12. 久しぶりの時間3
お待たせいたしました。
現在、リゼラの目蓋の裏にはあるイメージが浮かんでいた。
そこには正面のディートに重なるように光と闇、2つの根源の気が存在している。
一見すると、二つは混ざり合い正常に調和しているように見えた。
しかし、閉じた目蓋の裏で目をこらすと、彼の元々の体質のため若干多いと思った闇の気がドクンと鼓動し、まるで真っ暗な穴が広がるように……どろりと光を侵食するのを捉えた。が、それに負けじと光が押さえ込んでいる。均衡を保とうとする自然的な気の性質と眼帯の効果らしい。
実験体になってくれた師のためにも、試しに自分の気と同調させてみようと意識を深く集中する。
そのとき。
次いで襲ったのは瞬間的な左目への激痛と…………こちらを見て口許をニヤリと歪ませた老人の姿だった。
「 ………………っぁ!! 」
「 大丈夫か!? リゼラ! 」
「 だ、大、丈夫、です……記憶に触れただけ、ですから 」
蒼い光が弾け、リゼラはうずくまるように激痛が走った左目を押さえながらも、師に笑いかける。
彼女のその目はカタルシスの影響で金色に輝いていた。
「 すまない! 浅慮だった。 まさか痛覚まで同調するとは思わなかった 」
心底案じるようにリゼラの顔を覗き込む。
リゼラの左目の激痛はどうやらディートが左目を斬られたときの痛みのようだ。
縦に引き裂かれ、顔中の痛覚が悲鳴を上げるような……いや、それとも激痛で頭の中が真っ白になるような……そんな痛みだ。
記憶に触れて、己が師がこんな激痛とともに片方の光を失い、あのおぞましい呪いを受けたのかと思うと沸々と腹の底から怒りが込み上げてくる。
しかし、分かったことは……自分では彼の状態に手を出すことが出来ない、という事だ。
リゼラは歯噛みしながら、敵と自分への怒りで逸る動悸を落ち着けるように、熱を持ったペンダントをぎゅっと握りしめた。
そして、瞳の色が戻り呼吸が少し落ち着いた頃。
「 ……すみませんでした、もう大丈夫です。 ……師匠の気も呪いの進行度合も見えたのですが、あんな風になっていたんですね。 でも、眼帯が効いていて進行を抑えているようです 」
「 そうか…… 」
「 師匠……大丈夫、ですか? 」
返ってくる言葉はきっと『大丈夫』だろう。でも、それでも言わずにはいられない。あんな気のせめぎ合いは身体にもそうとう負担なはずだ。それ故に命が削られているのかもしれない。
「 大丈夫。 私は大丈夫だよ、リゼラ 」
「 ……無理は、しないで下さいね 」
「 うん、分かっているよ 」
ディートは苦笑してみせた。リゼラを安心させるように。
「 ところで、そのペンダントの効果は? 」
「 ちゃんと使えるみたいです。 それどころか、今までと比べてだいぶ楽になりましたよ 」
先ほどからリゼラはペンダントを握りしめているが、こうして話す今も、歪んだ嗤いが未だ脳に焼き付いて離れない。ならばとさらに記憶に刻むかのようにリゼラはペンダントを握り続けている。
そういえばさきほど魔術研究室室長が、これを作るように依頼したのはディートだと言っていたのを思い出した。
「 本当に、ありがとうございます師匠 」
その後に、不甲斐なくてごめんなさいと続けそうになったが危うく止める。
それを言うことに意味はないと思ったのだ。口に出すよりは、実際に強くなるしかない、と。
その表情は見えず先ほどと同じく俯いている。
しかしどれだけ下を向こうとも、どれだけ隠そうとしても師であり義父のディートには気づかれてしまうであろう事を知っていた。
さらに自分を情けなく思う。
「 リゼラ 」
ディートは既にそんな彼女を見越して、あるものを用意していた。……それを自分の背に隠して。
「 お前にあげたいものがあるんだよ。そのペンダントの他に 」
え?とリゼラが顔を上げる。
――――――チュッ
なにかが唇にあたる。
「 は…………はい!? 」
「 きゅううう! 」
「 ……っ!? なななな、なに! これ!? 」
目の前には灰色のイタチのような姿をしている動物らしきものがいた。
というよりディートがリゼラのちょうど顔の前に掲げていた。
「 あははは、この子はエクスプリスという名前でね。 いつの間にか私に懐いてきた魔獣なんだ 」
魔獣とは、水や炎など自然界にあるとされる元素から派生した精霊とは違って、自然界に、いや世界中にに流れている根源の気によって動物が変化したもので珍しい生物(?)である。なのでそこに根源の気がありさえすれば生きていけるのが魔獣の便利な点である。
エクスプリスはディートの手から降りるとリゼラに駆けのぼり、肩に移動した。
頬に鼻をすり寄せている。とてつもない破壊力を持つかわいさだ。
「 わわっ! え、えっとつまり? 」
「 その子を連れて行きなさい。 きっと良い友になれる。 幸いエサも特にいらないからね。危険な時は自分の影に入れておけばいい 」
「 いいんですか!? 」
「 もちろん。 エクスプリス、リゼラを頼んだよ 」
「 きゅう! 」
「 やった! ありがとうございます!! うひゃ――! かわいすぎるっ!! よろしくエクスプリス! 」
長いからエクでもいいかな、などと話しながら彼女達はじゃれあっている。
動物のような純粋なかわいさに目がないリゼラは落ち着くどころか興奮してしまったらしい。
彼女はこれでも17歳。単純だが元気になって何よりだ。
ディートはそんな微笑ましい姿を見てふっと笑い……くしゃり、と再びリゼラの頭を撫でる。
「 …………わっ! 」
「 きゅうっ! 」
二人そろって声をあげる。
「 いいかい? お前たち。 無理はしても無茶はダメだよ? 」
ポンポン、と穏やかに、まるでおまじないでもかけるかのように頭に手を乗せた。
リゼラは、はっとして彼の目を見た。
まさかこれからこの子を自分の代わりにさせるつもりじゃないだろうなと思い、釘をさす。
「 師匠は無理も無茶もしないでください。 私達が帰ってくるの、ちゃんと待ってて下さいね? 」
「 …………! はははっ、分かったよ。 そうだねリゼラ、私はここでお前たちが帰ってくるのをちゃんと待っているよ 」
ディートは一瞬目を瞠ったが強く頷く。まだ帰りを待つことを諦めてはいけないと心に誓う。
確実な約束は出来ない事はすでにお互い承知している。それでも願わずにはいられない。
すべて終えて帰ってきた時にこの場所で皆で楽しく笑いあい語りあうという、この願いを。
すみません、1月中に更新する予定でしたが2月になってしまいました(汗
しかしもう2月ですか……怒涛の春が来るのがすこし恐いですが(笑
はやく暖かくなって欲しいですね……
最近アイスは食べましたが単に部屋の中では凍えて無理でした。
こんど暖房ガンガン、羽織着込んでトライしたいです。
それではまた!




