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AYAKA  作者: 星河 翼
15/20

#15彩華V.S岸田

九日目。朝は清々しい一日の始まりだった。奈々子は悠治が来てから初めて一人で起きた。昨日早くに寝たものだから、自然に体内時計が反応したらしい。

「早いね〜奈々子!」

「昨日早く寝たからかな?寝起きが良いよ」

と言いながら、今日学校へ行く為の服をあしらっている。微妙にだけど、昨日とは違ったコーディネイト。それを楽しんでいるのがキッチンにいる悠治にも解る。

「さて、朝御飯も出来た事だし、食べよっか?」

彩華が今日来る。きっと、ここ八王子の駅までは……

いきなり気合いが入る。奈々子との同居生活がここまでになるのか?それとも、最稜まで続ける事ができるのか?そんな事を考えながらテーブルに向う。向き合った奈々子の顔をシミジミと見つめていると、

「何?彩華。顔がにやけてるよ〜あたし変?」

「気にしないで。食べて、食べて!」

元気良く勧める。

「彩華は食べないの?」

「さっき、つまみ食いしたから〜平気!奈々子の食べっぷり見てる方が面白い〜」

「何。その食べっぷりって……」

奈々子がツンっとそっぽを向く。こういうやり取りが面白い。反応は直ぐ返って来るし、素直。初めからこうやって接していればもっと簡単に接する事が出来ただろう。短い間なのに何だか凄く長かったような気がする。それだけこの同居生活が楽しかったのかも知れないと振り返る。

初めは、やりにくい子かなって思った。もっと物静かで……でも、思いっきり叩かれた。嫌いだって言われたよな?今もそうなんだろうか?

嫌われてるんだろうか?

好意は示してくれてるけど、実際口に出して好きだと言われた事など無い。そして、生徒手帳の岸田の顔が頭を過る。

「奈々子さ〜今でも、私の事嫌い?」

「ぶっ!」

奈々子が吹き出しそうになって、悠治を呆れて見返して来た。

「本当に嫌いだったら追い出してるわよ!脳天気なんだから〜そっちこそ、もっと本音で接するくらいしたら良いじゃない!ごちそうさま〜」

全て食べ終わった奈々子は、学校に行く準備を済ませて、ヒョコヒョコと動き回っている。何処までが彩華の本音なのか?何処までが本当の彩華なのか?昨日のやり取りで解らなくなった。

初めはとんでもない性格だと思ったし、冗談も本気だと思っていた。けど本当の彩華はオブラートに包まれていて……奈々子には見せてくれてなかったのかも知れない。だから本気でむかついた。きっと、彩華を本気で受け入れてしまっていたのだろう。

「ちゃんと接するから、まだ、待っててよ」

悠治は奈々子に聞こえないようにボソリと咳く。今の奈々子の言葉で十分だった。


「おはよー!」

奈々子のクラスは騒然としていた。今か今かと奈々子達がやって来るのを待っていたかのように。しかし、悠治がいつものように、奈々子を連れ立って入って来るや否やシーンと静まり返った。

「どしたの?」

悠治はいつもワイワイと集って来る女の子達が、今日はやって来ない事に気が付き、近くに居た子に問いかけた。がしかし、遠慮しているのか拒絶しているのか?手を振って、教室から出て行く。

「何だろう?今日は変ね〜」

悠治は奈々子に耳打ちした。奈々子もこういうクラスメイトの反応は訳が解らなかった。が、

「チャイムも鳴るだろうし、帰りなよ。お姉ちゃん?」

とにかく、今日一日様子を見ようと思った。何事もなければ良い事だし。わざわざこの場所に彩華を止める必要もない。奈々子は席替えをした窓際の席に着くと、にこやかに彩華に手を振った。

放課後、怒濤の乱闘が起こるとも知らずに……


そして、当然のように放課復はやって来る。奈々子は、ホームルームが終わって、鞄に全ての荷物を詰め込み彩華が来るのを待っていた。

しかし、クラスの子達は何だか不自然だ。奈々子に話し掛ける事などなかった今日一日。しかし、放課復のチャイムが鳴り一気にクラスの半分。後で考えれば、男子がいなくなっている事に気が付く事になる。


「桐原さん!」

無気味だった、話し掛けられるのは今日初めてだった。そしてクラスの女子全員が奈々子の席の周りに集って来たのである。

「え?どうしたの?こんなに集まって……」

「お姉さんって、本当は彩華だったのね!」

怒っていると言うより、興味津々な様子だ。

「な、何言ってるのよ〜!んな訳無いジャン。あれは、あたしの姉で……」

言い繕うのも一苦労しそう。

「でもさ?あれは彩華だって!って、学校中の男子が噂しててさ〜今皆、グラウンドに向ってるよ〜」

クラス中がワイワイと騒ぎ始めていた。奈々子はシマッたと思い窓際からグラウンドを見下ろした。

校門から自転車に乗って彩華が入って来ようとしている。それを察した男子がそれを取り囲もうと必死で走りよっていた。

『バレた〜!』でも、なんで?怪しい服装で彩華だってばれる要素なんてなかったのに?

