#2七年前
7年前。それは、彩華9歳、悠治8歳の七月三十一日の事であった。今でも脳裏を駆け巡るくらいハッキリと思い出す事ができる。悠治の誕生日を次の日と迎えていたのだから。
その時は今のように魂は入れ替わってはいなかった。隣同士の御近所様。そして、同じ小学校に通っていた。彩華の父も母も多忙で、隣の悠治の家の御厄介になっていた。何でも一緒に行動する事で、二人は仲良し姉弟のように、育って来た。
生まれた時からその事情は変わらない。それだけ一緒に接していれば、周りの者達は何も申し分が無かった。彩華の家庭事情を汲む者を考えると、悠治を羨む者がいないとは言えないが……
それでも暗黙の了解のように二人の仲を翻す事が出来ない事だけは事実であった。
そして当時、悠沿は空手を習う為に道場に通っていた。自らの意志と、喧嘩で負けたく無いと言う思いが強かったからである。小柄だけど性格は大変負けず嫌いで荒っぽい。可愛い外見からは想像出来ないけれど。そして、それに便乗するように、彩華も悠治と同じ道場に通っていた。この年頃の女の子としては異例な習い事だったが、慾治と同じく行動するのであれば……ということと、自らも少し身体を鍛えたいと言う思いがあったのかもしれない。
両親は、その意向を飲んで許可した。悠治とは相反して彩華は身体が少し弱い。それならば、こういう経験をしておいても良いかも知れないと軽く考えていたのである。少し自律的に考え方が弱く、自ら進んで行動するような子供では無かった為、それを自分でも何とかしたいなと言う気持ちはあった。だから、毎週水曜日のこの日にいつものように二人は道場に足を運んでいた。
いつもの稽古は別段何も変わらなかった。悠治は、この年で既に全国の少年大会に名前を轟かせる程空手の腕は上がっていた。彩華はそれを凄く褒めていた。自分には無いモノを手に入れている悠治が誇りであったからである。しかし、その帰り道に二人の魂が入れ替わる重大な事件が起こったのである。
帰り道は、いつもの道。何も変わる事の無い道。しかしこの日、悠治はかなりお腹を空かせていた。稽古で体力を使い果たした感じだった。だけど、手許には何か食べ物を買う為のお金は無かった。
悠治の家は彩華の家とは異なり、ごく一般の家庭環境。サラリーマンの父と、専業主婦の母親が、悠治の生れ育った環境であった。だから、渡されているお小遣いは知れている。そして、運悪く今月分のお小遣いは既に底をついていたのであった。
そんな時、ふと道脇の祠に収まっているお地蔵様の前に備えられている団子が目に入ったのである。事実、美味そうに感じられた。何故か引き付けられるように、操られるかのようにフラフラとその地蔵様の前に歩を進めた。彩華は何をするつもりなんだろう?とその悠治の行動を見守っていたが、御供えされている、供物を手に取っている悠治に気が付き、
「何をしてるの!」
と、駆け出して止めようとした。しかし、悠治はその手を払い除け、一個団子をロに放り込んだ。そして、
「彩華〜お前も腹減ってるだろ?食えよ!ほらっ!」
よほどお腹が空いていたのか?少し徹臭い味はしたが、美味しかった。そして、彩華にも一つと思って有無を言わさないように、悠治は彩華の口にまた一つ鷲掴み取った団子を放り込んだ。彩華は突然の事に、その団子を飲み込んでしまった。その瞬間だった。いきなり頭上に……天に黒雲が立ち篭め、雷が二人の下に落ちたのである。
「愚か者め!」
確かそんな言葉が頭を過った。そして、電撃が二人を痺れさせた。死ぬかと思う程のショックが二人を包み込んだ。そして同時に二人は地面に倒れ込んだ。意識を失ったのである。
暫くの間その状態が続いた。すると、再び目を開けた時、そのショック状態から解放されたのである。
「?」
倒れ込んでいた二人は同時に目を醒ました。しかし、二人はお互いを見た時、合わせ鏡を見ているかのように、放心状態に陥ったのである。
「私は、誰?」
「僕は、誰?」
こうして、今の状況下のように二人の魂が入れ替わったのである。