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「せあぁぁ!」
掛け声と共に振り下ろされた剣は地面を掠めていき、足元の雑草を刈り取った。
レイカがこの街に帰ってきてから既に10日以上が立ち、元々レイカが借りていた宿に住まわせて貰っていた夜乃はそこを出て、今は向かい側の宿に住んでいる。
その宿の裏手には小さな庭があるのだが、今は使う人もおらず、放置されているという事なので、その一角を借りて素振りをしたり、体を動かしたりしているのだ。
あれから、確かに存在し、使うことができるはずのスキルは感覚を掴めず、なんとか習得出来たのはたった一つ。
しかも逃走専用のスキルというもので、自分自身の戦闘における才能の低さを実感していた。
「ヨルさん、朝ごはんの支度が出来ましたよ!」
今日の自主練習でも何も得ることができず、若干へこんでいた夜乃に庭の入口から元気な声で声をかけたのはこの宿の店主の娘だ。
年は18くらいで、年齢が近いせいか、この宿にお世話になり始めてからすぐに打ち解けて仲良くなった。
栗色の髪を肩口まで伸ばし、前髪をヘアピンのようなものでとめた彼女は、決して美人とは言えないが可愛らしい印象を受ける。
「おはようございますリネさん、すぐに行きます。」
彼女に軽く手を振ってから剣を腰の鞘に納めて、近くの木に引っ掛けておいた布で軽く汗を拭う。
軽く体を伸ばしてから後片付けをしたあと、朝食を貰うために宿の一階の食堂へと足を運ぶのだった。
朝食を取ったあと、夜の配達の仕事まで特にやることも無いので外周街をぶらつくことにする。
最近レイカさんは見かけていないし、シェリルシェリアの双子もしばらくは家の用で顔を出せないという、稽古をつけて貰う日でもないし、何より最近街の周りのモンスターがめっきり減ったため、狩りや討伐の仕事もさっぱり無い、人々の生活を脅かすモンスターがいないのはいい事だが、ヨーゼルさん曰く、こんなこと今までで初めてだそうだ。
その件に関しては不審に思ったギルドが調査をしているようだが、その仕事が回るのは一部のベテラン冒険者だけだ。
(そういえば、街の外に出たのは森までで、そこから先には行ったことないな)
暇を持て余していると、ふとそんなことを考えついた、前はモンスターに襲われたらひとたまりもなかったが、今ではそこそこ戦えるし、自慢ではないが逃げ足には自信がある。
森の向こうにある山の麓までなら森を迂回しても配達の時間までに行って帰ってこられる。
早くしないと時間がもったいないので、いったん宿に戻り必要最低限の荷物をもっていつもの黒いコートを着ると、街の外壁の門を目指して歩いていくのだった。




