11. 久しぶりの時間2
ディートが机の引き出しから取り出したのは高価な木に彫刻を入れた長方形の入れ物だ。
木にしては鉄のような重さがするが、中に何が入っているかは謎だ。
「 これは? 」
しかし、彼はとにかく開けてごらんといってリゼラに箱を渡す。
一体何が入っているのだろうか。ここに自分の手助けになる手がかりが入っているのだろうか。
期待を込めて、リゼラは箱を開ける。
『 ザ……ザザッ…………パンパカパァーンッ!!!! 』
「 …………っ!? 」
部屋中に大音量で声とクラッカー音が響く。
あまりの驚きに箱を落としそうになるがディートが慌てて支える。彼も驚いているようだ。
言葉を失っている彼女たちの前には白衣と鼻メガネとボサボサ頭の変人……いや、カルキリエ協会直属魔術研究会会長 兼 魔術研究室室長の男が箱に付属している鏡のようなミニ魔導機器に映し出されていた。
それにしてもなぜディートまで驚いているのだろうか……。
『 やぁリゼラ君。驚いたかい?キミがこれを見ているということはきっともうワタシは…… 』
「 …………!? 」
やけに深刻めいた口調で話し出した男の、次にくる言葉を思い浮かべ、まさかという疑念がわいた。
そう、疑念だ。断じて不安・心配などではない。
『 ワタシは…………やぁ――っと休暇を得られr……ん痛ッ!! 角にぶつけた! ……あ……ガガッ…………びが……!! 小指が!! ……ぇ、エヘン、ゴホッ……。 ま、まぁとにかくそういう訳で存分に感謝してくれたまえ。 ちなみにこの映像は新開発した魔導で録画されているんだ、ぜひ記念にとっておいてくれ。 いやぁー、でもかわいい君の為だからねホントにいつでも研究室に来てくれて構わない云々… 』
「 師匠これ早送りできませんか? 」
「 あはははは、そうですねぇ。 もういっそここは中身だけ頂いて、あとは不良品だった事にして返品しようか 」
『 あーちなみにワタシの偉大な言葉は早送りなんて出来ないし、最後まで聞かないと品物の入っている部分のロックも開かないから 』
お見通しの上にタチが悪い。そしてこれが録画であことにとてつもなくしてやられた感がある。
「 悪戯とか子どもですか…… 」
「 困ったね。 やっぱり壊そうか 」
ディートが笑いながら言うが目が笑っていない。本気だ。
『 あ、あー……でもまぁやめておこうかな後が恐いし…… 』
「 おや残念。 最悪中身が壊れてもまた数日でイチからつくり直してもらおうと思ったのですが 」
『 仕方ないからもしディー君が見ている可能性を考えて前置きはここまでにしよう 』
ようやくまともに話を進める気になったようだ。
一方的に延々と続く長広舌を聞かされるのはあまりに辛い。
『 ディー君に頼まれて作ったこの特殊魔導。 これを使えば浄化……対象との魂の同調と相互安定を障害なく円滑に、そしていつも通り相手にさえ触れられれば咄嗟の状況でも行えるはずだよ。 いわば補助具だね。 ただし注意! カタルシス中は熱くなります! ヤケドはしないけどね。 あと蒼い玉石がついているんだけどその石が壊れたら使い物にならないから取り扱いは注意! まぁ、そこいらの象が乗っても大丈夫な仕様ではあるけど、ははっ。 そしてこれは根源の気を操れる者でないと使えない。 つまるところ様々な理由を含め君専用という訳だ。 とりま、百聞は一見になんとやらってね。 ご覧あれ~ 』
一通り話終えたのかガチャリと開錠音がした。
箱がどんな仕組みになっているのか謎だ。
「 わ……これ、綺麗 」
ロックが解除された部分から出てきたそれはペンダントだった。トップには銀の十字架がついている。
よく見ると、中心には蒼くほどよい大きさの丸石がついている。
『 見たかい? どうだい綺麗だろう? なんたってこのワタシが君のために丹精込めて作……コホン。 い、いや――、なぜこれに至ったかを説明すると、十字架は左右対称だから相互関連と安定性の魔術式組み込むの楽だし、中心の蒼い玉石は強い水属性で調和をもたらしてくれるからね。 それに首から下げてた方が実戦で使い勝手も良いと思って……ちゃんと見た目も性能も考えてあるから大丈夫だからね!? ま、まぁ安心して壊れるまで使ってよ。 多分使い込めば補助なしでも発動できるようになるはずだしさ。 それじゃあ健闘を祈ってるよ! ……プッ…… 』
そう言って映像は切れた。
また勝手に再生しないか恐る恐る確認し、ほっと溜息をついた。
「 終わり……みたいですね 」
「 ここまでにずいぶん長かったね。 それを受け取ったとき『 君は開けないように 』と言われたんだ。 そもそも私が開けようとしても開かなかったことには驚いたよ。 それ以上にさっきの爆裂音に驚いたけどね……それにしてもそのペンダント、あの人の趣味にしてはなかなか良い物だ。 きっと似合うよリゼラ 」
師にも中身を秘密にしていたのか。強者である。
「 あ、ありがとうございます、師匠 」
「 じゃあさっそくそれを使おうか。 旅立つ前に効果の確認をするよ 」
「 ま、まさか師匠を実験台にしろと……? 」
ディートはニコリと笑った。いい笑顔だ……。
と、思ったら彼はその片目を頼りなさげに伏せた。今気づいたが目元がやつれている。
「 この身に受けた呪いを、その正体を見てほしい。 そして覚えておいてほしいんだよ。 お前が『 ジル 』に会ってしまった時のために 」
「 …………! わ、かりました。 でも、師匠、私はまた師匠の記憶に触れてしまうかもしれません……それでも、いいんですか? 」
浄化能力者は魂を同調すると、頻繁にではないが稀にその者の記憶を読み取ってしまうことがある。
それについてあまり良い事ではない、とリゼラは考えていた。しかしディートは気にしないという。
「 リゼラにならいくらでも見せてあげるよ。 娘同然だからね。 そうそう、だから私をパパと呼んでも構わないんだよ? 」
「 い、言いませんよ! もう子供じゃないんですから! 」
「 ………………! そう……だね、すまない…… 」
「 ……? あ、謝らなくても大丈夫ですよ……? 師匠 」
気を取り直してペンダントを身に付け、差し出された師の手を取り瞑想する。
普段はすでにここから時間がかかるのだが、今はペンダントのおかげかすんなりと集中でき、互いの気が重なっていくのが感じ取れた。仄かに蒼く発光していた玉石の光がリゼラを大きく包んでいく。




