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「てめぇら!あんまり傷付けんじゃねぇぞ、特に顔は駄目だ、値が下がる!」
正面のリーダー格と思われるスキンヘッドの男がそう叫ぶと、隣にいた男が持っていた棍棒らしき物を盾にするように突っ込んで来る。
「ひっ」
夜乃は意図せず小さな悲鳴を漏らしながら地面を転がるように男の体当たりをかわす。
「なんだこいつ、冒険者の癖に腰抜けじゃねぇか!所詮小娘ってことだな!」
そう言った退路を塞ぐように立っていた男の一人が地面を這うように転がっていた夜乃に飛びかかる。
夜乃《青年》は必死だった、あるいはゲームの中の聖騎士レイナールであれば、絶対の防御を誇る鎧を身にまとい、光り輝く聖剣を抜き、ゴロツキ共を一刀の元に切り伏せただろうか、だがここにいるのは中身は同じでも聖騎士レイナールとは程遠い、小柄で非力な少女の肉体に、現実ではなんの力も持たない酷く虚弱な意識を宿した存在だった。
飛びかかってくる恐怖から逃れようと土に汚れながら地面を這いずり回る。
「くるなぁ!くるなぁぁ!」
デタラメに刃物を振り回し、再び襲いかかってきた男に浅い切り傷を付ける。
「クソ女!やりやがったなぁァ!」
腕に小さ切り傷をつけられた男が激高し、手に持っていた棍棒を振り下ろす。
ゴキャ…と鈍い音が夜乃の頭に響く
「ぎ、ァああああァァァァ!」
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いァァァァ)
肩を砕かれた痛みに視界が真っ赤に染まり、
可愛いらしく整っていた顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら右肩を抑えて地面をのたうちまわる、刀はとっくに取り落とし、すぐ近くに転がっている。
「あ〜あ、やっちまったよ、まぁ右腕くらいしかたねぇかぁ、これで抵抗する気も失せるだろ」
リーダー格の男が不満げにそう言うと他の3人にとっとと運べと命令する。
「ヒック…ヒッ」
抵抗する物が居なくなり、あたりには少女がむせび泣く音だけが響く。
「随分と大人しくなったじゃねぇか、手間ァかけさせやがって!」
「グギッ…ゴホッゴホッ」
腕を切られた男はまだ腹の虫が収まらなかったのか肩を抑えたまますすり泣いていた夜乃の腹を何度も何度も蹴る。
「おい、そのくらいにしておけ、とっとと運ぶぞ、時間がない。」
そう他の男に言われると舌打ちをしながら足をどける。
「そうね〜、そのくらいにしないと、お姉さん怒っちゃうわ〜」
場の雰囲気に全く合わない気の抜けたような女性の声が響く。
「あぁ?なんかいったか?」
そう言って傷の男は少女に伸ばしていた手を止め、再び仲間の方を振り返る。
先程男を静止した男は首から赤い液体を噴出し、今まさに仰向けに倒れるところだった。
「い、一体何が」
リーダー格の男がそう言葉を零すと
呆然としていた四人目の見張りの男が縦に裂ける。
ものの数秒で二人死んだ。
二人の男がそれを理解するまでに、その数は一人に減る。
リーダー格の男の頭が目を見を開いたまま落ちる。
「なんだよ・・・なんだってんだよ!!」
傷の男は痛む右腕を無視して再び背負っていた棍棒を抜き、振り回す。
男が最後に見たのは、空に爛々と輝く星だった、自分の首が落ちたことすらも理解できずに、男の意識は途絶えた。
最後に残ったのはうずくまるように気絶した少女と、それを彩るかのような赤赤赤赤赤
赤い世界を作り出した声の主は、黒い少女を抱きかかえ、鼻唄混じりに路地を歩き出す。
「酷いことするわね〜」
誰に向けられた言葉なのか分からないつぶやきが路地に反響し、夜は更に濃くなっていく。