表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/91

26話 弟子入り志願。


 26話 弟子入り志願。


 遠足でテロにあった翌日。

 流石に、学校は臨時休校になった。


 命の危険に晒された生徒への配慮……ということらしいけど、正直、僕らクラスメイトの誰一人として、本気で怖がっていた記憶がない。

 だって、あの状況、蝉原がいる時点で、相手は完全に詰みだったから。


 というわけで、時間が余った僕は、昼からディアブロコミュニティの総会に顔を出していた。

 今日も次から次へと、相談者がステージ前まで進み出て、蝉原の裁きを仰いでいく。


「――というわけで、示談金は先方の言い値の半分でいい。それ以上払うと、こっちが舐められる」


「はっ、御意にございます!」


 みんな、悩みがつきないねぇ。


 蝉原がどれだけ快刀乱麻に片付けても、次から次へと、厄介事が絶え間なく舞い込んでくる。


 8割ほど裁き終えたところで、蝉原が、ステージ上の椅子に体重を預けて、軽く一息ついた。

 その隣に立っていた愛羅が、腕を組みながら、感心したように、


「相変わらず、凄まじいバイタリティだな、蝉原……昨日、テロにあったばかりとは思えない」


 蝉原は、鼻で笑いながら、


「あんなもん、テロでもなんでもないよ。ただの小テストだ」


「?」


 愛羅が、意味が分からない、という顔で首を傾げる。


「俺の言葉は気にしなくていいよ。それより、次に行こう」


「あ、ああ……」


 愛羅は、少し釈然としない様子ながらも、手元の紙をめくって、次の相談者の名を読み上げた。


「次――ファンタスティックのカイ。前に出ろ」


 その名前を呼ばれて、客席の後方から、一人の男が飛び出してくる。

 どうでもいいことだけど、最近、ヤンキー特有の変なチーム名にも慣れてきた。

 人間、何にでも慣れるものだね。


 ……カイは、バキバキの目をした男だった。

 髪は不自然なほど脱色されていて、根元だけ黒く伸びている。

 ジャージの裾はダボつかせ、鼻をひくつかせながら、やたらと落ち着きなく体を揺らしていた。

 傍から見ても、あまり良い雰囲気の人間には見えない。


 カイは、シアターホールの通路を全力で駆け抜けて、ステージ前まで辿り着くと、


「総長! 俺もあんたみたいになりてぇ!」


 声だけは、無駄にデカかった。

 周囲の座席に座っていた顔役連中が、何事かとざわつく。


「女も金も好き放題! 何をしても許される! そういう自由でイカした男になりてぇんだ!」


 ――なんて底の浅いセリフなんだ……

 いったい、今まで、この総会で蝉原の何を見てきたんだ……


 僕の視点だと、蝉原ほど不自由な男はいないよ。

 『ノブレスオブリージュ(大いなる力を持つ者の責任)』という名の強固な鎖に縛られていて、やりたいことは何もできていないように見える。


「どうやったら、総長みたいになれるのか、近くで教えてほしい! ようするに、俺を弟子にしてほしいんだ! 頼むぅう! この通りだぁああ!」


 そう叫びながら、カイは、ステージ前の床に、思いっきり額を打ちつけた。

 ゴンっという鈍い音が響いて、周りの座席にいた連中が、一斉にドン引きする。


 そんな彼を、蝉原は、路傍のゴミでも見るような目で、じっと見つめていた。


「弟子ねぇ……」


「金なら払う! 俺の女が風俗で働いているんだ! あいつの月給の6割を毎月わたす! それでも足りねぇなら、立ちんぼもやらせて額を増やす! だから、頼むぅう!」


 たまに、こういうバカがいるんだけど……

 分からないものかな?

 蝉原がこういうの、マジで嫌いだって……。


 これだけ、この総会で、色んな裁きの様子を見てきて……

 それでも分からないっていうのは、どういう構造の脳をしているんだろう。

 いや、だから、底辺のヤンキーをやっているのかなぁ……。


 僕が、心の中で盛大に呆れていると、


「よし」


 蝉原が、一言、そう呟いた。


「その心意気に胸を打たれた。弟子にしてあげよう」


「マジかぁ! よっしゃぁああ! サンキュー、総長!!」


 カイが、両手を突き上げて、雄叫びを上げる。


 客席のあちこちから、ちらほらと、

 『マジで?』『え、なんで?』というどよめきが起こった。


 僕も同じ気持ちだ。

 なんで?

 蝉原さん?

 マジで、なんで?

 こんなカス、絶対に弟子にしちゃダメでしょ……


 僕が動揺していると、

 蝉原は、スっとステージ上の椅子から立ち上がった。


 そのまま、迷いのない足取りで、ステージを降り、カイの目の前まで歩いていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
テロの翌日も働く総長の社畜精神、もはや清々しいです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