16. 真夜中の訪問者
お久しぶりです。
人々が寝静まり、すっかりと夜も更けた頃。
リゼラはふと感じた人の気配で目が覚めた。
――――――空気がピリピリとする……外から?
元より彼女は気配や気の流れに敏感なのである。……平和なときはアニエスの「 早く起きろ馬鹿!! 」という怒声にも気づかないが。
やがて、静かにドアを叩く音が部屋に響いた。
「 ……はぁ。 こんな夜中に一体何の用なの……? 」
鬱陶しげに呟くと、のそりとベッドから起き上がる。
仕方がないので廊下でこの部屋のドアを叩く人物に応えた。
「 はい。 何かご用でしょうか? 」
すると少し間を空けて男の声が返ってきた。
そろりと気配を探ってみると複数の気配があった。
「 夜分に失礼つかまつる。 我々は王立騎士団の者。 中を改めるため、扉を開けて頂いてもよろしいだろうか 」
「 ……王立騎士? 」
厳かな声が告げたのはここ東の国を治める王のお膝元にある名前だった。
しかし、中を改めるとはまた物騒な響きである。
リゼラは事態の変化を察して起き出したアニエスとシャンテを確認し、少しだけドアを開けた。
「 ……………… 」
ドアの向こうには、騎士の装いをした男がいる。
服には確かに王立騎士団の紋章があるので、どうやら本物の騎士団のようだ。
「 ……どうぞお改め下さい 」
ここで彼らと揉めるのは避けたいところだ。それに何かあればその時は実力行使だから問題はない。
リゼラは二人に目配せし、明かりをつけて兵士達を部屋の中へ招き入れた。
彼らは何を探しているのか、入るや否やクローゼットや戸棚やら人が入れそうな場所を次々と空けていく。
荷物はほぼ例のポーチに入っているので構わないが自分達が使った場所を勝手に開けられるのはさすがにちょっと気に障る。
ついでに安眠も邪魔された意趣晴らしにリゼラは兵を仕切る騎士に声を掛けた。
「 こんな時間にお仕事ですか? 騎士の方も大変ですねぇ。 何か大事なお探し物ですか? 」
「 ああ、いましがたこの村に我々が追っている賊が侵入したとの報告が入りまして。 申し訳ないがこの村をしばらく封鎖するためしばらく外にも出歩かないで頂きたいのです 」
「 へぇ、そうだったのですかぁ。 封鎖? ふぅん。……ん? 封鎖? 」
リゼラは皮肉ったつもりだったので騎士の言葉をそのまま受け流しかけたが押し止めた。
「 ふ、封鎖!? って言いました!? 」
「 それに賊とは。 穏やかではありませんわね……その方はどのような方なのです? 」
シャンテの問いに騎士は少し渋ったが、やがて答えた。下手に隠す意味はないと判断したのだろう。
「 黒髪黒目の二人組の男です。 片方は眼鏡かけており、外見年齢はおそらく20代と30代。 残念ながらこの男達を確認、捕縛するまでは封鎖を解除できません 」
黒目黒髪といえば髪でも染めない限り大変が闇人だろう。
この国の6割は光人だが4割は闇人が暮らしている。そのため、大陸が大きいだけにその中から人を探すのは骨が折れることだと想像がつく。
すると、今まで騎士の死角になるように壁に寄りかかって黙っていたアニエスが口を開いた。
それも至極不機嫌そうに。
「 フン。 随分とまぁありきたりな人相じゃないか。 そいつらは一体何をした? こんな夜中に『 一般人 』を起こしたんだ。 よほどの重要人なんだな? 」
彼女は元来騎士を嫌っている。
その空気をあからさまに含んだ言葉を投げられた騎士は、彼女を睨もうとするも不意に目を瞠った。
が、特に態度を変えることなく「 申し訳ありません。 いらぬ不安を与えるような情報は言えませんので 」というもっともな理由で口を噤み、部屋に異常はなかったのか「 夜分に失礼いたしました 」と兵士たちを引き連れて、部屋を出て行ってしまった。
「 ……何なんだ? 今の 」
「 え。 ……まぁ、あまり詮索されたくない不審者の確認? それにしても封鎖は困るなぁ……村から出られないし、それに発つの明日だよ? 」
「 ファイナに外を見てきてもらいましょうか? 状況が長引けば任務に支障が出ます。 今彼らと揉めても厄介ですし…… 」
シャンテの言葉にアニエスは面白くなさそうに顔をしかめた。
「 最初からうちらに王の犬どものいう事を聞く義理はないがな 」
「 こらこら。 シ――ッ! 聞こえたら面倒でしょ? 『 穏便 』これ大事! 」
「 ……リゼラ。 あなたも人の事は言えませんよ? 」
あはは、とリゼラは頬を掻いて誤魔化す。
「 という訳で、偵察お願いしてもいいかな? ファイナ 」
影に向かって声を掛けると『 フンッ 』と言う返事が返ってきた。
こちらも不機嫌のようだ。
『 ……しょうがないわねっ。 アンタ達が動けないならアタシが行くしかないじゃないっ 』
しかし不機嫌に見える割には珍しく水をかけずに引き受けてくれるファイナにリゼラは、おや?と首をかしげた。
そして次にはもう彼女の気配が影の中から消えていた。
「 え……ファイナ!? 」
「 どうやらもう行ったようだな? 威張ってはいるが行動の早い…… 」
「 おそらく根は良い子なのでしょうね 」
それぞれがファイナの素早い行動を褒める中、リゼラは「 ハッ!? 」、と気が付いた顔をしてニヤリとした。
「 フッ。 私、なんとなくあの子の扱い方が分かってきたかも 」
「 ……お前、今とっても悪い顔をしてるぞ? 」




