二話 (チャライ)友達
コミュニケーション部と言う会話をするだけの部活に(強制)入部させられてから一日経っていた。
【お前何か部活入った?】
【俺はボクシングフラフープ縄投げ部に入ったぞ】
【それどんな部活だよ!】
昼休みにそんな会話が聞こえてくる。
少しずつではあるがクラスで人間関係が作られ始めているらしいな。
その人間関係からはみ出さないようにしなくては。
だが、今日はクラスの人と仲良くなる前にやらなくてはいけないことがある。
俺は教室から出て、隣のクラスに向かった。
【泰司は彼女とかいるのか?】
【おれっちは彼女いないぜ。高校生活は彼女100人作るのが目標だぜ。恋に生きてやるぜ】
この自分の事をおれっちとか言ってる男が部活に誘う奴だ。
名前は工藤泰司。
泰司は会話からわかるかもしれないが、ちょっと頭の弱い子だ。
そしてチャライ。
髪は茶色に染めてあり、襟足は肩まである。両耳にはピアスが2本数ついている。
身長は180センチあり、顔は白人と日本人のハーフの様に少しだけ掘りが深い。
あまり認めたくはないが、かっこいい。
その泰司の肩を俺は叩いて話しかけた。
「ちょっと用事あるからついて来てくれ」
「確かにおれっちは恋に生きるって言ったけど男とは付き合えないぜ……」
「何で俺が泰司に告白するみたいになってるんだ!?」
俺は男好きじゃないぞ。
「告白しないのか……。ちょっとがっかりだぜ」
「泰司まさかの男好きだったのか!」
「一割冗談だぜ」
「それだとほとんど事実だぞ!?」
このままだと話が進まないと思い俺は泰司の腕をつかみ廊下に連れて行く。
「おれっちこのまま駆け落ちするらしいぜ」
俺は泰司の言葉をスルーしながら廊下に連れ出した。
「泰司って何か部活入るのか?」
とりあえず誘う前に何か部活動入るのか確認をしておこう。
もし別のに入るならその時はあきらめるしかない。
でも、泰司は部活に入らないだろうと予想している。
「おれっち入ろうと思ってる部活があるんだな」
「え!?」
入らないと予想していたのにまさかの返答で少し驚いた。
「何の部活に入るんだ?」
「おれっちはボクシングフラフープ縄投げ部に入っちゃうんだぜ。ボクシングして、フラフープして、縄投げ出来るとか最高じゃね?」
「その部活テニスしかしないらしいぞ」
「詐欺部じゃねーか!?」
どうやらボフナ部(ボクシングフラフープ縄投げ部の略)が何をするのか知らないで泰司は入ろうとしていたらしい。
まあ、名前からしてもまさかテニスをするとか普通想像できないのも仕方ない。
創部者は何を考えてこんな名前にしたのだろうか。
「危なかったぜ。後ちょっとで詐欺られちまうところだったぜ」
「じゃあ俺と一緒にコミュニケーション部に入らないか?」
「コミュニケーション部ってどんな部活か気になるぜ」
「会話を楽しむ部活らしいけど俺も良くまだわからない」
「よしおれっちもその部活入るぜ」
「即決すぎないか!?」
こんな部活を即決で入部を決めるとかさすが泰司だな。
「じゃあ放課後に1-C(俺のクラス)に来てくれ」
「バイクで行くぜ!」
「普通に歩いてきてくれ」
~放課後~
俺は泰司と一緒にコミュニケーション部のある第五多目的室にいる。
この第五多目的室は基本的には使われて無いらしい。
そこまで大きな高校ではないので多目的室が五つもあっても使う機会がないのは少し考えればわかりそうな気がする。
「なかなか霧島沙耶先輩っての来ねーぜ」
泰司の言うとおり放課後になってからもう既に1時間が経っている。
「何か用事があって遅れてるんじゃないか?」
「これで帰ってたらビックリだぜ」
「それはないとは思うけどな……」
確かに遅すぎる気がする。何か沙耶にあったのだろうか?
