3話 暴走。
3話 暴走。
「うぎゃぎゃぎゃがぁああああああ!」
グエンが、狂ったように、両手のマグナムを乱射しはじめた。
弾は、ろくに狙いも定まらないまま、校庭のあちこちに撒き散らされていく。
土煙が上がり、植え込みが千切れ飛ぶ。
「ああ、もう! うぜぇえ!」
普段の余裕など、もうどこにもなかった。
苛立ちがそのまま声になって漏れ出ている。
蝉原は、銃弾の雨の中、ギリギリのところで回避を続けていた。
けれど、
途中で、ガクっと、膝が折れた。
(ちっ……こんな時に、なんて無様――)
今日まで、蝉原は、僕の体を必死に鍛えてきた。
以前とは比べ物にならないぐらい強靱になった……けど、
それでも、まだまだ、僕の身体は脆いまま。
ここまでの、人間離れした動きの連続に、とうとう耐えられなくなったっぽい。
(やべぇ、死ぬ――)
頭の中で、そう思った瞬間だった。
横から、誰かが飛び出してきた。
――滝本。
今までみたことない必死の形相。
両手で、蝉原の身体を、思い切り突き飛ばす。
その直後。
彼女の腹に、一発の弾丸が、深く撃ち込まれた。
ズドン、という重い音とともに、貫通する。
「ああああああ!」
激しい悲鳴。
滝本の腹から、血が、止めどなく溢れ出していく。
蝉原は、すぐに体勢を立て直し、彼女のもとへ駆け寄った。
お姫様抱っこで抱え上げ、そのまま、グエンから距離を取る。
グエンは、もう、明確な標的すら見えていないようだった。
ただ、ひたすらに、銃を乱射し続けている。
崩れかけた壁の陰に身を隠しながら、蝉原は、滝本を地面に下ろした。
「……よくやった。褒めてつかわす。今のは助かった」
軽口を叩きながら、彼女の傷口に向けて、右手をかざす。
残っていた魔力を、すべて注ぎ込む。
けれど。
(足りねぇ――)
血は、止まらなかった。
顔から血の気が引いていく滝本が、震える唇で、
「こ、これで……昔のこと……チャラにして……くれる?」
その問いに、蝉原は、
「……ダメだ」
と答えた。
短く、硬い声だった。
その声に、僕は、一瞬、戸惑う。
蝉原らしくない何かが、その一言には滲んでいた気がした。
いつもなら、もっと、上手く誤魔化す。
もっと、軽く受け流す。
なのに、今のは……
まるで、考えるより先に、口が勝手に動いたみたいな。
「ぇえ……きびし……すぎ……」
弱々しく、滝本がそう呟く。
そこで、蝉原のイスを担当している担任が、息を切らせながら駆け寄ってきた。
「そ、総長! ぶ、無事ですか?!」
どうやら、本気で蝉原の心配をしている模様。
気室同様、先生もだいぶ躾けられている。
蝉原は先生に、
「このガキ(滝本)を連れて、病院にいけ。近くに俺の配下が車で待機している。俺の命令だと伝えろ。……こいつが生きていれば、お前の罪をチャラにしてやる」
「え、あ、御意!!」
滝本を抱えようとして、一度よろける先生。
と、そこで、
「あ、総長、御言葉はありがたいですが、チャラにはしなくていいです。今後ともぜひ私をイスに――」
「行け!!」
「は!!」
先生は滝本を抱え、今度こそ全力で走り去った。
★
乱射を続けるグエンを見ながら、蝉原は、静かに息を吐いた。
僕には、その横顔が、今までで一番、キレているように見えた。
声を荒げるわけでも、表情を歪めるわけでもない。
ただ、静かに、淡々と、何かが冷たく燃えているような――そんな気配。
三秒ほど、グエンの乱射をじっと見つめていた蝉原は、やがて、
「この体が壊れる可能性もあるから……できればやりたくないんだがな……」
そう呟きながら、残っている魔力と『オーラ』を全身に流し込む。
オーラに関しては、蝉原が以前、『生命エネルギーの何かしら』とかなんとか言っていたけど、僕にはよく分からない。
「勝っても……後遺症が残りそうだ。悪いね」
(……いいよ。別に。どうせ、蝉原と出会う前は……死のうと思っていたんだ。好きにしていい)
一瞬の沈黙のあと、
「オーライ」
短い返事とともに、注がれた魔力とオーラが、蝉原の体内で、一気に暴走を始めた。
ギュンドドドドド……。
まるでエンジンが唸るような音が、内臓の奥から響いてくる。
(これ、やばくない? 後遺症どころか、内臓破裂しない?)
「したらしたで……その時だね」
(えぇ……)
蝉原は、そのまま、鬼神のごとくグエンへと殴りかかった。
骨がバキバキと軋み、肉がひしゃげる音がする。
蝉原は、痛みを無視して、ただひたすらに拳を叩き込んでいく。
自分に殴りかかってくる蝉原を前に、グエンも、
「がぁああああ!」
咆哮しながら、攻撃を避けつつ、銃を乱射する。
蝉原は、その銃弾を紙一重で避けながら、なおも拳を打ち込み続けた。
超獣同士の肉弾戦。
もはや、技術も理屈もない、ただの殴り合い。
そして、目を鋭く光らせた蝉原が、拳に残った全力を込めて、
「――殺神覇龍拳!!」
大気を震わせるような、必殺のアッパーカット。
まるで、昇龍拳のような豪快な一撃が、グエンの顎を真下から打ち抜いた。
「がっはぁあああああ!」
顎が砕け、盛大に血を吐き出すグエン。
それでも、意識はまだ消えていなかった。
ギリっと、もう片方の目で蝉原を睨みつけながら、
「か……神よぉお……っ」
さらに、祈る。
膨れ上がっていく筋肉。
「おいおい……」
呆れた顔の蝉原。
……けれど、それは、途中で、ぷしゅぅ、と、
まるで空気の抜けた風船のように萎んでいき――
「が……ぁ――」
そのまま、グエンは、地面に崩れ落ちた。
先ほどまでとは打って変わってシンと静かになる現場。
倒れているグエンの様子を見つめながら、
全身ボロボロ、骨という骨が軋んでいる蝉原は、
「あー、しんど……」
と、心底だるそうに、そう呟いた。




