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濃紺色に染まった空には小さく月が輝き、明かりの少ない街中を申し訳程度に照らしている。
街は薄暗いにも関わらず、魔法で辺りを照らす街灯は疎らで、お世話にも明るいとは言えない。しかしこの街ではこれが普通で、別段不自由を感じている訳ではない、昔からこうなのだ。
夜が明けぬ街、そう呼ばれるこの街は比喩ではなく実際に夜が開けることがない。
何故この街を含む周囲一帯だけがこのような特殊な性質を持っているかと聞かれれば、世界中の学者や研究者が頭を抱えるだろう、そのくらい異質で、まるでここだけ太陽が通るのを拒んでいるかのような異常な場所なのである、こちらは比喩であるが。
この特殊な環境に街を築き、住まうのはスプリガンという種族の、亜人と言うよりは妖精に近い種族だ、見た目で年齢を判断する事が非常に困難で、成人しきっていたとしても見た目は人間族で言うと十六~十九歳くらいで、愛らしい顔つきに加え、身長も小さく、体躯も小柄である。
そんなスプリガンだが、とても好戦的な種族で有名で、テリトリーを犯そうものならばすぐに駆けつけて排除しようとする。
゛例外゛を除いて妖精種にしか使えない魔法という技能の中でも闇属性魔法が得意な種族で、強力でやっかいな特製を持つために、魔力を感じられない為に魔法が使えない人間種と亜人種は彼らに手を出すことはない。
そんな彼らが住まう街、その奥の森林の更に奥、街から離れるようにぽつんとたった小さな小屋からは薄く明かりが漏れており、そこへ一人の人影が入っていく。
「ただいま、森で取れた薬草、物々交換してきたし、ちょっとぼったくられた。」
「お帰りティナ」
床に持っていた荷物を下ろし、近くにあった椅子に腰を下ろしたのは、あちこちにフリルをあしらったドレスを着た、銀髪の少女、そしてそれに答えたのは室内だというのに、サイズが合っていないのかだぼついた黒いロングコートを羽織った、胸元くらいまである黒髪を持ち、先ほどティナと呼ばれた少女よりも少し幼く見える少女。
「またそんなの引っ張り出してきて、暑苦しいから脱ぐし」
「ティナだって似たような物でしょ」
「あたしのこれはファッションだし」
「じゃあ私のもファッション」
すかさずそう返した来た黒髪の少女に対して顔を顰めるティナ、しかしそれはすぐ呆れ顔に変わる。
「もう二年以上も一緒に暮らしているのに未だに警戒してるし、いい加減慣れて欲しいし、゛夜乃゛」
「別に警戒してるとか、信用してないとかじゃないよ、じゃなきゃ一緒になんて暮らさないし、ただ不安なだけ。」
そう言ってコートの下、後ろ腰にある硬くて冷たい得物に指を這わせる。
「それより、誰が来たみたい」
夜乃がそう呟くと同時に、小さな小屋のドアが三回、ノックされた。




