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まずい、優勢に思える夜乃の脳裏によぎったのはその言葉だった。
完全な死角から、できうる限りの最速の攻撃だった、にも関わらずこの鎧の男とローブの女は二度も続けざまによけてみせた。
ここへ来るまでに既に少なくない人数の元プレイヤーらしき奴らを処理してきたがいずれもこの方法で油断しているところを一撃で倒してきた。
まだ相手に完全に捉えられたわけでは無い、むしろ相手は私の速度について来ていないように見える。が、死角からの攻撃をよけて見せた以上、もう一度狙っても回避される可能性がある、それに体力的にもこの速度を維持するのは難しいし、体力切れで撤退できないなんて事になってら目も当てられない。
敵は二人、なんとかなるとは思うがリスクがある以上、深追いする理由は無い。
攻撃から撤退へと即座に行動を切り替え、一気に離脱する、逃げ足なら負ける道理は無いのだ。
「ルルエルッ!!」
「はい!逃がしません!」
よく響くローブの女の声が響いた瞬間には、足元から無数の氷のようなものでできた刺が突き出してくる。
正確に狙った訳ではないのか、それは広範囲に及ぶため回避は不可能、だが突き出してくる刺にブーツの底を当て膝を曲げ勢いを殺すとそれを足場にして飛び上がる。
「うそ!?」
そう叫びながらも素早い動作でローブの女が今度は直線的に飛んでくる氷の刺で追撃してくるが、これも身体を縦に半回転させながらもさせながら右手の短剣で受け流す。
刺のない地面に着地したところで、先程の鎧の男が叫んだ名前がひっかかり、足を止める。
「るるえる‥‥?」
向こうは暗くて見えて居ないだろうが、私は夜目がきくためはっきりと相手の姿を捉える。良く見ると、ローブに垂れる髪も、じっとこっちを探るように睨んでいる顔も記憶の中の人物、いや、アバターと一致する。
「ゥルルルルァァアア!」
気迫と共に飛び込んできた男の縦の斬撃を躱し、すれ違いざまに顔を確認する。
やっぱり
右手に持っていた短剣を左手に持ち替え、右手で、腰に吊ってあった゛短刀゛に手を掛ける。
引き抜いた刀身が月明かりを反射し、空を薙ぐと、次の瞬間男の手からは大剣が滑り落ちていた。
「鉄」
そう呟くと、耳に届いたのか、男、クロガネは驚いた様な表情で私を見上げていた。




