3. 予想外
七階層の部屋は比較的地位の高い者が使用できる部屋となっている。
組織の中でもディートの弟子である彼らも一級戒士というそれなりの地位に就いているが、それは彼の弟子だからだけでなく、彼ら自身の実力が本物であり、それを周囲に示し尚、周囲もそれを認めているからである。
七階層へと続く螺旋階段をアニエスと共に先頭に立って昇っているリゼラは感慨深げに呟いた。
「 私たちがこうしてこんな高い場所に来られるようになったのは、やっぱり師匠のおかげだよね 」
「 まぁ、そうだな。どうした? 急に 」
「 うん。 師匠が帰ってきてくれて良かったなぁって 」
「 まぁ、お前らは親子みたいなもんだからな 」
苦笑しながら返すアニエスに笑ってそうだね、と答えた。
ふと、後ろから視線を感じたが、見るとシャンテとハバートは何やら会話している。
気のせいだと思い何事もなく足を進めると、七階層に着いた。結構な距離があるが、体力的に問題はない。これでも常日頃より鍛えているのだ。
踊り場から見た廊下は立ち入りが制限されているだけに人はいない。指定された部屋に入る。
が、中に足を踏み入れれば己が師匠と、彼と同じ特士の服を着た見知らぬ女性が話していた。
思わず足を止める。
その女性はディートの焦げ茶色の髪とは違い、綺麗なクリーム色の長髪をしており後ろの下、ちょうど腰の辺りで束ねている。さらに目鼻立ちが整っていて立ち姿もすらりとしており、紛うことなき麗人である。ただ、大変姿勢もよく、顔立ちもきりりとしている為、若干厳しそうな印象を受ける。
……だがこの女性……もしや。
「 あぁ、リゼラ。 皆も来たようだね、ご苦労さま。 わざわざ七階層まで来てもらってすまない 」
リゼラ達に気が付いたのかディートが声をかけ、部屋の中に招き入れた。
失礼します、と言って中に入る。その時に、少し女性に驚いたのかシャンテが歩みを遅めたように見えたが、何事もなかったようにリゼラ達と並んだ。
「 リゼラ、アニエス、シャンテ、ハバート。 全員揃いました 」
一通り号令をかけると、ディートが頷いた。
「 うん。 了解した。 ……突然で悪いんだが実はお前たちに紹介したい人がいる。 この人なんだが…… 」
ディートが女性を紹介しようとすると、その女性は複雑そうな顔で、「 いや、自分でする 」といい、彼を遮って前に出た。
「 自己紹介する。 私はセレーヌ・L・ローン 」
その声色は少しハスキーな美声だが、思ったよりも少しだけ親しみやすさを感じる。全員の彼女に対する第一印象が変わった。
「 ディートと同じ特士だ。 数年前までは本部の現巫女長の護衛を務めていたが訳あって支部に移り、つい最近本部に戻ってきた。 歳は……これも、ディートと同じ31。 そうだな……趣味は読書。 ジャンルは問わない。 が、あまり恋愛小説は好まない 」
澱みのない自己紹介にリゼラ達の顔には驚きが浮かんでいる。
( 巫女長の護衛!? )
( 31か。美人だなー )
( というか、恋愛小説好まないって情報はいるのか? )
……何に対してかは各々違っているようだ。
「 ってどうしてせっかく紹介しようとするのを遮るんだい!? 」
「 ……お前の紹介が何か嫌だったから 」
「 何か!? 何かってなんだい!? 別に変なところはなかったでしょう! 」
「 いや。 何か嫌だった。 すまない 」
き、気持ち悪……、とショックを受けた彼は、「師匠、大丈夫ですか?」というリゼラの気遣いに少し元気を取り戻した。
そこで先ほどから気になってうずうずしていたハバートが質問した。
「 ちなみにお二人のご関係は? 」
「 それはもちろん昔からのお… 」
「 ただの同僚だ 」
「 …………へぇ 」
その取りを見て、シャンテがほっと息をついたのをリゼラは見た。
一方ディートはガクッと崩れ落ちそうになるが、まったく君は……、と半眼になったあと軽く咳払いをし、改めてセレーヌの紹介をした。しかしその言葉はリゼラ達に衝撃を与える。
「 それはさておき。 実は彼女には私の引継ぎ人として来てもらいました 」
「 ……引継ぎ…………!? 」
――――どういう事だろう。
師は今けがを負っている。しかしその実力で十分に補えるはずだ。なのに何故……。
もしかしたらここからも去ってしまうのだろうか、そんな思いがリゼラの中に浮かんだ。
そんな中シャンテが震える声で口を開いた。
「 ……巫女長の側近の方が来るほどに……先生の容態は悪かったんですね? 」
ディートとセレーヌがはっと顔を見合わせる。
「 …………ハバート 」
ディートが少しだけ責めるようにハバートを見た。
「 ……あの後に話してくれってせがまれた。 ずっと心配させるアンタも悪い。 ……安心してくれ。 まだ話したのはシャンテだけだ 」
いつの間にそんな話をしていたのだろうか。そういえば階段を昇ってくるときも何か話していた。その内容だったのかもしれない、とリゼラは思った。
一方で、全く……とため息をついたディートは仕方ないと諦めたのか話を続けた。
だが、今までリゼラ達が聞かされたものは驚きと衝撃を伴ったが、これが、この日いちばんの衝撃と、最大の痛手となっただろう。
「 皆に話さないといけない。 私の命は……この左目と共に削られている 」
めが・・・目があああぁぁぁ……!!なんt(ry