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学園戦記  作者: 機場 環
序章
1/4

出逢い

桜を始め、色とりどりの花が咲き乱れ、池では鯉が泳ぎ、鹿威しが風流な一定のリズムを奏でる、厳かながらも豪華絢爛で広大な日本庭園。その池に掛けられた橋を渡り、飛び石に導かれるように歩いたところに、その城は圧倒的な存在感を誇って聳え立っていた。しかし城と言っても、そこには名のある武将も、高貴な姫君もいない。何と言ったって、今は21世紀。そしてこのお城は最近、建ったばかり。


国立文武育成学校、人よんで、戦国学校。冗談のようだが、お城のような外見の校舎なのだ。勿論、その構造はお城とは違い、鉄筋コンクリートで出来た頑丈なものであるが。


この、戦国学校とは、名の通り勉学だけではなく、若者の武術を鍛錬する学校である。何故平和主義を唱う我が日本が、武術を重要視した学校を造ったか。理由は“人間育成”の為である。不況、就職難、あらゆる社会の試練に堪えることの出来る屈強な精神力を、今の若者には求められている。その為にこの学校では、武術を通じて屈強な精神や身体をつくる。そしてこの度開校と同時に、俺を含め五百名、中学校を卒業した十五歳から十八歳までの生徒が、筆記、面接、実技の試験を通過した上、第一期生に相応しい者たちとして集められた。


そんな戦国学校の前で、俺は今、入学早々前言を撤回することになったらしい。何故なら、俺は見たのだ。


ーーーこの城の前に佇む、麗しく高貴な姫君を。


姫君とは言ったものの、当時の麗しい姫君のように、ふくよかで糸目で麻呂眉なんてことは無い。俺の感性において、現代に姫君がいたらと想像するものに、その美少女はぴたりと当てはまっているのだ。


爽やかな春の風に靡く、異様に長いにも関わらず異様に綺麗な黒髪。髪とは対照的に真っ白な、白磁のような肌。近くで見ずとも分かる程に長い睫毛は最早、重たそうと言っても良いだろう。物憂げな黒目がちの瞳は、一体何を写しているのだろうか。勿論、彼女は本当の姫君では無い。彼女は、この学校の制服…和服とセーラー服を混合させたような、独特な制服にその華奢な身体を包んでいるのだから。


俺は思わず、その女子生徒に見惚れてしまった。時間が停止したかのように、俺の思考は働くの止めたらしい。まるで、その女子生徒に全ての神経を奪われたかのようだった。故に、女子生徒が此方に気付いたことに、俺は気付くことができなかった。彼女から見ると、俺は無意味に凝視してくる不審者のようだっただろうか。

それにしても。


「何を見ているんだ其処の阿呆面。喧嘩なら喜んで買おう。」


なんて、彼女の紅を指したような紅く可憐な唇から、そんな言葉が俺を攻撃しまいと飛び出てくるとは夢にも思わなかった。




これが、太原 雪斎(たいげんせっさい)と名付けられた俺と、我が君主、そして俺の高校生活最大の苦悩の原因となる女子生徒、今川 義元(いまがわよしもと)との出会いである。

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