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13. 旅立ち

  

  

   

 いよいよその日が来た。


 リゼラはいつも通り、いつもと変わらない様子で服に手を通している。

彼女の着る服装はいたって簡素だ。特殊な生地で作られているため機動性と防御力はそれなりに高いが。

そして任務時以外でも言えることだが、ほぼいつどんな時でも素早く動けるよう動きに無駄の出ない服を選んで着ているため華やかさには欠ける。

 現在の彼女の格好は、七分袖の上着の中に手首まである黒の長そでを着用し、下は肌を出さないように黒のパンツとロングブーツ、手には指が出るグローブとなっている。

そして二対の剣を装備し、仕上げには教会から支給された紋章入りロングコートを羽織り、さっと金の髪を結い上げる。

リゼラは姿見で自分の格好を確認した。


「 コートさえ羽織れば……大丈夫っしょ。 うん 」


誰に聞いてるわけでもなく単なる独り言のようだ。

ちなみに持ち物はすべて腰のポーチに入っている。便利なことに、外見の大きさは小さいがある程度のものならばなんでも入る仕様だ。リゼラは鏡に向かって準備万全とばかりにうなずく。


「 エク 」


出会ったばかりの友の名を呼ぶ。するとそれはリゼラの影からひょっこりと顔を出した。


「 行こうか 」


そう微笑むと灰色のもふもふが肩にのった。



エントランスホールには戒士派遣窓口の受付が置いてある。

彼らはそこに集まっていた。


「 皆、ごめん! 」


「 来たか。 結構早くに集まっただけだから問題ない 」


どうやらほぼ全員が集まっているようである。ディートとフォックの姿がないが、ディートは必ず見送ると言っていたので二人ともそのうち来るだろう。

リゼラはバツが悪そうに半笑いになりながら輪にまざる。

……が、そこに勢いよく水が顔面に命中した。


「 にゃっ!? 」


「 遅いわよアンタ!! 」


どうやらファイナが水を飛ばしたらしい。顔面びしょ濡れだ。


「 ほ、ほんとにごめ……ってアレ? ファイナ、ライナは? 」


見兼ねた近くの職員が持って来たタオルで顔を拭きながら尋ねる。

ファイナの傍にはセレーヌもいるのだが、片割れのもう一人(?)がいない。

不機嫌そうにファイナがそっぽを向いている間、セレーヌが気まずそうに口ごもる。


「 まぁ、その話は……後にしよう。 とりあえず教会証の受け取りが優先だ 」


「 その通りよリゼラ? あんたは忘れやすいんだから 」


聞きなれた声に振り返ると、そこにはディートが不在の間いつもリゼラを気にかけていた職員が立っていた。


「 マイサ! 」


「 ほら、あんたの分の教会証。 落とすんじゃないわよ? 」


そう言って彼女は教会証である銀のブレスレットをリゼラの手につける。ワンタッチ式のブレスレットにはカルキリエの紋章と文字が描かれていた。


「 ありがとうマイサ。 私…… 」


「 ほら、そんな顔しない! ……自分の命をしっかりと守りなさいね? そして生きて帰っておいで 」


2児の母であるマイサは世話焼きなのか、リゼラが任務を終えて帰ってくるといつもこっそりキャンディーをくれていた。任務で自分の命を優先して守ることは状況によっては難しくなるものだが、それでも案じてくれる人がいると生きて帰らなければと思うことができる。


「 うん。 マイサ、本当にありがとう。 きっと生きて帰る 」


決意を新たに彼女の目をみて頷く。

そこまで成り行きを見守っていたハバートが怪訝な顔で言った。


「 ていうかさっきからずっと気になってんだけど 」


「 ん? 何? 」


「 ……なんで毛玉(・・)乗っけてんの? 」


彼が指しているのは部屋を出るときに影から出しておいたエクスプリスのことである。


「 ……毛玉? って違うから! この子はエクだから! 友達だよ 」


「 ぎゅ…… 」


肩に乗っているエクは、ハバートの毛玉発言が気に入らなかったのか丸めた首をもたげて彼を睨んでいる。

どうやら彼を敵と認識したらしい。


「 な、なあ……そいつオレを睨んでるのはなん…… 」


「 へぇ、そいつ言葉を理解するのか? 賢いな 」


「 え、そこ? オレめっちゃ今睨まれて…… 」


「 それにとても可愛らしいですね 」


「 きゅ! 」


エクは女性二人にすんなりと受け入れられて満足しているようだ。


「 ああああ分かったよ! ごめんなさいマジすいません!! 」


ついに耐えられなくなったのかハバートはエクに謝っている。それでもエクは彼を見ずに自分を褒めてくれたアニエスとシャンテに尻尾を振っている。

これはあとで大変かもしれない。


「 皆集まっているようですね。 ちゃんと休めましたか? 」


ちょうどそこへディートがフォックを連れてやってきた。

疲労の色が濃い目元に柔らかく笑みを乗せている表情は相変わらず痛ましいが、初期の頃よりはましだろうか。

フォックも相変わらず……体格が良い。

しかも童顔で好印象に見えるのだから不思議だ。


「 皆さんどうも。 お久しぶりです~ 」


礼儀正しくぺこりと頭を下げる。そこへハバートが盛大に肩を組む。


「 フォックじゃん! 元気してた? 」


「 元気でしたよ~。 ……先日君が演習場の男達を廃人の山にしたとき以外は、ね~…… 」


ここでもハバートは何かしていたようだ。そしてフォックが太っているのはもしかしたら精神的なものも影響しているのかもしれない。


「 い、いやだなぁちゃんと手加減したし大丈夫だった……しょ? 」


「 少なくとも雷で焦げている間は彼らも軽く廃人状態だったんだよ~? あの日は久々の休日だったというのに~…… 」


「 す……スミマセンデシタ…… 」


一体何したんだろう?とリゼラがアニエスに視線を送ればまた今度話す、と額に手を当てている。

どうやらアニエスもその場にいたようだ。


「 さて、これから皆には協会のハイハーネ支部をしばらく拠点にしてもらう。 移動は中型飛龍で行ってもらうから3日で着くだろう 」


「 中型……小型じゃないんですか? 」


飛龍は一般的に場所の移動に使われる生き物だ。野生の飛龍もいるが日用的に使われるのは運搬用に飼育されているのがほとんどである。

小型は一人乗りで小回りが利くため戦闘の際などにはよく愛用される。


「 あぁ、それは…… 」


「 すみません……ボク実は飛龍を操作できなくて~…… 」


フォックがすまなそうに手を挙げる。それならば仕方がない。飛龍はその名の通り空を飛ぶ竜なので下手に扱うと命に関わる。


「 なので彼はハバートが乗せてくださいね? 」


「 あーい 」


「 もしも道中何かあった際はセレーヌに指示を仰ぐこと。 連絡手段は確認できていますか? 」


そのことは既に確認済みだったはず。と、リゼラ達が頷こうとした。


「 あぁ、そのことなんだが…… 」

     

セレーヌが先ほど同様に口ごもっっている。 


……リゼラ達が何かを予感した瞬間だった。  

    

    

    

    

次も同じサブタイが続きます。

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