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「あれからもう三年ですかぁ」
そう呟いたルルエルは、この地方特産だという果実を絞ったジュースの入ったコップを両手で持ち、一口飲むと静かにテーブルに置く。
屋敷に潜伏していた元プレイヤーの最後の一人をクロガネが切り捨てた後、家屋の中に隠れるようにしていた街の住人達にそれを伝えた、初めは警戒していた彼らだが、危険がないとわかると一斉に出てきて瞬く間に街はお祭り状態になった、元プレイヤー三人組はその力を使って相当やりたい放題していたらしい。
「飲みすぎて腹ぁ壊すなよー、便所に篭もりっきりになられたら俺が困る。」
「女の子に向かってなんてデリカシーのないこと言うんですかぁ!!」
「でもまぁ、なんとかここまでやってきたよな、この世界に来たばっかの時は右も左も分からず酷かったからな」
「スルーですか‥‥確かに大変でしたけど二人一緒に、しかも同じ場所に倒れてたのは不幸中の幸いでしたねぇ」
「誰かさんは魔法も使えないお荷物だったけどな」
「し、仕方ないじゃないですかぁ!私はクロガネさんと違って筋肉に物を言わせる職じゃ無いんですぅ!」
この世界にルルエルと一緒に飛ばされてきたのは正確な時間を記憶しているわけでは無いが約三年前だ、初めの半年は死に物狂いで狩りをし、食べられそうな木の実や果物を探して必死に生きた、力、スキルの使い方を覚えてからは今まで傭兵まがいの事をして生計を立てているのだ。
「それより、噂で聞いたんですけど、また王都に近い要塞都市が落とされたらしいですよ、例の街落としの集団に」
「奴らが動き出したのも三年前だったな、ったく一体何人この世界に飛ばされてんだ」
「飛ばされる場所も時間もバラバラみたいですからねぇ〜、あ、店員さんおかわりお願いしまーす!」
この店に入ってから五回目のおかわりをするルルエルに若干呆れながら、ついでに自分が食べる分の軽食も追加する、その際ルルエルがちゃっかり二人前注文しているのはもう突っ込む気にすらならない。
「それに、二年前現れたっていうすっごく高い五本の塔も気になりますねぇ、元の世界に戻る為の手がかりがあるかもです」
「でもその塔もその街落としの連中が封鎖して守ってるって話だろ、一体なんの為にそんなことしてるんだか‥‥」
「ふぉんふぁほぉ、ふぁふぁふぃふぁえふぁふぁいふぇふふぁ!」
「飛ばすな!食うか喋るかどっちかにしろ!」
運ばれてきた料理、それも自分のではない方にまで早速食らいつく彼女に思わず手が出そうになったがすんでのところで堪る。
「そんなの、当たり前じゃ無いですかぁ、帰りたくないんですよ、元の世界に、この世界の私達は[特別]ですからね」
「くだらねぇ」
にやりと笑う彼女の額に軽くチョップしてから荷物をまとめて席を立つ
「今回の依頼でまとまった金も手に入ったし、またしばらくは情報収集だな、もしかしたら他の奴らもこっちに来てるかもしれねぇし、早めに探さねぇとな」
ふと頭にはかつて画面の中で一緒に遊んだ仲間達、そしてそのリーダーだって聖騎士の姿がよぎる
「クロガネさん‥‥緊急事態です」
「ん?どうした?」
「お、お店の裏までちょっとお花をつみに」
そう言い残して足早に店の奥に消える彼女を見送り、ため息をつくと再び席に座りなおす、気合を入れ直したのはいいが、どうやらこれからも胃が休まることはないらしい。