彩華は、自転車置き場に行くと、昇降口に向おうとしているらしい。そして、取り囲む中学男子に気が付いた。

「彩華!バレちゃった〜逃げて!」

二階の窓際から奈々子は必死で叫んでいた。クラス中にその声は響く。もちろん、女生徒もこの事にやっぱり噂じゃなかったんだと、窓際に押し寄せて来た。野次馬とはこういうものであろう。

「あら、バレちゃったの?」

奈々子に手を振りながら、周りの人数に怯まない。もう慣れたとでも言う感じであった。

悠治は、仕方ないとサングラスを外すと、

「腕に自信の無いものは退いてなさいね?怪我するわよ〜?これだけの人数を相手にするんだから、手加減なんてしてられないからね〜んじゃ、ゲーム。スタート!」

忍ばせていたペンを取り出すと、御丁寧に手招きを始めている。その様子に、

「あ〜もう!煽ってるし〜!止めに行かなきゃ!」

奈々子はギェウギュウと押して来る女生徒達を掻き分けて、必死でグラウンドに駆け出した。止めなきゃ!その思いだけで足首の腫れはもう良いけれど、まだビッコを引かないと歩けない。でも、奈々子は必死で階段、廊下をひたすら走った。

周りから見ると急ぎ足くらいのペースかも知れないけど、奈々子にはこれが精一杯だった。


「ダメだよ。こんな事……間違ってるよ……」


奈々子は彩華にそれが言いたくて、この騒動を止めたくて走った。どれだけ時間が掛かっただろう?昇降口で外に出られる靴に履き替える。そこから見える騒動がけたたましく耳に入って来る。

たったこれだけの時間で、悠治はもう三分の一の人数の顔に『×』印を刻んでいる。でも諦め切れない者、まだ乱閲を続けている者達が取り囲んでいた。そんな中に、奈々子は潜り込もうと足を運んだ。

「ダメ!彩華!こんな事してどうするの!何の解決にもならないよ〜!」

叫んでいるのに、彩華にはその声が届いていない。押され、引っぺがされ、奈々子はその輸からはじき出される。

しかし、一人の男子生徒が、

「やめたまえ!僕はこんな事は許した覚えはないぞ!教室に戻るか帰宅したまえ!」

奈々子の肩を引き寄せ、前に進み出る。その人物が、憧れて告白した、現生徒会長の岸田である事は、慣れ親しんだ声を聞いた瞬間で判った。

騒動は、岸田の一声で一時止まった。

そして、岸田はその輪の中に進んで入り、奈々子を彩華の側に連れて行った。

「奈々子!それに……あなたは?」

写真で知ってはいるものの、わざと問いかける。奈々子はこの岸田のことを悠治が既に知っているなんてことを知りはしないのだから……だから敢えて問いかけた。

「桐原さんの言う通りだと僕も思いますよ。こんな莫迦げたゲームはあなたらしくない」

「御親切にどうも……あなたは紳士なのね?」

実は嫌味のつもりだった、僕らしくないってどうして言い切れるんだ?ちょっと癪に触ったから。こんな奴が奈々子の想い人だと考えるとよけい気分が苛つく。でも、岸田の言う事は最もではある。

今、彩華がそんな事を考えているなんて、奈々子は思いもよらなかった。そしてこういう形でまた岸田と対面するとは考える事など無かった。

『やっぱりかっこいいなあ〜』

俯いて奈々子はあのバレンタインデーの事を思い返した。良い事はなかったハズなのに、思いはやはり岸田に向けられている。心の何処かで忘れられないのだろう。感情は、どうする事も出来はしないんだ?止まった乱闘は、三人の方に向けられている。

