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幕間1 ちょっとした隠し事?

いつもより多めです。

  

  

  

「 失礼いたします。 ユンファ様 」


「 あぁ、セレーヌ! どうぞお入りなさいな 」


 ドアを2、3回叩き扉を開けると、神聖な装束を着た20代くらいの女性が中に招き入れた。

先ほどリゼラ達との会議を終えたセレーヌは今、別棟にある巫女長ユンファの部屋を訪れている。


「 お加減はいかがですか? 」


「 何も問題はないわ。 ディートはまだ来ないようね 」


「 そのようです。 言ってやりたいことがあったのですが 」


「 言いたいこと? まあ。喧嘩でもしたの? 」


「 いえ。 きわめて個人的な話ですが、私の気が済まない、とでも言いましょうか……とにかく言ってやりたいことがありまして 」


久しぶりに帰ってきた友人には積もる話もあるのだろう。そう、とだけ言いユンファは自分がずっと気になっていたことを聞いた。


「 それで……、今日彼女に会ったのでしょう? 彼女は……元気にしていたかしら 」


 ユンファは窓辺に腰掛け、後ろに二つに束ねている淡い水色の髪をなびかせながら、案じるように目を細める。彼女はそれを聞きたいがためにセレーヌを呼び寄せたのだ。


「 はい。 元気な様子ではありました。 ですが、どこかの誰かが心配をかけているせいで気を落としているようです 」


「 まあ。 犯人は言わずもがな、ね。 全く、私は彼女の昇格時くらいにしか会えないというのに。 甲斐性なしですこと 」


――――――コンコン


 ノックがした。

扉を開けて、失礼します、と中に入る見てくれの若い人物に対して、二人は同時に半眼になる。


「 ……な、何でしょう 」


「 噂をすればなんとやら……ね 」


「 全くです 」


言われた当人は向けられた視線の意味を問いたいような問いたくないような気がしたのでとりあえず咳払いした。


「 ――――コ、コホン。 ただ今参りました、ユンファ様 」


「 ……はぁ。 ま、いいでしょう……。 どうぞこちらに、ディート。 あなたに渡すものがあります 」


ため息をついた後、ユンファは細長い木の箱に入った黒い布を取り出し、ディートに手渡した。


「 これは…… 」


「 そう。 あなた専用に作らせた眼帯よ。 ちなみに私の気を組み込んであります。 呪いが強力な闇人の気で構成されているなら、彼の神の加護を受けている光の気で、進行を遅らせる事が出来ると思ってね。 使う使わないは自由よ 」


 気術は光と闇の『気』のバランスが重要であり、高度な術を使える者が施せばその術を構成した気の均衡を破ること自体難しい。崩す側もそれなりの力を持たなくてはならないのだ。もしうまくいけば、術を破ることが出来る。


「 ありがとうございます。 有り難く使わせていただきます 」


しかしユンファはこれだけは、と釘を刺す。


「 くれぐれも大事な者たちに心配をかけないように 」


「 ……はい 」


目を伏せて反省した様子のディートを彼女はとりあえず許してやることにした。が。


「 そういえば、あなたはセレーヌに何かしたのかしら? 」


「 え? いいえ何……も? 」


心当たりがないディートは答えながらセレーヌの方に振り向くと、口元をひくつかせている彼女に睨まれた。


「 ほう……私には少しばかり驚愕の事実だったのだがな 」


「 …………な、何が? 」


ディートは笑顔を保ちつつも、彼女から発せられる冷気に若干おののいた。


「 お前本当に38なのか? しかもなんだ7歳も詐称って! 驚いたぞ! 初めに聞いたとき同い年と言っていたではないか! 」


「 な……何故知って…… 」


「 他にはうまく隠していたようだがな。 年齢ごとき私にも隠す必要はあったのか? 偽りがこのままばれないと思ったわけではないだろうな…… 」


セレーヌはこめかみをもひくつかせていたが、不意に真面目な顔になり、言った。


「 別に深く聞くつもりはない。 隠したいのなら別に構わない。 だが、だいたいお前はいつもそうだ。お前は自分の事を聞かれるとすぐはぐらかす 」


セレーヌの言葉にディートはふっと困ったように笑った。


「 ……騙すつもりはなかったんですよ? 」


「 当たり前だ。 故意に騙されてたまるか。 ただ私は、お前の話をお前の口から聞きたいだけだ 」


自分は彼を信用している。時には自分と同じくらいの強さと志しを持つディートと共に仲間として任務に参加することもあった。この者になら戦闘になっても背を預けられると信頼していたが、いつも彼自身の事を聞くと曖昧にはぐらかされてきた。あまり言いたくないのだろうと特に気にしなかったが、年齢と見た目の差は他と比べて不自然に思っていたのだ。体質なら仕方がないが、そこに理由があるならば彼から直接聞きたいと思っていた。彼自身を何も知らないのに友人とは名乗れないとセレーヌは真面目にもそう思っているのである。


「 そうですね……。 おそらく君も想像はついているかもしれません。 ユンファ様は知っておられますが 」


セレーヌがユンファを見ると、ユンファは頷いた。

巫女長の彼女なら知っているだろうと思っていた。だが、彼女に聞かなかったのは先述の通り、あくまでも彼の口から聞きたかったからだ。


「 私は、光人の母と闇人の父との間に生まれた。 最も二人はすでに亡くなりました。 姿が同世代よりも不自然なほど若く見えるのはそのせい、という訳です 」


まぁ世の中にはいくら年をとっても若いという人はいるから誤魔化せると思ったのは事実だ、と笑った。


「 …………すまない 」


「 いや、何もあやまる必要はない。 私自身はもう、他とは違う容姿をとっくの昔に受け入れているのだから。 今まで余計な争いを避けるためにはぐらかしてきましたが……気づかないうちに人間関係に臆病になっていたらしい。 ずっと偽っててすみません 」


