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幕間2 暇つぶし

   


  

「 くあぁぁぁ――――……眠ぃ 」


出立の数日前。

真昼間からワーゼンブルグ協会の建物内、とある外通路の手すりにもたれて欠伸をしているのは、一応多分きっとそれなりには徳があるとされるはずの神父( 正式には神官 ) 兼 戒士であるハバートだった。

だが彼はこの場所に人気がないのをいいことに、「絶賛暇を持て余し中」というとても神に仕えているとは思えない態度を全面的に出している。

そんなに暇なら協会の目と鼻の先の教会に行って仕事をすればいいのだが、それも気のりしないのと、残念ながらこの不良神父は不良のため他の神官からあまりいい目で見られていないの、説教の予定が入ってるならともかく休日(・・)に行っても邪険にされるだろう。


 そう。つまり休日なのだ。


「 休日って特にすることないんだよな――…… 」


「 おい 」


「 ………… 」


「 おい、ハバート 」


「 …………ぐぅ 」


「 寝るなっ!! 」


その声で彼の睡魔はどこかへと吹き飛び、ついでにもたれていた手すりからもずり落ちそうになる。

若干驚きながら声の方を見やると、人があまり通らない場所にもかかわらず通りすがりの燃えるような赤髪の女剣士アニエスが半ば呆れた目でこちらを見ていた。


「 あんたもさぁ。そんなに暇があるなら教会で説教の一つでもして来いっての。 風紀が乱れる 」


「 えぇ……今それ言う? 」


「 は? 」


「 いやなんでも。 ゴホン……。 っていうか風紀を気にする人は髪が赤いと駄目なんだぜ 」


「 だから意味不明だって 」


「 オレも知らん。 ふむ、黄色はいいのか……? 」


はぁ、と深いため息をついたのはアニエスだ。


「 ……なんだよ 」


そんなため息をつかれても今日は教会での仕事もないし、恐らく戒士の緊急召集も掛からないだろう。

休日くらいだらけていてもいいだろうと言いたげな視線を返す。

それを受けてアニエスは苦笑した。


「 いや? 教会に行くのも面倒でかつ退屈なら鍛錬でもすればいいと思っただけだよ。 休日をもっと有意義に使ったらどうなのさ? 」


「 えぇ……でもオレ休みを使ってまで鍛錬するほど脳筋じゃねーし。 何より疲れるし無理無理。 ははっ 」


「 あははは。 舐めてるのか? 」


「 いや失礼! 至極もっともな話ですね! さすがですアニエス様! 」


ピクリと動いた彼女の眉にハバートは素早く反応し敬礼して見せた。

女と言って侮ってはこちらが痛い目を見るのだ。


「 んじゃ、アニィは鍛錬所に行くのかよ 」


冷えた汗を流しながらそ知らぬふりで問う。

別段やましいことはないが話題を変えたいのだ。


「 あぁ。 なんかリゼラが笑いながら『 可愛い後輩(キース)君がぁ気術の指南してほしいんだって―― 』とか言ってきたからさ 」


「 キース……あー、あの火の子ね、お前と同じ……つーかどうせニヤつきながら言ってたんだろ 」


「 ……そうだな。 まぁ鍛錬ついでにいいかとも思ってさ。 あたしなんかが教えられることもないだろうけどな 」


ハバートはなるほどね、と頷く。が。

――――いや待て、ひょっとしたら暇つぶしにはなるかもしれない。

そんなことを思いついた彼は何か面白そうなものを見つけたように笑った。

悪い顔である。


「 …………おい 」


「 んじゃあオレもついて行くかな。 鍛錬する気になったかもしれない 」


「 ……何も企んでないよな? 」


「 失敬なやつめ 」


いや実際に企んでいたのだが白々しくも、心外……と言いたげな顔だ。

しかしそんな言葉にも彼女は動じない。


「 いや、そもそも敬ってないからな……。 行くならさっさと行くぞ 」


「 あ――……はい 」


一方であまりに冷静すぎる返答に彼の背中が哀愁漂っているのは恐らく気のせいなのだろう。


外に出て、しばらく敷地内を歩くと鍛錬所についた。

外壁の扉から中の様子を見ると、何人か人はいるが肝心の少年はまだ来ていないようである。


「 いないか。 まぁ来たらそのときでいいか 」


「 なんだよまだいねぇのか。 つまんない 」


「 じゃ、他のところで詰まってな 」


えぇ?とうめいたハバートを横目に、アニエスはすたすたと奥に行きあいている場所で腰に帯刀した剣を抜く。3回ほど深く息を吸えば意識が集中し、ただ前を睨む。


 運動場のようなこの鍛錬所はただ外壁に囲まれているというだけで、地面は土、天井はなくただ青い空が広がっている。しかし雨が降っても特に問題はない。それもひとつの訓練になるし、何よりここには全力で力を磨けるよう巫女長による強力な結界がはってある。


