#20エピローグ
当の悠治は、他の怪我人と一緒に救急車で運ばれた。一週間の彩華の苦痛が身体にしみ渡っている。これも、仕方ない事だと思いながら病院のベッドに横になった。今夜はこのまま入院。脱水症状で身体が上手く動かないからであった。
理由はどうあれ、駆け付けた両親にはこっぴどく叱られ、マネージャーの野口には、ここ一週間旅に出ていた事の理由を問いただされ、良い事など無かった。
けれど、今頃彩華と英二も問いただされているんだろうなと思うと少ししたり顔をした。
幸せになるのだったら、それ相応の代価を払わなきゃね?それに関しては、自分自身も然りである。
そんなベッドの中で、悠治は、彩華のポケットの中に滑り込ませた鍵を取り出すと、横になってそれをマジマジと見つめる。入れ替わりが成功した。これで、悩みはもう無い。
「あ〜今日には退院出来るんだろうか?」
日付けの変わった今、眠れずにいる自分に気が付き今日、奈々子の所に行かなきゃならないと言う事を思い返していた。
「寝なきゃな」
疲れが蓄積されているその身体をベッドに落とす。そして、深い眠りが悠治を誘った。
次の朝のスポーツ新聞。臨時の雑誌は一気に売れた。そして、テレビニュースの芸能界の話題は彩華の騒動で、英二と彩華が実は『出来ていた』と言う見出しが後を立たなかった。
大人から子供まで、その話題は尽きず、一日が過ぎ去る。
実際、英二も彩華も否定しなかった。これから先、どうなる二人なのか?それはこれからの問題だが、取り敢えず悠治はその事に安堵を覚えていた。それから退院した足で、直ぐに奈々子の元に走ったのである。
奈々子は、朝からテレビを点けっぱなしであった。この騒動の裏に、悠治の誘拐事件が絡んでいたと知るのも時間の問題だった。そして、今日解禁出来る生徒手帳を、鍵を掛けてしまっておいた引き出しから取り出すと、ベッドに腰を掛けてその最後のページを見開いたのである。
『前略。奈々子様。うーん。話せばとてつもなく長い事になるし、今の時点で本当の事はまだ言えないんだけど、とにかく一ヶ月後のゲームが終わったら全て片が付くので、その時になったら逢いに行きます。逢って驚くとは思うんだけど、まだ本当の事話して無い事あって……それを話さなければならないなって思ってる。奈々子が良ければ、こんな奴だけど、友人になってもらえると嬉しいなって思う。奈々子以外の女の子に友人がいないからさ……それがこれからの人生のスタートになる。そんな自分を前向きに考えて行きたいから手助けして欲しい。それじゃ……一ヶ月後。悠治拝』
奈々子は最後の行に有る悠治と言う名前に驚きを隠しきれなかった。が、思い当たる節はいくらでもあった。
彩華が悠治であったら、説明が付く事。そしてジェイズが絡んでいた事。
詳しくは彩華がここに来て説明してくれなければ確実に理解をする事は出来ない。でも、彩華が悠治だったら?英二を恋敵としていても不思議では無い。そして、好きだと言っていた相手は多分悠治である彩華だったのであろう。魂が入れ替わっていた?それがどうしてそんな事になっていたのか……そんな事は考え付かないが、漠然と理解した。そして、またテレビに釘付けになる。
この騒動で、彩華は芸能界を引退する表明を出した。この人が本当は悠治だったのか?だから、あの時……『美空学園』に出現した時、あんなに怒っていたんだと想像した。
そして、悠治が病院から抜け出したと言う報道がなされた。
「彩華……ううん悠治はもしかしてここに?」
奈々子があんな身体でここに来るなんてあり得ないと思っていた時、玄関のチャイムが鳴った。
「!」
胸がドキドキと跳ね上がりそうなくらい緊張した。そして、
「はーい」
裏返りそうな声を落ち着かせようとして、奈々子は玄関のドアを開けた。
「ごめん。遅くなって……」
そこに顔を出したのは、まさかの悠治だった。奈々子は目を見開いて、
「え、えっと……初めましてってのも変だよね?彩華。ううん、悠治?」
もう、夕方。赤く染まった陽の光が、悠治の姿を映し出す。
「いてて……」
脱走して来た病院。まだ動ける身体じゃ無いけれど、約束したのだから果たさなきゃ。
「大丈夫?無理するから……」
その身体を支えようとした。すると、
「生徒手帳見たんだね?」
テレビの中の甘い整った顔がゆっくりと微笑む。
「うん、見た。驚いたよ。でも、真実は解らないけど嬉しかった!」
「こんな奴だけど、初めは友人として付き合ってくれるかな?」
「勿諭よ!彩華の……悠治の性格は良く分かっているから!そう言ってくれて、あたしも嬉しい!ここじゃなんだから、中に入って。話を聞かせてよ?」
奈々子は微笑んで悠治を中に誘い入れた。これから訊く事は、きっと誰にも想像出来ない不思議な話。それがどんな事でも、悠治から聴かされる事を素直に訊き入れられる。そんな予感……
「ナナは?」
「今は寝てるよ〜」
遠くで風鈴が鳴っている。夏はまだまだこれから。そして、二人が歩き始める道もこれから……
「私、彩華の……悠治の性格大好きだよ?」
いつだって相手に信じて貰える。それが、一番の特効薬。悠治と彩華の話はこれからもまだまだ続いて行く。
そう。この四人の物語は始まったばかりなのだから。
FIN−
終わりました。
本当にハチャメチャですが、色々な想いの交錯と、行動の果てに有る物が描けて楽しかったです。
今思えば、彩華も悠治も主人公だったんですが、悠治(彩華の中の魂)の方の思い入れが高かった気がします。
女性のあたしにとって、男性側からの意識って難しい視点でしたが、こんなキャラクター居たら楽しいかな?何て思いながら描いた作品でした。
また機会があればこういうハチャメチャなの挑戦してみたいなv
次回は、ちょっとシリアス物を投稿していきたいです。
基本シリアス書きなので^^;
此処までお付き合い頂きありがとうございましたm(--)m
皆さんの心に何かが残れば幸いです。
楽しい恋して生きていければ良いですねv
では、またお会いしましょうvv