5. 新しい仲間
話は以上となり、あとで専属サポーターとして医療戒士がパーティーに加わるからよろしく、とだけ言い、ディートは笑顔を残してすぐに部屋を出て行ってしまう。
取り残されたリゼラ達の間には気まずさが残ったが、それを破ったのはセレーヌだった。
「 さて、今日から君たちにつくことになったわけだが……最初に言わせてほしい 」
これは個人的な話だと前置きした。四人は気まずさを掻き消して居住まいを正す。
「 実際……彼はあぁ言っていたが、私は彼の命を助けたいと思っている 」
全員が目を瞠った。
構わずセレーヌは続ける。
「 彼にかけられている呪いは医療戒士や神仕戒士には手におえない強力なものだ。 せいぜい進行を遅らせる程度が関の山 」
だから、と続ける。
「 私は君たちとは違うルートで調査をしようと思う。 もし可能なら、任務の片手間に色々と調べてみるつもりだ。 ……もし、君たちが何かしら情報を掴んだその時は…… 」
「 ……! もちろん、すぐにお知らせします。 いえ、是非協力させてください! 」
それは彼が彼女たちに望まなかったこと。彼は自分の事よりも世界を託した。
…………だが。
全員その気持ちは一緒だった。それぞれの顔を見ればわかる。もともと、自分たちは師を助けたかったのだから。
「 分かった。 ありがとう。だが、これはあくまでも任務のついで、だ。 パーティーの最終目的はこの重要任務の達成。 ……まぁそういう訳で私自身ずっと君たちと一緒にいることは出来ない。 だがまとめ役の任は果たさなければならないからな。 そこでだ 」
セレーヌが何かを呟いた。
すると、彼女の影から生まれるように二つの姿が現れる。
「 他にもいるが……私の精霊たちだ。 名はファイナ、ライナという 」
それは形の定まらぬ水を形にした様な姿だった。
その色は青空を映した海の色で、片方は濃い青のリボン、もう片方は薄い青のリボンを付けている。どちらも幼い少女を模したようなそれはそれは愛らしい姿である。
…………色が全体と一体化していてどこにあるのか分かりづらい口を開くまでは。
「 ちょっと! ボケッとしてんじゃないわよっ! あいさつくらいしたらどうなのよっ!? 」
「 ファイちゃん!! いきなりそんなこと言っちゃだめだよぅっ! いちおう初対面だからねっ!? 」
「 …………お前たち 」
――――――――しん。
リゼラ達は一斉に凍った。
何とも予想を裏切ってくれた第一声だろう。愛らしいと思った感想を返せ。
その心の声を察したのかセレーヌは気を取り直して説明を続けた。
「 ……こほん。 ファイナが濃い青のリボン、ライナが薄い青のリボンをつけている。 ……お前たち、頼むから少しの間だけ静かにしてくれ 」
「 え――、でも主さまぁ――…… 」
「 よし、わかった、後で菓子をやろう 」
「 ぃやったあぁぁぁ!! 」
その勢いに表面張力のようなファイナの体がタプンと大きく揺れ動いた。
四人は、釣った……?今釣った……?などと数々の言いたい言葉を飲み込み、話の続きを待っている。
口は災いの元だ。
「 彼女たちは双子なんだ。 どういう仕組みか分からないが二人はどこにいても意識がつながっている。 私はこの二人に通信役を任せようと思うんだ 」
それは、つまり……
「 この、どちらか片方をこちらに同行させる、と? 」
そうだ、とセレーヌは頷く。
ふと四人の目があった。互いに特に話す事はなかったが、ただ頷きあい一斉に指差した。
「「「「 こっちがいいです 」」」」
全員の指がライナを指している。
「 ほぇ、ライナ? 」
「 っんな! アンタ達そろいもそろって失礼ね!! 」
別にいいけど!とファイナはあさっての方を向いて頬を膨らませている。セレーヌは苦笑して、そうなるだろうと思った、と呟きファイナをなだめていた。
「 この子もいい子なんだがね。 ライナ、それでいいだろうか? 」
「 はい、了解ですぅ。 ライナは皆さんについていきますぅ 」
ぺこりとライナは頭を下げる。リゼラ達も軽くあいさつを交わす。
「 こちらこそよろしく 」
「 では決まりだな。 お互い頼んだぞ。 くれぐれも優先順位を忘れるなよ。 あと、無茶はするな。 ジルという人物にも気を付けること。 いいな?」
「 了解! 」
どうやらセレーヌは頼りになる人のようだ。第一印象が厳しそうに見えたのはきっと誠実さの表れなのだろう。自分たちと同じ意志を持っている上に、しっかりとまとめ上げている。
それに精霊を複数使役しているとは師匠と同じ特士なだけある、と思ったところで自己紹介の年齢の話がリゼラの頭をよぎる。先ほどは驚いたが、実は疑問に残っていた事があった。
「 そういえば……セレーヌさんは、31歳とおっしゃってましたね 」
「 あぁ、奴と同じだ。 ……それがどうかしたのか? 」
「 いえ、…… 」
言い出してしまってから思ったが、本当に言ってもいいだろうか。師匠はあえて訂正しなかったのかもしれない。リゼラは迷ったが、誤解のあるままだと気になって仕方ないので、告げることにした。
「 セレーヌさん。 少し訂正が 」
「 ん? なんだ? 」
「 師匠は38のはずなんです 」
「 ………………え? 」
セレーヌは何を言われたか分からなかったようだ。
気持ちは分かる。彼は顔が若いため軽い詐欺のようなものなのだ。
だから、今度ははっきりともう一度告げる。
「 師匠はセレーヌさんと同い年ではありません。 自分は彼に、赤子の頃からお世話になってますから 」
「 …………つまり……? 」
「 自分は今17ですが、師匠は21歳の時に私を拾ったと言っていました。 なので…… 」
そこでハバートが合点のいったように手を叩く。
正確な年齢はディートが自分の年齢についてあまりこだわらない為、リゼラ以外知らないのだ。
「 あぁ、その計算で行くと先生14でリゼラを拾ったことになるな…… 」
それはさすがに無理な話である。
セレーヌは愕然として呟いた。
「 なん………だと!? 」






