一話 (強制)入部
今、俺は目の前の謎のマスクに手足を縛られて動きを封じられている。
まったく何があったのかわからない。
気づいたら端の方にロッカーが一つあるだけの教室にいて、目の前にこの謎のマスクが立っていた。
マスクは強盗の被っているマスクと考えてくれていい。
その謎のマスクの口が動いて言葉を発した。
「ところで君は誰?」
「こっちのセリフだー!」
これが俺、加藤秀二と霧島沙耶との初の会話だ。
今俺の前にいるのは、混じりけの無い短い純白の髪。太陽のようにまぶしく輝く笑顔。アイドルを凌ぐほどの可愛らしい顔立ちの少女。
先ほどマスクを取って姿を現した時にはかなり驚いた。まさかマスクを脱いでこんな可愛らしい顔の女の子が出てくるなんて想像していなかった。
ちなみにマスクはロッカーに少女がしまった。
その少女が俺に笑顔を向けながら話しかけてきた。
「ボクの事って覚えてる?」
「人を拉致するような人とは会ったことないぞ」
「そう……まあ、そうだよね……」
綺麗な白い髪を持った少女なんて一度見たら忘れようがない。
少女は悲しそうにうつむいていたが、深呼吸して元気を笑顔を取り戻し口を開く。
「ボクの名前は霧島沙耶。沙耶って呼んでいいよ」
「俺の名前は加藤秀二。呼び方は何でもいいぞ――って!なんでナチュラルに会話始まった!?」
「うん。わかった。しゅうじいって呼ぶよ」
「こっちの話は全部無視か!?それにしゅうじいって!じいさんかよ!?」
沙耶は「ふふふ」と濁りの無い声で笑う。
「・・・はぁ。まぁいいか、沙耶ちゃんは何でこんなところにいるの?ここ高校だよ。小学校じゃないよ」
「えっ!?」
「えっ!?」
「ボク高校生なんだけど・・・」
確かにこの高校の服を着ているけど、どう見ても高校生には見えない。顔立ちからも身長からも小学生くらいの幼い子だ。
「ボク、こう見えても高校2年生だもん」
「先輩だったんですか!」
俺は高校1年生だ。
「うん。秀二よりも年上なんだもん。でも、堅苦しい敬語は別に使わなくてもいいよ。ボクはそれが嫌いだからこの部活を作ったんだもん」
「部活?」
「そうだよ。君を拉致したのは部活に入れるためだもん。今週の金曜日までに部員が4人いかないと部活の申請が出来ないんだ」
ある程度何があったのか理解できてきたぞ。
多分沙耶は部活を作ろうとしているんだろう。
ただ、部活を作るには部員が4人はいないと作れない。
だから俺は拉致されて縄で縛られているのか。
「ごめん。悪いけど俺は部活に入る気ないんぞ。だから縄ほどいてもらえる?」
「部活に入るなら縄をとくよ」
「俺に逃げ場なしか!?」
あれ?これはやばいんじゃないか。このままいくと強制的に入部させられそうだぞ。
「俺帰宅部に入ろうとしてるから他の人を誘ってくれ」
「部活に入るなら縄をとくよ」
「なにその誘導!?」
やばいぞ。このままだと毎日帰宅をするだけの部活に入ることが出来なくなってしまう!
「いや、待ってくれ、とりあえず縄をほどいてくれたら入部考えるぞ」
「本当!わかった。ちょっと待ってね」
沙耶の笑顔は先ほどよりも輝いて見えた。
「ほどいたよ。じゃあ―― え、ま、待てー」
俺は一瞬の隙を見て逃げ出すことに成功した。
そして、一直線に扉を目指す。
これで帰宅ライフを送ることが出来るぞ。
「悪いけど、俺は部活には入らないぞ。他の人を探して――ぶはっ」
沙耶のとび蹴りの勢いで壁に頭をぶつけたせいで目の前が真っ暗になっていく……
目を開けると明るい光が目に入ってきた。
眩しい……。
この部屋こんなに電球の光強かったっけ?