「僕は、あなたの事に興味が有りました。ここでお会い出来たのも何かの縁ですね?お近づきの印に握手させて頂いてもよろしいですか?」

岸田は、彩華の側に歩を進めると、友好の印とでも言わんばかりに右手を差し出した。そして、二枚目の顔立ちでニコリと微笑んでいる。

悠治は苦々しい思いで、スッと右手を差し出した。その事で、二人の手は繋がれた。

奈々子はその有り様を見て複雑だった。彩華にはこういう態度なのに、あたしにはこういう態度で接してもらえなかった。彩華に嫉妬してしまいそうなその心を封じ込めて見守った。が、しかし繋がれたその手を、岸田は手繰り寄せ、一気に彩華を引き寄せたのである。

「え?」

奈々子は頭の中が真っ白になった。

岸田が、彩華の意表を付いたかのように腰を抱き止めると、彩華の唇を奪おうと一気に迷う事無く唇を近付けたのである。

外野は一斉にどよめく。しかし、その事を予測していたのか、それとも油断を怠らなかったのか?悠治は左手に握りしめていたペンを岸田の端正な鼻の穴に突っ込んだのである。

「あんた、ダサいわよ〜こんな手に乗る彩華様じゃないの〜したたかな事考えて、こういう行為に及んだのは褒めてあげたいけどさ?言ってる事とやってる事が全く違うわねぇ?」   

悠治は『アカンベ』と舌を出し、クルリと踵を返す。

「あ〜あ、そのペン使えなくなっちゃったなあ〜良いよあげるわ!必要無いものね?」

悠治は言いたい事を言うと、奈々子の横に身を寄せようとする。奈々子と言えぱ、複雑な思いでその行為を見ていた。 

自分が好きだった、尊敬していたその人物の本性を見た気がしたからである。そして、身体を強張らせていた。でも、岸田がプライドを傷つけられたと、反撃に出て来たのを見逃しはしなかった

「この僕にこんな恥をかかすだなんて!」

怒りに満ちたオーラが周りを取り巻く。

「彩華、危ない!」

奈々子は咄嗟に声を張り上げたのである。岸田は、悠治の後方から襲い掛かっていた。悠治は、奈々子のその声に気が付いたのか?それとも予測していたのか?

「甘い!」

半身を捻ると同時に、岸田の二の腕を掴み取ると、綺麗な背負い投げが決まった。ドスンと言う地響きで岸田は地面に投げ付けられたのである。

「黒帯持っている私に何かしようなんて思わない事ね。あなたかなりダサイわよ!」

手の平をはたくようにパンパンと手を打つ。その様子を見ていた周りの者達から、ドッという笑い声が上がった。自らの学校の生徒会長でもあると言うのに、この行為は許されない行為だとでも言わんばかりだった。

「さてと、帰ろうか?あ、それともこの岸田君に思いっきり落書きする?」

奈々子の目の前に、真新しいペンを取り出し手を差し伸べた。奈々子はまだ整理の付かない頭で、今の現状を把握しようとしていた。

「いやさ、こいつだろ?奈々子の初恋の何たらって……実はさ、渋谷での乱闘の際、生徒手帳の中身拝借してしまっちゃってたんだな。これが……」

彩華は、鼻の頭を掻きながら答える。

「ごめんよ?こういう形にしちゃってさ……何だか憧れをぶち壊しちゃったよね?」

奈々子はその言葉を受け止めたら、自然と涙が滴り落ちてしまったのである。

「あ、ごめん!泣かないでよ〜」

悠治はどうやったらこの涙を止める事ができるかと悪戦苦闘していたら、

「良いの……もう良いの……これでもう完璧に吹っ切る事が出来たから……」

ポロポロと涙が次々に流れ落ちて来る。でも奈々子は笑おうと必死になっていた。けど、今までの自分を振り返って、大声で泣き始めたのである。悠治はその奈々子の肩を抱き締めて泣き止むまで支えてあげようと思っていた。が、