「 ……っふ、はぁっ! 」


タイミングを決めてアニエスは次々と剣を()ぐ。そしてハバートはそんな真面目な彼女の様子を(はた)で眺めている。

彼女の唯一気にかかっていることは飽きたハバートが何を仕掛けてくるのか分からないことだった。

密かに少年の到着が早いことを祈っていた。

が、そんな祈りも水泡に還った。


「 …………っ! 」


グッと唐突に彼女の動きが止まった。

それも誰もいない空間に向かって剣を振り上げたまま。


どうやら彼はついに飽きたらしい。


「 ……おいハバート。 コレを解きな。 邪魔するならぶった斬るよ 」


「 はははっ、暇なんだって。 それに踏まれる方も悪いんだぜ? 自力で抜けろよ 」


 やめろと言ってもやめやしない。斬りかかろうと思っても体は動かない。

ハバートが魔術である『影踏み』を行っているためアニエスは振り向くこともままならない。

なのだが。


「 ……上等 」


 挑発に乗ってやるよと言わんばかりの、常人なら正面から見たら青ざめてしまうほどの笑顔を浮かべて喧嘩を買った。


そしてそれは一瞬だった。


ハバートの後ろに勢いよく火柱が立ったと思うと、「 おおおおオレの髪! 」とのけ反る彼をよそに、踏まれた影が見事移動し、自由を得たアニエスが回し蹴りを繰り出したのだ。

「 うおっ 」と声を上げながらそれをぎりぎりでかわしたハバートは彼女に向かってニヤリと笑って見せる。

それがさらに彼女の神経を逆なでるのだ。


「 はっはっは! ほらどうした! 全然当たらないぜ! 」


ブチッ。

アニエスの中でかろうじて保っていたであろう何かがいとも容易くキレた。

もはや周りからは「 またか 」「 元気だなぁ 」といった視線が送られている。しかし、実は周りも他人事ではない。


「 そうか、そんなに当てて欲しいのかほしいんだなそうなんだな 」


シュンッ……とアニエスの剣が炎に包まれた。しかし刃が溶けることはない。

冷静にかつ矢継ぎ早にまくしたてると、ハバートの表情がはっ……と何かに気づいたように青ざめた。


「 いや、やっぱ待て! 待ってくれ!! 髪は……髪は燃やさないでくれっ!! 」


「 おいお前らあんまり周り破壊すんなよー 」


「 つか俺たちに被害を及ぼすなよ 」


「 わりぃ!約束は出来ねぇ……っ! 」


必死な形相でなぜか髪を守ろうと帽子をおさえているハバートだが、実はすでに一度髪を燃やされたことがあった。

似たような状況下でアニエスに。


「 また短くしてほしいんだろ? 任せな 」


慄き逃げ回っていたハバートは据わった眼をしたアニエスに殺気に近い視線を向けられ、逃げるのを諦めついに己の髪のために臨戦態勢に入った。

癖毛の髪を丁寧に長く伸ばしていたにもかかわらず努力もろとも一気に燃やされた悪夢は、それほどまでに彼のトラウマとなったようだ。


「 はじめに言葉ありき! 」


アニエス同様、意識を集中させると檸檬色の髪がぱちりと音を立てて逆立ち、神父服がふわりと翻る。


「 荒れ狂う嵐にうねるは神の化身。 力をもって降りかかる災厄を阻み給え 」


神聖なる言葉を『 聖言 』という。

それを言葉にしたとき言霊の力を具現化できるのは魂が清らかなる者だけだ……と一般的には言われている。あくまで一般的だ。


アニエスはパチッと音を立てて剣を阻んだ見えない壁を忌々しげに睨んだ。


「 く……! 往生際の悪い……。 潔く燃えろ! ハゲ頭!! 」


「 うるさい! 言うな! 二十歳だって抜けるときは抜けんだよ!! なのにそうやすやすと燃やされてたまるかっ! 」


髪質が細いうえに抜けやすいハバートには精神的なダメージを与えたようだ。

もはや二人の会話は互いの轟音だの爆音だので叫ぶしかなく、傍からみれば子供じみた喧嘩のようになっている。

周囲は慣れたもので自分に結界をはって爆風などを防ぎながら見物している。

止めるのはとうに諦めているようだ。


が、その喧嘩は二人に突如降ってきた大量の水によって幕を下ろすことになる。

周囲からは「 おぉっアレをとめたぞ 」といった拍手と称賛の声が上がった。


「 な…… 」


「 つ……冷たい…… 」


「 そこ! 他の人の迷惑になるだろうが!! 」


「 げ……あんたは…… 」


振り返ると見咎めるように眉をひそめたセレーヌが仁王立ちしている。


「 お前たち……一級戒士である自覚はあるのか? 頼むからその名に恥じない行動をとってくれ。 あと、アニエス。 見習の少年がお前をずっと待っていたぞ 」


ひょこりと背中から顔を出したのはかの後輩キースだ。なぜかキラキラとした眼差しでアニエスを見つめている。


「 えっとその……見苦しいところを見せた。 待たせて悪かったな 」


「 いいえ! とんでもないです! 」


申し訳なさそうに謝るアニエスに、ぶんぶんと激しく頭を横に振る。


「 僕の方こそ遅くなってしまい申し訳ありません。 でも……とってもカッコよかったです!! 僕もあんな風に強くなりたいです!! 」


どうやら少年の夢は膨らんだようだ。

一方でその発言にぎょっとしたのはセレーヌだった。


「 それは勘弁してくれ…… 」


心の底から……といったふうに呟くセレーヌに、アニエスは乾いた笑みを浮かべるしかできない。

もしこの何とも言えない空気を1番楽しんでる者がいるなら暇つぶしに来た彼だけだろう。


「 あはっ、よく分かんないけど一件落着だな 」


「「 お前は少し反省しろ!! 」」

  

   

  

   

ハバートはまだ禿げてません。(切実


花見の季節ですね。皆様はお祭り等には行かれましたでしょうか?

自分はそこらのたこ焼き片手に見物してきました笑  また行きたい……

そして次回の更新ですが下手したら1、2ヶ月後になるかもしれないです。

気長にお待ちいただけると幸いです。ペコリ

それではまたお会いしましょう!


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