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臆病者は夜を駆ける  作者: くろねろこ
二章
37/48

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夜の開けないこの街は、常に魔法による街灯が煌々と青白い明かりを灯している、スプリガンは夜目がきくため、街の光量は少ない、この大陸で一番人口の多い人間族であれば、過ごしづらいと口にするだろう。



この地区の外であれば地平線から太陽がやっと顔を出す時間帯、如何に昼夜の無いこの街でもこの時間は皆寝静まっている時間帯だ、しかし今日に限っては辺りには人がバタバタと駆け回る音と、沢山の怒声が飛び交いただならぬ雰囲気に包まれている。



「ルーチェ!建設の指揮は任せる!急いでバリケードを建設して街の防備を固めろ!」



こちらに大声で指示を与えてくる街のリーダーは重厚な鎧を着込み、腰には幅広の両手剣を下げている、スプリガンにしては背が高く、屈強な肉体をもつ彼は最近移住してきた住人を除けばこの街で一番の強さを誇る。



私は指示に従って複数人へバリケードを作るように伝えると、街の奥にある小屋へ足早に向かう、自分も街の端で隠れていたいが任されてしまったので仕方が無い、腹を括る。



到着すると小屋の前には既に二人の少女、ヨルノとアルティナが待機しており、ヨルノが軽く手を挙げて挨拶して来たので、自衛団式の敬礼で返す。



「お二人とも、既に起きてましたか」



「あんだけバタバタしてれば嫌でも目が覚めるし」



何度も見かけた黒のドレスを纏ったアルティナは手を口に当てると小さく欠伸をすると反対の手に魔法で明かりを灯す。



「情報はぎりぎりでしたか」



ヨルノはこの間尋ねた時とは違う格好、下は丈夫そうな生地のショートパンツ、上は革製で軽量の胸部鎧を付けており、黒いフード付きのコートを前は開けたまま太ももの辺りまで垂らしていて、明かりをつけてはいない、本人曰く私達みたいに夜目が効くらしく、街灯が無いせいで真っ暗なこの場所でもしっかりと目を合わせているので嘘ではないのだろう。



「少し前に放っていた斥候から伝令が届きました、武装した人間族が向かってきているそうです、数は50人程度だそうです。」



「話し合いって感じでは無いみたいですね、」



「状況は把握したし、こっちも適当に迎撃するから」



「よろしくお願いします、数は五分五分ですので全員が魔法の使える私達が有利だとは思いますが、嫌な予感がするのです、それでは私はまた街の防備を固めてきます」



のんびりとしている二人に早口に告げて、バリケード作りの指示に戻るため元来た道を戻る、これから押し寄せるであろう争いの気配に泣きそうになるがぐっと堪えて走る速度を上げた。







ルーチェさんが去ったあと、軽く屈伸したり準備運動を済ませた後、コートの下、腰に巻いたベルトの後ろに吊ってある得物をもう一度しっかりと固定し直すと、横倒しになった巨木に腰をかけているティナに声を掛ける。


「それじゃあ、私は街の外へ行ってくるから」



ティナはどこか不服そうに足をぶらぶらと揺らしており、頬をふくらませている。



「昨日、直接戦わないって言ってたし」



「戦うとは言ってないよ、ちょっと様子を見てくるだけ」



「‥‥ねぇ、あたしも」



「ティナは街を手伝ってあげて、一応はここに住んでるわけだし」



納得していない様子のティナを残して森へ入っていく、恐らく奴らは塔から来るとは思うが念の為に迂回していく事にする。



軽く地面を蹴って駆け出すとあっという間に速度に乗り、景色が流れるほどの速度に乗る。



一年半程前、此処に来てから常にパッシブスキルが発動しているのでこの異様な体の軽さにも慣れたが、この地区から出たらきっと体が鉛のように感じるだろう。



木の間を縫うように駆け抜けながらスカウトのスキルである[探知]を発動し、最大範囲で広げる、この辺の感覚も最初は全く掴めずに四苦八苦したのは記憶に新しい。



ティナにはああ言ったもののこの行動の目的は奇襲だ。



今から人を殺しに行くというのに不思議と落ち着いていている、探知のスキルがあるとはいえ、見逃さない為にも注意をはらっているが自然と足が速くなるのは仕方が無い事だろう。





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