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7. リゼラの相棒

お待たせいたしました。

  

  

 後ろで高く結った彼女の長い金髪が風の揺れている。寝る前などは髪を下ろしているが外の出るときは邪魔にならないように結い上げているのだ。ちなみに今の時刻は夕暮れ時である。


「 またここを離れるのかぁー……今度は多分長いだろうなぁ 」


 リゼラは任務に必要な物を揃えるために町に降りてきていた。彼女たちの住む町の名前はワーゼンブルグ。協会本部、もとい教会本部があることで有名だ。

 実をいうと、すでに必要な日用品、道具は揃えた。彼女がまだ帰らないのはいつもの鍛冶屋に寄るためである。愛用の武器の刃がところどころ欠けていたため、新しく刃を取り換えてもらっていたのだ。


「 すみませーん!! オッズさん!! お願いしたものを取りに来ましたー!! 」


 建物の中からは相変わらずの熱気と、鉄を打つ音がひっきりなし伝わってくる。リゼラは負けずにのれんを上げて声を張った。すると音の一つが止み、中からは中年の大柄な男性が首にまいたタオルで汗を拭いながら顔をのぞかせた。


「 おぉ? リゼラちゃんか!! 調子はどうだぃ? 預かってた武器、ピッカピカにしておいたぜ! ちょっと待ってな! 」


そう言うと、彼はまた奥に戻って行った。リゼラが慣れたように中に入ると奥の部屋からは職人たちが鉄を打っている様子が見える。オッズはそこからずっしりと重そうな木箱を抱えて戻ってきた。


「 んっしょ……ほい! おまちどぉ!! 」


 近場のテーブルに置かれた箱の中には、リゼラの二対の剣が抜身のままに納まっていた。その長さはちょうど彼女の腕の長さほどで、銀のつかには握りしめやすいよう滑りどめの革を巻いてある。

剣を手に取ると慣れた重みが手になじんだ。


「 ぅわは……! ありがとうございます! とても綺麗になりました 」


「 いやぁ、こちらこそいつもありがとうよ。 又どっか行くのかい? 」


「 はい。 ちょっと遠出になりますが……。 発つのは二週間後なんです。 でもいつ帰ってこられるか分からないんですよ 」


それを聞いたオッズはそうなのかい、と残念そうにしたが、また少しだけ待つように言ってから先ほどよりもかなり小さい小箱を取り出してきた。


「 これ、使いな! 刀身に塗りこむとっておきの油だぃ。 これ使っときゃあ長持ちすっぞ! サービスしちゃる 」


「 え! でもそんないいもの頂けな… 」


するとオッズは片目をつもりチッチッと指を振った。


「 武器は相棒、だろう? 相棒にはとっておきを使ってやらにゃあいかんよ 」


そう言って二カッと笑った。


『 いいかい? リゼラちゃん。 武器は相棒! 半身だ。 確かにお前さんは魔法で何とかできるかもしれないが、武器は直接手で手入れすることで武器自体の変化をじかに感じることが出来る。 だから自分の手で手入れするのを怠っちゃあいけないよ 』


初めて武器を預けに来たとき、そう言われた。武器は相棒、なのだと。

鍛冶屋は壊れた武器の買い取りも行っている為、色々な客が来る。その中にはちゃんと手入れをしてやればずっと長く使えるものをそれこそ使い捨てのように扱われるのを見ると、鍛冶屋の者は肩を落としたくなるらしい。

魂をこめて鉄を打つオッズは、たとえそれが殺しに使われることがあっても、むしろだからこそリゼラにはそんな風に扱ってほしくないと願ったのだ。

おかげで、彼女とその武器は長年の付き合いとなり、良き愛刀、相棒となっている。

 リゼラはその二対の剣を背中と腰の後ろの鞘におさめ、ちょうど手のひらに収まるその小箱を受け取った。


「 ありがとう、オッズさん。大事に使います 」


「 おう、そうしてくんな! 」


そうしてお代を払い少しばかり世間話をした後、リゼラは熱気と音に背を向けて鍛冶屋を後にしたのだった。

が、まだ彼女は本部に帰る気はない。実は先ほどから受け取った相棒を振りまわしたくて仕方がないのだ。

 日はとっくに沈んだが、リゼラは人目のつきにくい空き地に入った。幸いなことに、もともとこの時間帯は夕飯の頃合いなので外に出る人自体少ないのである。

 ほどよいところで立ち止まり、しばらく瞑想する。そうして意識を集中させ、深呼吸をする。

やがて周りの音が消えたころ、目の前に敵をイメージする。

 そして。


「 …………。 ――――――はぁっ!! 」


一拍置いたのち腰と背にあるつかを握り、左右から得物を引き抜き前方に斬る。そこから遠心力を使って、威力を殺すことなく流れるようにしなやかに剣をふるう。この時、利き手である右手には普通に剣を握っているが、左手の剣は逆手に持つのが彼女流なのである。


「 …………っ。 また、師匠に稽古付けてもらいたかったな…… 」


ぽつりと残念そうに呟く。

 二本の剣は幼い頃にディートから贈られたものだった。いずれ任務に必要になるからとのことだったが、最初はあまりの重さに持ち上げるだけで精一杯だった。まだ小さいから仕方のない事だったが、リゼラはいつか自在に操りたいと思い続けた。

そして必死に鍛錬を繰り返し、時にはディートと剣を交えあった結果、リゼラは己の剣を確立していったのだ。


「 ……っ! ――――――はぁっ!! …………。 ……うん? 」


思う存分に剣をふるった頃、ちょうどこちらを見る気配があった。

あまり人目につかないと思っていたのだが。


「 あ。シャンテ? 」


 振り向くと、何やら買い物の紙袋を持ったシャンテが不思議そうにこちらを眺めていたのだった。


 

 

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