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元来た道とは違う獣道を全速力で駆け抜ける。
来るときには迂回して来た深い森に突っ込み、街へ向かって一直線に進んでいく。
ぬかるんだ道を滑るようにして下り、行く手を遮る川は走る勢いを殺さずに飛び越える。
この調子で走り続ければ日没までには戻れるだろう、そうでなくとも夜になればスキルが発動し今の倍近い速度で街へ向かうことが出来るはずだ。
早く先程の事を街のギルドや衛兵達に伝えなければと焦る気持ちを落ち着かせ、更に速度をあげようと一層力強く踏み込んだ。
この世界の住人からしてみたら常人離れした身体能力やゲーム時代の職業に由来する能力に助けられたのはこれで何度目だろうか。
あるいはこの違和感に気が付いたのは冒険者として僅かだが培ってきた勘か、首筋が熱くなるような不快な悪寒、踏み込んだ足を無理やり止め、両足で思い切りブレーキをかける。
かなりの速度に乗っていたためか、ズルズルと数メートル滑ったあとに左手も地面について停止する。
ーーーーーーーーーー!!
耳を劈くような轟音が辺りに響き、その前方僅か2メートル程の地面が突然爆ぜる。
衝撃の余波でゴロゴロと地面を転がっていくが、途中咄嗟に左手で抜いた短剣を地面に突き刺して無理矢理体勢を立て直すと、右手でもう一方の武器である中途半端な長さの剣を抜き、短剣を前に突き出し肩膝を付いたまま構える。
「はずすとは思わなかった、思ったより速かったし」
カツカツと足音を鳴らしながら土埃の向こうから歩いてきたのは白銀の髪を揺らし、レースをふんだんに使った真っ黒のドレスを着た少女。
「あんたの逃げ足が速いからおじさんたちは見逃すみたいだけど」
両腕を何かを掴むように横に広げると表情を隠すことなく歪め、笑う。
「追い付けないなら待ち伏せすればいいし!」
彼女がそう叫んだ瞬間、辺りの木々が、まるで生き物のように一斉に動き出した。
トロッタの街では街の外壁を守る衛兵達が慌ただしく駆け回っていた。
「まだ見つからんのか」
大柄な体で、椅子にどっかりと腰を下ろした男は、報告へ来た部下にそう尋ねる。
「はい団長、街の外や森の近辺を見回っていた衛兵達は未だ見つからず捜索の応援に来たギルドの冒険者達とも連絡が途絶えています。」
「わかった、持ち場に戻れ。」
団長と呼ばれた男は深いため息をつくと、顎に手を置いて考え込む、今から3時間程前、街の外を見回っていた衛兵達6組、合わせて18人が交代の時間になっても戻らなかった、不審に思ったため、消えた18人を探すために非番だった者達を集めて捜索にあたらせたが、その者達すらも姿を消してしまった、ギルドに応援を頼み、冒険者達も捜索にあたったがついに帰ってくる者はいなかった。
「もう時期日が暮れる・・・・」
完全に日が落ちれば捜索は困難になる、日没が近いことに浮き足立つ衛兵達をよそに、既に空の端が濃紺色に染まり始めていた
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