ロイド!」

「はっ!」



男の1人がローブから水晶玉を取り出した。



「言い伝えでは勇者様はすおしなべて、召喚された時点から大きな魔力を持っていたそうです。お二人の魔力総量を調べれば、どちらが勇者様なのかわかるはずですわ!」

「へぇ!」



俺も聖もその水晶玉に注目する。聖に向けられた水晶は、紫から緑に色を変えた。そして俺に向けられた水晶は……かすかに色が濃くなっただけのような気がする。その結果をみた瞬間、リリアがほっとした表情を浮かべた。それだけでいわれなくても結果がわかる。



リリアはつかつかと聖に近づいた。



「あなた様が、勇者様ですね」

「え……」



動揺する聖の手をリリアは包み、いった。



「どうか、この世界をお救いください」

「いや、あの……」

「「「「どうかお願いします!」」」」



ちょっと待て、顔が隠れるほどのローブを着た男達7人の土下座は気持ち悪い!



「お名前を、教えていただけませんか?」

「あ、えと……洋一。聖洋一だよ」

「ヨーイチ様ですね!素敵なお名前!」

「えっと……」



勇者ヨーイチから助けを求めるような視線を向けられたが無視した。俺が口出ししたら事態がややこしくなるだけだ。



「僕が勇者ってことは、その……緒方は……」

「俺が巻き込まれたほうみたいだな」

「なんか……ごめん」

「あんたが謝ることじゃない」



むしろ謝るべきはリリアのほうだと思うがな。俺に対してもだが、他ならぬ聖に対してもだ。



「では、ここではなんですので城のほうに移動しましょう」

「あ、ああ」



俺と聖は案内されるまま円形の部屋から出た。

召喚の陣は塔の最上階にあったみたいだ。螺旋階段をしばらく降りた後、外に出た。少し離れた場所にでかい城がみえる。どうやら召喚の陣ってのは城の裏手にある塔にあったみたいだ。なんだ、近いな。



「では、ソーイチ様は先に城へ向かっておいてください」



おい、名前間違ってんぞ。



「僕の名前は洋一、なんだけど……」

「ああ!申し訳ありません」

「いいよ、間違いなんてよくあることだから」

「まぁなんてお優しんでしょう!」

「それで、なんで僕だけ先に?」

「これから勇者様は辛い旅路に出発していただかなくてはなりません。あ、ご心配なさらずに。精鋭を護衛につけますので。ですが、この方はこちらの手違いで召喚してしまいました。ですから責任をもってこれからこの方のご意見をきき、城に残るか町で生活するかなどをご相談したいと思います」

「ああ、なるほど。ついてきてもらうなんてのは悪いもんね……」



ついていくわけねーだろ。というか聖、その言い方ってのは世界を救うってのを受け入れたのか?大丈夫だろうな。俺達普通の高校生だぞ。RPGの内容を今すぐ思い出せ。というか、俺は聖の心配をしてる場合じゃないな。さっきの俺に対するリリアの態度をみていると、こいつがこんな殊勝なことするとは思えないんだが。



「わかった。じゃあ、僕頑張るから。また会いにくるからね、緒方!」



そういって聖は手を振ってローブ連中と一緒に城に向かった。奴が充分離れたころ、リリアは今まで被っていた猫を引きはがした。



「さて、じゃああなた様のことですが……」

「ああ、俺は……」

「大丈夫。もうあなたの運命は決まってるから」

「はっ?」



リリアが綺麗な笑みを浮かべながら指をぱちんと鳴らすと、どこからか鎧をまとった騎士が現れ俺を掴む。



「ちょっ!おい、離せ!」

「さて、あなたたち、このちんちくりんを町に捨ててきなさいな!」

「おい、ちょっと待て、ちんちくりんってなんだ!」

「ちんちくりんじゃない。私より身長低いもの」

「ふざけんなよ!これはこれからのびるんだよ!」



156cmだからってなめるなよ!



「ふっ可哀そうに。あなたいくつよ?」

「17だよ」

「わたくしより年上じゃない。その歳じゃあもう伸びないわね」

「男は伸びる時期が遅いんだ、まだいけるっ。それにお前、年上は敬え!」

「小物を敬う者がどこにいるというの。あなた達、さっさと行きなさい!」

「ちょっおい、離せ!」



そのまま抱え上げられて騎士達は城門の前まで来ると、俺をぺいっと捨てる。



「いって~……」



つか町に捨てるんじゃないのか。ここ城門前だぜ、テキトーすぎんだろ!と俺が悶絶している間に騎士は姿を消し、城門は閉められた。



「は~、なんなんだよいったい……」



痛む頭を撫でつつ城を見上げる。つまり俺は用無しだから放り出されたってわけか。嫌な予感が的中したわけだ。



「……しかし魔力の量ってのは気になるな。結局聖はどれくらい持ってたんだ?」



RPGならステータスをみることができるのになー。そう思った瞬間だった。



「うわ!なんだこれ?」



目の前に半透明の板が浮いていた。しかしそこには俺の名前が書かれている。



緒方優人 オガタユウト


HP  23/25


MP  5/5


TA  7/7


LV 1


EXP 0


NEXT 15


途中略


【魔法属性】 無


【称号】 異世界の旅人・勇者・捨てられた勇者





……は?


何度みても俺の名前が書かれている。ということはこれは俺のステータスなんだろう。だが、称号がおかしくないか?



「俺が……勇者?」



つか捨てられた勇者ってなんだ。別の意味に聞こえんだろうが。

そもそも確か、勇者はとんでもない魔力を持ってるらしいじゃないか。その割にはMPが少ないんだが……。



恐る恐るそのウィンドウに触れると、リストが出てきた。そのリストにはリリアや聖の名前がある。それを押すと、ステータスが出てきた。




聖洋一 ヒジリヨウイチ


HP  36/36


MP  600/600


TA  12/12


LV 1


EXP 0





途中略


【魔法属性】 地水火風


【称号】 異世界の旅人・迷い人・勇者に間違えられた者



「……はぁ?」



何度みても称号がおかしい。聖が勇者に間違われた?つーことはやっぱり俺が勇者なのか?だがどうみてもMPは洋一のほうが多い。格が違うといってもいい。



それよりも、ステータスがみれるってほんとにRPGみたいだな。

そう思いながらウィンドウをいじっていると、自分のステータスに逆三角▼をみつけた。あんまりやったことがないRPGの知識を総動員すると、確かこれを押すと詳細がみれたはずだ。俺はそれを押してみた。



すると



《隠しステータス》



緒方優人 オガタユウト


HP  23/25


MP  6000/6000


TA  101/101


LV 1


EXP 0


NEXT 10


途中略


【魔法属性】 地水火風光闇 以降増可


【称号】 異世界の旅人・〔本当の〕勇者・捨てられた勇者





「…………隠しステータスってなんだぁぁぁぁぁぁ!」













俺が勇者だが、勇者なんだが、勇者なんだけど……!


















俺は世界なんて救わない!











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