「わーっ」

という大歓声で、その行為はお預けを食らわされた。頭上の方から、グラウンドから、大きな拍手と喝采が奈々子と悠治に向けられたのである。

「あらま……」

奈々子もその事に目を見はらせた。野次馬の教室から観覧していた女の子達。そして、ゲーム半ばの辺りを取り囲んでいるその者達は、一斉にこの出来事を喜んでいた。

「一気に味方が付いたのね〜何か嬉しいような?悲しいような?」

悠治は、そんな中手を振ってその歓声に答えようとしている。

そんな様子を、校門から入って来た一人の少年に阻まれた。

「彩華!」

叫ばれた自分の仮の名前に、悠治はビクリと身体を強張らせる。

「その声は……」

せっかくの盛り上がりに水を差すその声の持ち主は紛れもなく……と校門がある方角へぎこちなく振り向く。やっぱり、と覚悟していた事を思い出した。

「この声は……じゃないだろう!」

「あ、バレちゃったのね〜にしても良くここが分かったわね?」

周りは、何故ここに?と言わんばかりにその人物を見ていた。もちろん、奈々子も同様である。

「帰るよ!」

耳許で思いっきり叫ばれ、悠治はげんなりして、叫ばれた方の耳に手を押しやった。うんざりとでも言いたげで、その態度にその本人はよけい怒鳴る。


「あれって、ジエイズの悠治だろ?何でこんな所に……」

周りの者達は今度はその事で野次馬状態になっていた。

「うっ。判ったわよ〜良いからちょっと待ってて!」

悠治はとにかく彩華の口上に今は乗れないと、奈々子の方に振り向く。そして、躊躇いがちに、

「ごめん。こういう状態で……私帰らなくっちゃ……二週間同居守れなかったけど平気?」

「あたしならもう平気だよ。ほら、もうこんなに歩く事出来るしね?」

奈々子は強がって思わずそんな事を言ってのけた。彩華の事を止める事は出来たはずだけど、何より自分の目が曇っていた事の反省もあった。だから思わず、涙が溢れて来た。

「でも、彩華がいなくなると寂しくなっちゃうな……」

最後くらい素直な言葉を吐き出しておきたい。もうこうやって逢って話す事が出来なくなる前に。

そんな奈々子の事が手に取って判った悠治は、思わず奈々子の肩を取り、自ら唇を奈々子の頬にあてがった。

「え?」

奈々子は驚きの余り、疑問符が頭をぐるぐる駆け回った。

「じゃあね!」

周りは、奈々子と悠治のその行為にドッと歓声が沸いた。何故こんな事をしたのか、奈々子の頭では計り知れなかったが、そんな奈々子を背にし、悠治は彩華に指図されるように移動を始めた。

「全く……いい加減にしてよ!自分一人だけの身体だとでも思ってるのかよ!」

彩華はブツブツ文句を垂らしている。それを悠治は聴かない振りをした。

もう、奈々子には会えないだろうか?ただそれが気掛かりで、聴かない振りというにはちょっとばかり意味合いは違うけれども……

そして、ハッと思い出した。

「奈々子〜!」

再び奈々子を振り返ると大きな声で呼び掛ける。

「え?」

奈々子は未だに、さっき彩華がした行為に慌てていたが、

「守れる約束!って物があったら守る?あ、守ってくれる?」

「約束?」

「そう。絡対に守って欲しいの!奈々子なら守れるって信じてる!生徒手帳の最後のべージなんだけど〜八月一日に見て欲しいの〜!絶対にそれまでは見ないで欲しいの!そしたらまた奈々子に逢いに来れるから!それと、ナナは預かっておいてね。あ、鍵は私が持ってて構わないかな〜?」

悠治は、大声でそう言うと後ろ髪を引かれる思いで奈々子を見ている。奈々子はその様子が彩華なりの嘘の無い真剣な言葉なんだと思い、

「うん!判った〜絶対に約束は守るから!任せて!ナナの事も、鍵の事も許す〜!」

その言葉を受けた彩華は、ニッと小狡そうに微笑むとウィンクを投げかけた。

そのちょっとふざけた所は彩華のお得意の行為だと分かっているけど、奈々子は何だか嬉しかった。

そして、校門の所に止めてあるタクシーの中に彩華と悠治は消え去っていく。奈々子はいつまでもその後を見送った。周りに学生がいなくなるそれまで、ずっと。


奈々子はこの彩華との約束を守る事になる。岸田の写真は破られるが、ラストのページにだけは決して手をつけなかったのである。彩華との約束を破る事は無かった。


タクシーを降りた後、彩華と悠治は直ぐさま地蔵がある場所に共に向った。そして、お互い今後の事を話す算段を立てるつもりであった。

そんな中、不機嫌な彩華とは裏腹に、悠沿は上機嫌で冗談を繰り返していた。

「何、そんなに不服そうなのさ?もしかして、奈々子に妬いてんの〜?」

悠治は、もう彩華の事は友人……幼馴染みの一人としか思ってなかったから堂々と言える言葉である。

「あんたがどうなろうと私の知った事じゃないわよ!ふざけないで!でもその体は私の物なのよ。少しは考えて行動してよ!」

「へいへい〜で、僕にどうしてもらいたい訳?それに良く解かったな〜あの場所にいること。探偵でも雇ったのかい?」

悠治はしらばっくれるだけしらばっくれるつもりだろう。はぐらかすのはこの悠治の特技なのだから。

「え、英二がかって出てくれたのよ。そうしたら、悠治の居場所を突き止めてもらえた」

「彩華ってさ、何でそんなに依頼心しかないのさ〜はあ〜英二も大変だったろうに……」

呆れるしかする事が出来ない。自分で調べる事も出来ないのか?