 セレーヌは、ただ本当に信頼した相手に偽られたままなのが嫌だっただけなのだ。

すまない、と思わず謝ってしまったのは彼の領域に踏み込んだ質問をしたことに少しの罪悪感を抱いたから。

それはただの偽善だと彼女自身思ったが、聞きたかったのだから仕方がないと彼女は密かに自嘲した。


 一般的に見て、闇人と光人が一緒になることは珍しくはないが数が少ない。元々持っている気の性質が違うために、どうしてもどこかでお互いの線引きをしてしまうのが性だ。ディートの両親のように当てはまらない例もあるが。

その線引きはほとんど無意識化で行われるため、その事実を知る者は知るが、知らない者は知らないのである。


さらに言うと、生まれた子が二つの属性の特徴を受け継ぐ者は珍しく、好奇の目で見られることもある。残念なことに場合によっては異端と扱われることもあるのだ。今は彼自身の実力もあって特に気にする者はいないが、恐らく昔はそうではなかっただろう。

 

 ディートの場合は、闇の緩慢な性質と、闇よりも物事の流れがはやい光の性質を継いで、中身は光人と変わらないが、外見上は闇人のように中々歳を取りにくいという現象が起きているのだ。


「 本当に、諍いの種は蒔きたくなかった、それだけなんです。 すみません 」


「 ……お前があやまるな。 あやまるなら私の方だ、すまな… 」


――――――――パンパン


「 はい、そこで終わり! 」


 手を叩いて、互いに謝罪ループに迷い込んだ二人を止めたのはユンファだった。


「 あなたたちどこまであやまり続けるの? もうそこら辺でおやめなさいな 」


「 ユンファ様…… 」


「 セレーヌ、言いたいのは謝罪? ちゃんと全ていいなさいな 」


「 ――――っ! 申し訳ありません。 …………ディート 」


自分よりも年下のユンファに背を押されっぱなしのセレーヌは、自分で情けないと思いながらも少し嬉しかった。


「 ……何でしょう? 」


互いに少しの気まずさを漂わせたが、セレーヌは意を決した。


「 ……私はおまえの友だ、同胞だ。 だが、お前自身を知らずにそれは友と言えるのか? 私はお前の実力を知っているが、それは目に見える上辺の事だ。 そしてお前の性格も理解している。 だが、観察のみで物事を知ったところで、それは一方通行の事実に過ぎない。 それでは何と言うか、寂しいじゃないか 」


「 …………っ! 」


 はっと目を瞠り、ディートは己が無意識に壁を作っていたことに気が付いた。

リゼラ達に紹介する際、『お友達』と紹介しようと思ったが、なぜ彼女に否定されたか分かった気がした。

恐らくだが、自分自身の事について何も語らない者に、友と言うのはばかられる、のかもしれない。


「 ……全く、幾つになっても学ぶことが沢山ある。 先が思いやられます 」


「 安心しろ、光闇問わずそれが私たち人間というやつなんだろう。 それに私たちはほとんど力技専門だからな。 ……もう忘れるなよ 」


ディートは目を伏せて苦笑した。


「 はい、忘れません 」


 その場にあったわずかな気まずさはなくなり、和解した様子の二人を見てユンファはほっと安堵した。一番頼りにしている二人がぎこちないままでは、こちらも悲しくなってくる。


「 さぁ、これで話は以上ですね。 眼帯、確かに渡しましたよ 」


「 はい。 御前で申し訳ありません 」


「 構わないわ。 セレーヌも、大丈夫ね 」


「 はい。 ありがとうございます 」


ユンファは満足げにほほ笑んだ。これでひとまず一件落着だ。


「 二人共、くれぐれも自分を大事にすること。 彼女たちの事、よろしく頼みましたよ 」


「 御意に 」


◇◇◇



 数時間前、七階層の会議室にて。

ディートとセレーヌは四人が来るのを待っていた。


『 引き受けて下さってありがとうございます、セレーヌ 』


『 あぁ、問題はない。 だがお前のその目はやはりだめなのか? 』


ディートは残念そうに目を伏せた。


『 そうですね……あとどのくらい持つのやら。 ですが、世界がおかしくなっているこの時に構っていられません。 人々は不安に思っている。 それに、もしあの子が全部背負わされる事になったら…… 』


ディートはとある弟子の一人の事となるとこうも弱気になる。過保護ともいうが。


『 安心しろ。 ユンファ様はそれを良しとしていない。 長老衆とて、彼女を憐れんでいる。 それに、お前の弟子たちはお前が不在の二年で成長している。 きっと大丈夫だ 』


『 そう、ですね。 信じましょうか、あの子たちを。 無事に帰ってくることを。 例えその時に私がいなくても、ね 』


それを聞いたセレーヌは眉根を寄せた。彼はこういう時後ろ向きになる。ネガティヴ思考なのだ。


『 それは根性で乗り越えて見せろ。 お前が弱気ではどうしようもない 』


『 はは、それもそうですね。 気合を入れます。 ……いろいろとありがとう、セレーヌ 』


セレーヌはふっと笑った。もとより、この自分よりも有能かつ人望の厚い男をみすみす死なせるのには惜しいと思っている。任務の傍ら、独自で術についても調べてみるつもりだ。だから。


――――――――簡単に、死ぬなよ


セレーヌは心の中で、彼に激励を贈ったのだった。



   

友情に年齢も性別も種族も関係ない。そんな風になりたいけど現実では中々難しいと自分は思っています。でも意外と考え方次第なのかもしれないですがね(笑


それにしても本編より幕間の方が文量多くなってしまった……次回は通常運転ですw  

よろしくお願いします。

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