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臆病者は夜を駆ける  作者: くろねろこ
二章
39/48

39


まずは一人、少しでも数を減らす事が出来ればと思っていたがまさか厄介な二人のうちの一人を潰せるとは思っていなかったので思わずほくそ笑む、奴隷扱いしている人間に確認させれば良いものを、わざわざ自分で確認しに来るのだから警戒心が欠けている、いや絶対的な力を持ったが故の満身か。



首のど真ん中を貫いた短剣を捻ってから右に払い、軽く蹴飛ばして自分に倒れ込んで来ないようにする。



「な!?お前ら何をしている、とっとと殺せ!」



レイピアを腰に差した男は指示を出してから自分も抜刀する。



「うわぁぁぁぁ!」



ボロい剣を持った男達がめちゃくちゃに得物を振り回してくるが危なげなくかわし、三人とも短剣の柄と拳で急所を打って意識を奪う。



「お前、同業者だったのか、よくも汚い真似を!」



男は構えたまま罵声を浴びせてくるが答える義理も無いので黙る。



レイピアの男はタイミングを伺っているのか構えたままじりじりと近づいてくるが、右手に持った短剣を体の後ろに隠すように構え、腰を落とす。



男の息遣いがだんだんと荒くなり、均衡は破かれる。



「う、ぉぁぁぁぁ![ストライク]!」



男が叫び声と共に打ち出したのは、スキルによる突き、音さえ聞こえない程の速度で迫るのはこの世界の人間から見ればまさに神速と呼べる程に速い、が



胸の辺りに向かって真っ直ぐに突き進んでくる切っ先をしっかりと〝目で捉え〝 体の後ろ隠していた短剣を滑り込ませると、横に逸らすように受け流す。



「!?[ダブルストライク]!!」


一瞬表情が驚きに染まった男だが、そこそこに場数は踏んでいるのか、直ぐに次のスキルを繋げてくる。



間のないスキルの連続発動、恐らくこの男は二次職[細剣士]、その中でもレイピアを使っていると言うことは。



先程と同等の速度のまま襲い来るレイピアを今度は二度、霞む程の速度で右手を振るい正確に迎撃すると、再び元の構えに戻す。



「糞ぉ!![トリプルストライク]!!」



自分でも分かるほどに口元が緩む、相手がレイピアを使っていた時点でこの一連のスキルを使ってくることは予想していた、一度目は単発、二度目は同じ速度で二連、そして三度目は、いつの間にか左手に装備していた[マンゴーシュ]と呼ばれる武器も使っての三連攻撃。これが細剣士の定番コンボ、ゲームで最も多く細剣士達が使っていたスキル連携だ。



この世界に来てから実際に見るのは初めてだが動きが分かっていれば避ける事も容易い、一度目の突きを短剣で斜めに弾き一歩距離を詰める、二度目の突きを体を斜めにして躱し、最後に来る左手のマンゴーシュでのコンパクトな横払いをしゃがむ事で完全にやり過ごすと更にもう一歩懐に踏み込む。



一瞬の間で打ち込まれてきた計六発もの連続攻撃を全て完璧にやり過ごした時点で勝敗は決している。



上を見ると、こちらを見下ろす男の顔が、最初に驚愕、次に恐怖へと変わる。



「人を殺すのにスキルなんて要らないよ」



スキルでもなく、力も込めず、男の首をなぞる様に短剣が滑ると、一瞬過ぎにはその切り口から大量の血を吹き出す、それだけで男の顔からは生気が抜け落ち膝から崩れ落ちる。



鉄を切り裂く剣も、岩を穿つ槍も、辺りを火の海に包む強大な魔法も要らない、大きい動作は相手に時間を与え、周知のスキルは対策を与え、隙を作る。ただ一度、急所を刃先で舐めれば良いのだ、これが私があの日から死に物狂いで手に入れた技術、パッシブスキル以外の直接自分が繰り出すスキルを一切使わず、スキルに頼りきった元プレイヤーが反応できない最小限の動きで息の根を止める、対プレイヤーの技術。



足元に広がる血だまりを避けながら短剣についた血を払うと鞘に戻す。



久々の実戦だったから疲れた、詰まっていた息をふぅと吐くとどっと疲れが湧いてくる。



(そろそろ戻らないとティナに叱られる)



とっとと後片付けをする事にして、元プレイヤー二人の死体から運べそうなものは剥ぎ取って、ベルトのポーチに押し込む。



死体を放置するのは若干気が引けるが仕方ない、そう諦めて一旦街に戻るために進路を変えて走り出す。




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