「入ったときから気になってたんだが、そこのロッカーって何が入ってんだ?」
そういって泰司は端にあるロッカーを指差した。
多分掃除道具が入っているのではないだろうかとは思うが
「ちょっとみてみるか」
暇つぶしになるかもしれないので確認する事にした。
俺と泰司はロッカーの前にいき、勢い良くロッカーを開けると掃除道具は入っていなかった。
代わりに入っていたものは、強盗マスク、たいまつ、懐中電灯、サザエ(生もの)、ステーキの生肉(腐りかけ)、みかん(腐敗済み)、縄、クロロホルムなどが入っていた。
「この部活楽しい気がするぜ」
「むしろ危険な香りしかしないんだが……色んな意味で…」
俺が昨日気絶してたのはこのクロロホルムを嗅がされたからか。一つ疑問が解消された。
「みろよこのミカン。キレイだろ…これ死んでんだぜ」
「いや、汚いから」
食べ物をロッカーの中に入れるのは常識が無さ過ぎる。
そんなロッカーの中を見ていると扉が開く音が聞こえた。
その扉の方を見てみると沙耶と数人の作業服を着た男が数人荷物を持ちながら立っていた。
「この冷蔵庫はどこにおけばいいっすか?」
「それはロッカーの横のにおいてください」
「このテーブルどこにおきゃいいっすか?」
「それは部屋の真ん中でお願いします」
「このソファーはどこ置けばいいですか?」
「それはテーブルの横においてください」
「この液晶テレビはどこにおけばいいですか?」
「液晶テレビはソファーに座りながらみれる位置においてください」
沙耶は荷物を持った男達にテキパキと指示をしている。
そして全ての荷物がおき終わり
「またのご利用お待ちしております」
男達は挨拶をして部屋を出て行った。
部屋は一瞬にして質素な空間から豪華な空間へと変貌を遂げた。
「少しまだ過ごしにくいかな?」
「いや、かなり過ごしやすいと思うぞ」
これで過ごしにくいって、もしかしたら沙耶はお金持ちなのか?
「あ、その人もしかして入部してくれるの?」
沙耶はそう言って泰司をまじまじと見つめる。
「おれっちこの部活に本日から入部させられることになった工藤泰司っす。これからヨロシクっす」
「別に敬語使わなくてもいいよ」
「マジっすか。おれっち敬語嫌いなんだぜ。こりゃーありがたいぜ」
「ボクは霧島沙耶。沙耶って呼んでいいよ」
「おっけーだぜ。おれっちの事は愛をこめて泰司って呼んでくれてかまわねーぜ」
「うん、わかった。愛はこめないけど泰司って呼ぶよ」
「愛をこめてほしかったぜ」
最初にしては二人とも大分打ち解けている気がする。
泰司はともかく沙耶も人見知りをしないタイプなのか。
まあ、昨日も俺と普通に会話を出来ていたから沙耶も人見知りはしないのか。
「残り1人はどうにかなりそう?」
沙耶は俺に質問を投げかける。
「少しきついかな。まだクラスで話せる人もいないし」
「……そう」
沙耶は俺の答えを聞くと哀しそうに顔をする。
でも、入学三日で部活に誘えるほど仲いい友達を作るのって実際難しい。
コミュ力が化け物並みにある人じゃないと無理だ。
「残り1人ってどういうことか気になるぜ」
そういえば泰司には最低五人いないと部活が作れないことを教えていなかった。
沙耶は泰司に残り1人が何の意味なのかを話し始めた。
「実は4人はいないと部活が作れないの。だから後1人入部してもらわないといけないんだよ」
「なるほどだぜ。ポスターとか作って誘うのとかいいんじゃねーか。楽しそうなポスターみれば入りたいと思う人も出てくると思うぜ」
確かに泰司の言うとおりポスターは定番中の定番だがそれを見て入ろうと思う人はいるかもしれないな。
「よし、じゃあポスターをみんなで書こうか」
俺がそう提案すると
「それじゃつまんねーぜ。どうせだったら一人一枚書いて一番いいのを選ぼうぜ」
「ボクも一人一枚書いたほうが楽しいと思うよ」
そういうわけで、一人一枚ポスターを書くことになった。