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臆病者は夜を駆ける  作者: くろねろこ
1章
9/48

9

「お届け物です!」



「あぁ、ヨルノちゃん、こんな遅くに悪いねぇ、これ、貰い物だけどもってっとくれよ」



そう言って干し肉を布袋に入れて手渡してくるのはこの数日毎日顔を合わせている腰のまがったおばあちゃん。



「いえいえ、お仕事ですから!これ、ありがとうございます、また明日!」


ここ数日で身につけた営業スマイルで元気良く挨拶したあと、駆け足で老婆の家を後にする



三ヶ月は戻れないと言い残して、依頼をこなすために遠い街へ出かけたレイカを見送ってからちょうど2週間、レイカの勧めでこの夜間配達の仕事を始めたが、急ぎの文を届けに夜な夜な現れる黒い妖精の話は街でそれなりに知られるようになっていた。

きっかけは初めての配達の時、顔を合わせた男性が妖精みたいだ・・・とこぼし、噂を広めたのであった。


「ヨーゼルさん、今日の分は配り終えました」


「お疲れ様です夜乃さん、相変わらず速いですね、届け物の配達はギルドからの依頼ですからね、助かってますよ、はいこれ、今回の報酬です、数が多かったので少し上乗せしておきました」


ギルドの登録をした時に立ち会った男性(ヨーゼルと名乗った)から渡される報酬を腰のポーチにしまうとついでにと明日の分の配達の仕事を受注する。



「最近噂ですよ〜、黒い服を身にまとった妖精ないし美少女がすごい早さで手紙を届けてくれるってね」



「ほんと勘弁して欲しいですよ、最近は急ぎでもないのに夜間配達を利用する人までいるんですから、まぁ、お・・・私としても報酬が増えるのは願ったり叶ったりですけどね」


俺、と言うと皆そろって怪訝そうな眼差しを向けてくるので最近気を付けるようにしている私という一人称は未だに慣れない。


「今日も行かれるですか?」


そう彼が訪ねてくるのは10日ほど前から始めたモンスター狩りのことだ、討伐依頼ではないが、少しはお金になるのと、何よりスキルの練習をするためだ。




「はい、今日は昼間に、今からでも準備しようかと」



モンスターといっても、ゲームの中であったら多少は上がっているだろうが、Lv.15程度の夜乃でも安全に倒せるくらいの低級だ。



「くれぐれも、余り街から離れ過ぎないでくださいね。」



「はーい。」



父親が遊びに行く娘に言うようなセリフを言って心配そうな顔をするヨーゼルに軽く手を振ってギルドを出ると、うっすらと夜が明けてきた街を飛ぶように駆けていく。






「っああ!」


低い唸り声を上げて飛びかかってきた小さな犬に角が生えたようなモンスターを、なんとも締まらない掛け声とともに振り抜いた小刀で斬り捨て、逆手に抜いた短剣で止めを刺す。


長めの休憩を入れながら近くの小さな森で狩りを初めて数時間、昼過ぎに街を出発したが、日は傾き、太陽は沈みかけている。



普通の狩りならこの辺で切り上げて街へ帰るところだが、夜間はスキル[ナイトウォーカー]の恩恵で身体能力が跳ね上がる上に職業のおかげで夜目が効く夜乃はここからが本番だとばかりに再び獲物を探すためにハイドのスキルで身を隠す。



だいぶ手馴れてきた狩りではあるが、最初の頃は酷かった、襲いかかってくる子犬くらいのモンスターに恐怖し震えたり、まともにスキルを使うことすら出来なかった。

初めての狩りは、一人では不安だったため、付き添いを探していたところ、たまたまギルドにいたベテランだという男性に声をかけたら快く引き受けてくれた。(その際に居合わせたヨーゼルに、襲われたばっかりなのにほいほい男についていかないでください!と説教されたあげく、午後は非番だという彼が狩りについてくるという事件があったのだが)



「よし!」



完全に日が落ち、スキルが発動したのか体が軽くなっていくのを感じると、気合いを入れて夜の森を走り出す。




「やっぱり昼間とは段違いだな」




そうつぶやきながら風のような速度で山を走り抜ける。


IWではただ夜の間敏捷値を上げるというシンプルなスキルだったナイトウォーカーだが、使ってみると予想以上に使い勝手が良い。


夜間の配達業で培った成果を発揮し、複雑な森の中を速度に乗ったまま走り抜ける。




「離しなさい無礼者!!」



夜の森に不釣りな叫び声が響く。



「!?」



それを聴いた夜乃は慌てて近くの茂みに飛び込むとハイドを発動して息を潜める。



つい咄嗟に隠れてしまったのは小心者としての性分か。



音を立てないように声が聞こえた方向へ移動すると、開けた場所に出る、気付かれないようにのぞき込むと、そこには煌びやかな白い服を身にまとい、背中の辺りまで軽くウェーブした綺麗な金髪を伸ばす少女と、その少女を抑えつけ、馬車の荷台に連れ込もうとする男たちの姿がめに飛び込んできた。



2週間前の記憶が鮮明に蘇り、喉の奥から熱いものがこみ上げてくる、握った手は小さく震え、掛けたはずのハイドのスキルが解けていくのが解った。




こみ上げて来たものを無理やり飲み込み、震える手で腰の短剣に触れると、再び少女の存在が周囲に溶け込んでいく。



「助けを呼びに行く時間はない・・・私が・・・・助けなきゃ・・・」



冬山に放り出されたかのように震える体を左手で抱き、右手で短剣を引き抜くと、男たちの背後に回るようにゆっくりと動き出す。





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