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「せやぁッ!」
霞むような速度で振り抜かれた剣は、ゴリゴリと嫌な音を立てて正面の木の表面を薄く削り取るだけに終わる。
「無駄だし!あんたのなまくらじゃそれは斬れない
先程少女が腕を上げた際に一斉に動き出した5本の木は、その根をまるで足のように動かし、夜乃を一瞬で包囲すると、自身の枝を鞭のように使って攻撃を始めた。
「なんでこんなこと!」
「なんでって、そんなの決まってるし!私達はこの世界じゃ最強なのよ、この力を使えば欲しいものはなんでも手に入る、その力を集団でつかえば国だって、世界だってね!今の内に勝ち馬に乗っておくのは当たり前だし!」
すると、再び彼女が何らかのスキルを発動させると、更に2体の木の化け物が動き出す。
「その動き、この世界の一般人じゃありえない。あんたも私達側なんでしょ?だったらこっちに側に来るのが賢い選択だし」
四方八方から降り注ぐ槍のような枝を、最低限の動きで避け、両手を使って胴体にカウンターを当てていくが、硬い木の表面を削るだけで、一向にダメージを与えられる気配がない。
「確かに私達は特別かもしれない、でもだからって、街に火を放つなんてそんなこと許される訳ない!」
顔面に向かって突き出された枝を左手の短剣で受け流し、右手の剣で枝を叩き折る。
「残念、それじゃああんたは此処で終わりだし」
少女は大して残念がる様子もなく腕を軽く振ると、更に2体、木の化け物が増える。
「最後に教えてあげる、私の名前はアルティナ、私は私のためにあんたを殺す。」
更に増えた木の化け物は、主の敵を排除するために攻撃に加わる。
まずい、今頭の中にあるのはそれだけだった、5体の化け物ですら捌くので精一杯だったのが今は9体もいる、じりじりと押され、捌ききれなかった攻撃がかすり始めている。
隙を突いて逃げようとするが、包囲されているため次々に飛んでくる枝に妨害されてしまう。
まずい まずい まずい まずい まずい !!
焦れば焦るほど動きは悪くなり、当たってもかすり傷程度だった攻撃は完全によけきれずに深い傷を残していく。
太ももを抉られた痛みを血が出るくらいに歯を食いしばって噛み殺す、無意識に溢れてくる涙で視界が悪くなるが、感覚だけで回避する。
元プレイヤーである以上彼女、アルティナが何らかの職業のスキルで木の化け物を操つっているのは間違い無い。
元の世界のゲーム[IW]で、何かを操るという職業は覚えているだけで3種類、更に彼女は何らかの方法で先回りし、奇襲をかけ、何かの魔法攻撃らしき爆発を起こしている。
伊達に元トッププレイヤーだったわけではない、何かを操り、何らかの方法で先回ができて、魔法が使える、確証はないがこの3つ条件に該当する職業は一つだけ。
([人形師]か!!)
なかなか思い出せなかったのはこの職業が自分の職業程ではないが、かなりマイナーだった職業だったからだ。
周囲の動物以外の物体や、自作した人形を操り攻撃をさせて、本体は後ろから魔法で支援する、強制的に一対多に持っていけるので一見するとかなり強力に見えるが、高コストを支払って自身で精製した人形以外は大して強くない上に魔法は下級魔法しか覚えられず、弱点も多い。
先回りは恐らく、人形と本体の位置を入れ替えるスキル、[交代]を使ったのだろう。
推測が間違っていたら致命的だが、このままではいずれやられてしまう、逃げたとしてもどこかに支配下の人形を隠してあったら再び先回りされてしまう。
チャンスは恐らく一度きりだが腹を括るしかない!
胴体、首と順に狙ってきた攻撃をかなり無理な姿勢で回避し、追撃してきた枝を右手の剣で強引に迎撃する。
ばきりというあっけない音を立てて剣がまっぷたつに折れるが、それを無視して素早くその場でしゃがむと、短剣を地面に突き立てる。
命をかけるのはつい最近覚えた、[ハイド]に続き実質二つ目のスキル
突き立てた短剣を地面から引き抜くと
瞬間、視界は黒く塗り潰された。




