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「画面で見るのと同じものとは思えないですね。」
「ふふふ、私も初めて見たときは驚いたわ〜」
目覚めてから半日、この世界で生きるために必要なことを色々教えてくれるというレイカの好意に甘えることにした夜乃は彼女に連れられて冒険者ギルドと言われる建物の前来ていた、ゲームの時にも様々な依頼を受けて報酬を得る冒険者ギルドは確かに存在したが、ここまで立派だった記憶はない。
「レイカさんはいつもここで依頼を受けたりしているんですよね?でも、レイカさんの借りている部屋からなら街役場の方が近いんじゃ・・・」
「ゲームの時の役場は簡単な依頼をギルドに行かなくても受注できたり、補助的な意味合いが強かったじゃない?でもここでは全く別物なのよ〜」
並んで立っていた夜乃と視線を合わせると説明を続ける。
「ギルドが依頼を出して、それを受けた人が遂行する、それで得た報酬の一部をギルドに収める代わりに、万が一失敗した時それの損害をギルドが肩代わりする、それに対して役場は依頼を個人と個人の一体一で受けることができるのよ〜」
「なるほど、個人で受けられる分報酬は多いけど、失敗した時のリスクは大きんですね」
「その通りよ〜、さ、説明も終わったことだし早く入りましょ」
そう言って慣れた様子で入っていくレイカの後を追いかける。
外見に恥じない立派なロビーに入ると、端にあるカウンターに一直線に向かう。
「あ、レイカさん、一昨日ぶりですね、無法者の拘束または排除、うまくいったみたいですね、依頼の報酬は後日お支払いしますので、もう少し待っていて下さい」
そう声をかけてきたのはカウンターに座った職員と思われる若い男性だった、年はちょうど20くらいだろうか、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。
「あんまり血なまぐさい依頼はこれっきりにして欲しいわ〜、まぁおかげでこの娘を助けることができたのは良かったけれど」
「無理に押し付けるような形になってしまってすみません、他に頼める人がいなかったもので・・・そちらの方は?」
「この娘はその依頼の時にちょうど攫われそうになってるところを保護したのよ〜、それで今日はこの娘をギルドに登録するために来たってわけ、早速で悪いけどお願いできるかしら〜?」
「夜乃と申します、よろしくお願いします・・・」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
緊張ぎみの夜乃の挨拶に対して若い男性職員は若干顔を赤くてそう答える。
「あんまり可愛いからってちょっかい出しちゃだめよ〜、男に襲われたばっかりなんだからぁ」
「そ、そんなつもりじゃ、そ、それより!ギルドへの登録ということでしたね、身元の保証人はレイカさんで構わないですか?」
「えぇ、もちろん、しっかり保証しちゃうわ〜」
「でしたらすぐにでも」
気分良さそうにレイカが答えると、からかわれた男性職員はカウンターの下から書類を取り出し、素早く席を立つと、奥の部屋に消える。
「それでは、これで簡単な登録は終了です、あまり無理なさらないように頑張ってくださいね、これからよろしくお願いします。」
あの後すぐに戻ってきた彼からギルドに登録した証である金属製のカードを受け取り、依頼の受注があるというレイカを待ったあと、今日は様子見ということでギルドを後にし、再び二人は宿屋に戻ってきていた。
「そう言えば聞いてなかったんだけど、夜乃ちゃんの職業ってなんなのかしら〜?武器を見た感じだとアサシンだと思ったのだけど」
「・・・・・・・・・・スカウトです。」
たっぷりと間を置いた後小さい声で答えると、レイカの驚く様子が顔を見なくても伝わってくる
「え、えっと〜、アサシンじゃなくてスカウトって、随分と個性的な職業を選んだのね〜・・・」
[アサシン]、IWにある数多くの職業の中でかなりの人気を誇る職業にして、スカウトが不人気職と理由を作った職業である。
アサシンとスカウトは短剣か小刀と、同じ武器を使うのに加え、似たスキルが多く、同列と思われがちだが、スカウトの二次職という訳ではない、二つとも初期の段階で選ぶことのできる一次職だ、敵から身を隠すスキル[ハイド] に、夜間の間敏捷値を上げるスキル[ナイトウォーカー] と低レベル時では全く同じスキルを覚えいく両者だが、中盤から大きく仕様が変わる、スカウトが敵の妨害、隠密、罠などに長けていくのに対してアサシンは罠が使えない代わりに同等の俊敏性を持った上に攻撃スキルか充実するのだ。
もちろんめまぐるしく状況の変化する戦場で罠を使う物好きな玄人などひと握りだ、スカウトに比べ隠密性は若干落ちるアサシンだが、お荷物スキルである罠の代わりに強力な攻撃スキルをもつため、完全にスカウトの上位互換として扱われ、スカウトは絶滅の一途をたどった・・・というのは新職業としてIWでアサシンが実装されてからまもなくの事だった。
「これからどうしたらいいんでしょうか・・・」
今更ながら自分の職業のことを思い出し、なんとも言えない気分になる
「ま、まぁ、ギルドには戦闘以外の依頼も沢山あるわ〜、食べていく分には困らないわよ〜」
そう言って体の前で手をぶんぶん振っているレイカ。
「まぁ職業の事はどうにもならないわね〜・・・それよりも、これからのことなんだけど、私の次の依頼が、少し遠い所なのよ〜、しばらく戻れないけど、2つ部屋があるけど私は隣の部屋しか使ってないし、この部屋は好きに使ってくれて構わないわ〜」
「え、そんな、そこまでお世話になる訳には」
「いいのよ、私も中途半端なところであなたを放って行ってしまうしね、なるべく危なくない依頼を受けて、何か困ったことがあったら今日会った彼を頼るといいわ、力になってくれるはずよ〜」
「それじゃあ今日はとりあえず解散ね〜、隣の部屋に居るから、何かあったら声かけて頂戴」
出会って1日の相手にここまでしてくれる彼女にありがたいよりも申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、部屋を出ていく彼女の後ろ姿を見送った。
もし、自分に姉がいたならこんな感じなのだろうかなどとと考えてしまい、そもそも年齢的にはどちらが上なのか、いやでも今の見た目なら完全に自分は妹か、などとくだらないことを考えていると、寝るにはまだ早いが昨日今日と色々あって疲れていたのか次第に瞼が落ちてくる。
明日はどうか、静かな一日でありますように