「私だって自分で足運んで捜すつもりだったのよ。でも、試験はあるし仕事だってあるし……」

こうして客観視してみると、本当に言い訳大王だなあ〜と思える。悠治は彩華のそう言う所が苛立たしい。今までもそう言う所があったけど、その時は自分がどうにかしてあげていた。今度は英二か……大変だぞ?ちょっと英二に同情する。

「で、英二から告白されたって?」

話を擦り変える。今さらこんな話をしてもこの彩華を変える事なんて出来はしない。

「あ、うん。そうなのーどうしたら良い?」

英二は悠治としての彩華を好きなのだろうか?それとも、男としての悠治が好きなのだろうか?その点を知る必要がある。これは、今後の彩華と悠治の問題だ。

「そうだなあ〜僕が悠治に戻った時そのままになってしまったら困るものなあ〜」

そう。それが一番の問題。仕事相手が自分に好意を持ってしまったら仕事所じゃない。

「なあ〜こういう事って出来るかい?」

「何?良案が浮かんだ?」

少しは頭を働かせっーてのっ!て毒づきたいが、自分でもそう良い案は浮かばないなら、なおさら彩華には無理だろう。

「今日、僕(彩華)の両親に逢ってこう言ってくれるかい?彩華は近くのマンスリーマンションに越すからその横に悠治をあてがって下さいと」

「で?」

「とにかく、こういう事態だ。僕(彩華)の両親は納得すると思う。どうせ、自分で引き起こした事態だ。自分で解決するだろうと思うだろう?あの両親だし」

「うん。で?」

「僕は変装して、ジェイズの元で働く。決して彩華だと言う事を悟らせないし、悟られるようにはしない。下働きでも良いからね。その辺りは彩華がちゃんと事務所に掛け合ってもらい、手はずを整えて欲しい。それくらいは出来るだろう?出来なくてもしてもらわなきゃ困るんだけどね。で、英二には、僕が彩華だとちゃんと知っておいてもらおう」

「うん、うん」

彩華はただ、悠治の言っている事に頷くだけだった。

「彩華と悠治は何の関係もない。英二は彩華みたいには鈍く無いらしいし?そしてある程度の見聞をしてもらえればそれだけで良い」

「でも、英二は私が悠治を好きなんだって思っているんだよ?そんな事可能かな?」

ここまで来て彩華はハッと思い出した。悠治は恐竜並みに判断が遅いぞと突っ込みたい気分だ。

「そう。そんな事思ってるんだ英二は……」

彩華と悠治を取り違えているにしても、やはり英二は結構勘が鋭いなあと思った。

「でも私は、ちゃんと否定しておいたけどね」

「あっそ……」

今まで彩華を甘やかして来た自分が情けなくなった。何でこんなに鈍いんだろう……率直な言葉にしか反応出来ないなんて。

「でも、まあ〜僕が彩華に好意を持ってないと知る方が良いだろう?初めからそんな気があったら、とても出来ないぜ?下働きなんて……それに、僕の性格が解れば英二だって何かしら考える所あるだろう?それに僕としても、これから先英二とは仕事を共にしなければならなくなるだろう。解るかい?今の内に相方の事を知る必要性があるんだ!」

それがいつかは教えてやらないけどね?心の中で思いっきり舌を出してやった。このくらい覚悟してもらわないと、今までの自分を否定する事になる。

「あ、英二と二人きりになる事があったら、僕が上手い事仲裁に入るよ。彩華には対応しきれないだろうからさ?」

「そ、そうだよね?判った。とにかく私がしなければならない事は……今夜、私の両親に掛け合って今の事を話してみる。で、事務所には悠治の仕事をあてがうように話を通す。それで良い?」

何となく納得している彩華に、

「じゃあヨロシク!僕は今日、近くのお寺の片隅にでも宿作って寝るよ〜ば〜い」

こんな風に一方的に話は纏まった。

「あ、それから僕の携帯取って来て欲しいんだ。それも宜しくな!」

こうして二人の密談は終わった。明日からは、新生活が始まる事になる。そしてこれが、悪夢への始まりになるのであった。


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