「って――明るいと思ったら目の前に懐中電灯あるじゃん!?」
「気づいたみたいだね。秀二なかなか起きないから懐中電灯を顔にずっと当ててたんだよ」
「ちょっ。懐中電灯消してくれ」
「うん」
沙耶は懐中電灯の光を切った。
「ところで縄がものすごく頑丈になっているんだが……」
さっきは手と足を縛られていただけだけど、今度は体全体に巻かれている。
まるで縄版のミイラみたいになっているぞ。
「秀二が逃げるから行けないんだもん。あ――そういえば一つ言わないといけないことがあるんだけど……」
沙耶は顔を赤くしてもじもじしながら言葉を続ける。
「秀二の入部届けなんだけど……勝手に出しちゃった」
沙耶は舌を出して軽く頭を叩いてみせた。
行動も小学生っぽくて可愛らしいな。――って、今はそれどころじゃない。
「ちょっと待って!本当に出したの!俺の帰宅ライフはどうなるの!!」
「ごめんね。わざとじゃないんだけど、出しちゃった」
「わざと以外のなにものでもないぞ!!それに本人が出さないと駄目なんじゃないのか!?」
確か担任が入部届けは自分で出さないと駄目だって言ってたぞ。
「大丈夫。気を失ってる秀二を縄で縛った後引きずって職員室に連れて行って、まるで秀二が自分で出してるようにしといたよ」
「なにその無駄ながんばり!?」
先生も縄で縛られてる人を不思議に思ってくれ!
「そういえば、この部活が何をする部活か教えてなかったね」
「いまそれ言うのかよっ!?」
沙耶はどうやら人を無視する傾向があるようだ。ものすごく直してほしい。
でも、これから(強制的に)入部する部活だ。何をするのか聞く予定だったしちょうどいいか。
「ボクが作った部活はコミュニケーション部。会話を楽しむ部活だよ」
「えっ?」
「ボクが作った部活はコミュニケーション部。会話を楽しむ部活だよ」
「いや、別に聞こえなかったわけじゃないんだけど……」
会話する部活って何だ?
ただ会話するだけの部活って事か?
「そうだよ」
「まさかの読心術!?」
「ただ会話するだけ。簡単な部活だよ」
「やっぱりツッコミはスルー…まぁ…確かに簡単だけど……。」
でも、そんな部活ありなのか?
「よくそんな部活許可でたな」
「この学校にはもっと変な部活がたくさんあるから大丈夫だもん。例えば、ボクシングフラフープ縄投げ部とか」
「なにそれ新しい。ボクシングしながらフラフープもして更に縄も投げるって新しすぎでしょ」
「普段はテニスをやってるんだよ」
「テニス部でいいじゃねーか!?」
ボクシングとフラフープと縄投げはどこに行ったんだ。
「だから、君は後、2人入部する人探してね」
「いきなり話が飛躍してるぞ!?」
「してないもん。だって後2人いないと部活作れないもん。秀二お願いね♪」
そんな可愛く頼まれても困るんだけどな……。
入学式が三日前で俺はまだクラスの人と話したことが無いし……。
それなのに良くわからないコミュニケーション部という部活に誘うのはきついぞ。
まあ、1人くらいならあてはあるけど……。
「2人はいない。1人は俺が誘うから沙耶が1人を誘ってくれ」
俺がそういうと沙耶は暗い顔をした。
「それは……駄目なの!秀二が2人見つけないと駄目だもん。駄目だもん駄目だもん駄目だもん」
沙耶は子供の様に駄々をこねている。
何で俺じゃないと駄目なんだ?でもそこまで言うなら
「わかったよ。だから駄々をこねるのはやめて」
俺は沙耶の頭に手をのせて頭をなでた。
「えっ、あっ……ちょ、ちょっと!子供扱いしないでよ!」
そんな強気な言葉を沙耶は放つが、言葉とは裏腹に顔を赤くしてうれしそうな表情を浮かべている。
「ごめんごめん。子供っぽいから思わずなでちゃった」
「もーなでちゃ駄目だもん!」
「わかったよ。それじゃあ、俺はもう帰るな」
「うん。部活の日程とかも決まってないから明日も来てね」
「わかった。んじゃまた明日」
「また明日ね」
こうして俺は不本意ながらもコミュニケーション部に入部する事になった。
まあ、まだ人数足りないからもしかしたら作れないかもしれないけど。
ただ、俺は創部させたい気持ちがある。
もう入部届けを出されたってのもある――けど、一番の理由は、困ってる人を放っておくって事が俺の性に合わないからな