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10. 久しぶりの時間

お、お待たせしました……




自室へと戻る途中、久方ぶりに廊下で声をかけられた。


「 リゼラ、足元危ないよ 」


リゼラはぼぅっとして歩いていたが、名前を呼ばれてあわてて正気に戻った。


「 はい? ってぬぁ……っ! 」


わずかな段差に躓きそうになる。だが寸でのところで持ち直し、ほっと息をつく。

後ろを振り返ると師が苦笑しながら立っていた。


「 ここにいましたか 」


「 ……すみません、師匠。 どうしました? 」


リゼラは食堂でヴォルケネを食べてきた所だった。先日は見事に逃したが今日はいつもより早い時間に食堂に行き、列に並んだおかげで食べることが出来た。そのせいで居場所を探させてしまったようだが。


「 少し話をしたいと思いましてね。 その前に、派遣窓口にはもう行きましたか? 」


「 あ、行きました。 教会証の申請も済ませましたし、いつも通り出立直前に受け取ります 」


「 そうでしたか、それはよかった。 でも直前の貰い忘れには気をつけるように。 ……ただでさえお前は忘れっぽいんだから 」


ディートは眼帯に隠れていないほうの目で悪戯げに笑った。


「 だ、大丈夫ですよ! もう以前よりはマシになってる…………はずです 」


「 あはは、それは頼もしい。 どうやら私がいない間に大雑把なその性格も少しは直ったのかな 」


 久しぶりに師とたわいない会話している。

リゼラは頬を膨らませながらも密かに喜んでいた。

 昔は、よく教会証を受け取り忘れて途中で本部に取りに戻るという事をしていた。その度にディートはため息を吐きつつ諭していたが、ディートがいなくなってからは心配した戒士派遣窓口の職員が声をかけるようになった。このままではまずいと思ったのかリゼラはようやく性格を改めるようになったとか……。

 この戒士派遣窓口というのはカルキリエに所属する戒士が任務に出るとき、必要な書類の処理をしてくれるのだ。そこで発行される教会証は役所や他国への入国の際に提示することによって身分証明書の扱いになる。加えてカルキリエの教会証は特別で協会に所属している者は会員としての身分証明にもなる。それだけに、悪用することは禁じられ、ひどい場合は協会直々の裁きが下る。


「 それで、話の方ですが……立ち話もなんですからひとまず部屋に来なさい。 座ってゆっくり話しましょう 」


「 はい。 一階の奥……でしたよね? 」


「 そうですよ。何かあったときに七階では助けも呼べないからね。 いまの状態では魔術での移動も難しくなったし 」


かつて彼の部屋はリゼラとはまた違う棟の七階にあった。だが今は彼の体調面を考慮して、医療室が設置されている棟の1階に移動になった。

帰ってきてからというもの、毎日検査検査と引っ張りだこだったようだが何日か前に眼帯をつけてからは落ち着いたようだ。





「 ところで師匠、その眼帯は一体? 普通の眼帯ですか? 」


一度自室に戻ってからディートの部屋を訪れ、現在紅茶を淹れている最中のリゼラは気になった疑問を口にした。


「 あぁ、これかい? これはユンファ様から頂いたんだ。 呪いの進行を抑えるために強い光の気を組み込んで頂いた 」


「 光の気を? まぁ、巫女長ですもんね……何故あの方は髪を染めていらっしゃるんでしょう? 巫女って普通は金髪が多いし自然のままが好きそうなイメージがありますが……はい、どうぞ。 猫舌に気をつけてくださいね 」


「 あぁ、ありがとう。 頂くよ 」


 二人とも肩の力を抜き、豊かな香りの紅茶をすする。

 光人と闇人はそれぞれ根源の気が光と闇であるように、何故だか髪の色のベースも光人は金、闇人は黒と決まっている。そこに属性が加わればその属性にちなんだ色に変わり、アニエスの燃えるような赤髪や、ハバートのような黄色みがかり稲妻を連想させるような髪の色になる。代々の巫女は光の気が強く皆強い輝きをもつ金髪なのだが、ユンファは髪が蒼いので誰もが不思議に思っていた。民衆うけはいいが。


「 恐らく、なるべく人と壁を作らないようにしているんだろうね。 皆、巫女……”神に仕える”というだけで萎縮してしまうから。 ある意味残念ではあるけど……っとそうそう。 話のことなんだけれどね 」


紅茶を一口含み、ティーカップをそっと置く。


「 修行の成果はどうなった? 実践では……どのくらい? 」


「 ……った! 」


いつか聞かれるとは思っていた。

しかしリゼラは頼りなさげに俯くだけだった。


「 リゼラ? 」


か細い声でリゼラは答える。


「 …………すみません。 私は彼らを……彼らの暴走を止めることはできませんでした。 救えなかったのは今までの任務で、16人のうち10人…………。 そのうち5人は危険と判断し、私が直接手を下しました 」


「 …………そうか 」


 リゼラはそっと目を伏せた。彼女の手は膝の上で密かに強く握られている。

 今までの任務というのはディートが不在の二年間の任務を指す。暴走といえばたいていは闇人の暴走を指している。手を下したということは……殺めた、ということだ。暴走を止められずそのような事態になるのは決して彼女が無力だからではない。それだけ、どちらにもリスクのあることなのだ。

 暴走した闇人は理性を失う。そして無尽蔵に気力を外に放出してしまい、やがて使い果たしてしまう。

命の危険にさらされるためそれを止めなければならないのだが、周りにも放出したエネルギーの被害がでるため早急に食い止めなければならない。一種の病と化している闇人の暴走と渡り合うのは、一般人には不可能なためその役目は戒士にのみ許されている。だが、ただの戒士では止めることしかできず、彼らを生かしたまま鎮めることはできないのだ。ところが中には、少数だが生かしたまま暴走を止める能力を持つ者がいる。そのため、戒士が任務で要請のある地に向かう際は数人で行き、できるだけその能力を持っている者……『カタルシス』を扱える者が一人組み込まれることになている。問題はその数が本当に少数ということだ。


「…………」


リゼラは俯いたままだ。

彼女はカタルシスを保有している。浄化能力とも呼ばれるそれは持っているだけでは意味がなく、技術を磨かなければコツが掴めずに発揮できないため修行が必要となる。しかし、彼女はもう数年修行を続けている。だが実践でうまく使いこなせないのだ。彼女は犠牲者が出るたびに己の未熟さを呪っていた。

 ディートがそっとリゼラの頭に手を伸ばす。


「 ……! し、師匠、もう子供じゃないんですから……!! 」


それでも、ディートは何も言わずに頭を撫で続けている。リゼラは師匠と呼んでいるが、彼女の養父でもあるディートは、昔からそうやって何も言わずに落ち込んだリゼラを励ましていた。


「 今日はね、リゼラ。 きっとお前の助けになるものを持ってきたよ 」

     

   

    

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