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25話 避難訓練。


 25話 避難訓練。


「……爆弾ですかぁ」


 蝉原の声には、深刻さのかけらも、感じられなかった。


「仕掛けたのは、一つじゃない。この規模のビルを倒壊させようと思えば、一つでは、到底、足りないからな。もし、爆破を止めたいのであれば、すべての設置場所を探し出して、解除しなければいけない。……できるかな?」


 女は、そう、吐き捨てるように言った。

 その口元には、わずかに、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。

 これだけの規模の脅しを前にすれば、さすがのこの少年も、動揺するはずだと――そう、信じているような表情だった。


 しかし、蝉原は、


「設置している爆弾の合計数は、23個、で……場所は、だいたい、この辺かな?」


 机の上に広げられていた、フロアの見取り図を、無造作に拾い上げた。


 そして、備え付けのペンを手に取ると、その上に、あちこち、迷いのない手つきで、素早く、赤い丸をつけていく。


 一つ、二つ、三つ――

 まるで、あらかじめ、答えを暗記していたかのような、淀みない動き。


 女の表情が、初めて、大きく、揺れた。


「な……なんで……」


 声が、わずかに、上ずっている。


「おたくら、あまりにも、合理的すぎるんでね。一手一手から、相当なプロだということがうかがえる。……で、なんか、これ、全体的に、試験くさいんだよなぁ、と思ってね」


 その言葉に、隣で銃を構えていたモナルーズが、ぴくり、と、わずかに、肩を動かした。


 蝉原は、それに、気づかないふりをして、見取り図を、指で、とんとんと叩きながら、続ける。


「となると、爆弾の仕掛け方にも、対応できる法則性があるとみるべきだ。このビルを、最小の数で完全に沈めようと思ったら、現実的に、こういう配置になる」


「……」


「あってる?」


 女は、しばらくの間、蝉原の描いた、赤丸の配置を、食い入るように見つめていた。


 まるで、自分たちが、緻密に組み上げた計画の骨組みを、そのまま見透かされたような、そんな表情。


 やがて、諦めたように、小さく息を吐いて、


「……なるほど。有能だ」


「どうも」


「……ご褒美に、教えてやろう」


 女は、静かに、そう続けた。


「最上階にある爆弾を解除すれば、自動的に、すべてが、解除されるようになっている」


「へー」


 あまりにも、興味なさげな相槌だった。


「……信じていないのか?」


「いや。信じるとか、信じないとかじゃないね」


 蝉原は、あっさりと、そう答えた。


「だって、実際、そうだったから」


「……は?」


 女の眉間に、初めて、明確な困惑の色が浮かぶ。


「ここに上がってくるまでに、爆弾は、もう、解除しておいたよ」


 蝉原は、まるで、道端の石ころを蹴った、程度の軽さで、そう言った。


「せっかくの機会だから、よくあるドラマみたいに、青か赤のコードを、切りたかったんだけど……君ら、遠隔操作式にしてたでしょ? サクっと、ハックして、機能停止させてもらった。どうせなら、もう少し面白い仕掛けにしてほしかったよ。拍子抜けというか……普通にがっかりだ。大作ゲームだろうと期待したのに、2時間でクリアしちゃったみたいな感じ……」


 女は、しばらくの間、言葉を、失っていた。

 開きかけた口から、何を言うべきか、その言葉すら、見つからないようだった。


「最上階の爆弾を停止させたら全部が停止する機能になっているのは、気づいていたけど……念のため、全部、個別に無力化しておいたよ。おたくらの悪意の精度はともかく、技術力の方は、正直、かなり優秀だったから、万が一の抜け道があるかもしれないと思ってね」


「……」


「ちなみに俺なら、その先を行く。屋上の爆弾を解除すればいいと思わせておいて、いくつか、連動していない爆弾を用意しておく。もっといえば、そのすべてが解除された時用の爆弾も用意しておく。もっといえば……その先の先の先まで用意する。……『それでも突破してくる怪物』を想定して動くのが俺のやり方」


「ずいぶんと臆病なんだな」


「別にその評価でもいいけど……俺は現実を知っているだけさ」


 女は、そこで、ふっと、自嘲気味に、笑った。

 悔しさよりも、むしろ、どこか、清々しさすら滲むような、そんな笑みだった。


「……見事だ。すべての対応が完璧を超えている」


「どうも」


「……見逃してくれたら、一つ、とてつもなく有益な情報を与える。どうする?」


「もしかして、俺が、D級監視対象に選ばれた、ってことですかね」


 女の肩が、わずかに、震えた。


 それは、拘束された不自由さからではなく、明らかに、驚きからくる、震えだった。


「……っ」


「これまでに蒔いてきた種がそろそろ実るころかなぁ、と思っていたんですよねぇ。あってました?」


「……本当に、異常なガキだな」


 女は、深く、息を吐き出しながら、そう呟いた。


「俺なんて、大した悪党じゃないですよ。現状じゃあ、中ボスがいいところ。今の俺は、脆く弱く頭が悪い」


 蝉原は、にっこりと笑って、女の両手を縛っていた結束バンドを、静かに切った。

 プラスチックの破片が、床に、小さく落ちる。


 自由になった女は、


「過剰に謙遜しているのか、それとも無駄に自己評価が低いのか……どっちか知らんが……まあいい」


 拘束の跡が赤く残る手首を軽く擦りながら、ゆっくりと立ち上がった。


「蝉原勇吾……いずれ、また、会うだろう」


「では、その時に、またよろしく」


「……」


 女は、それ以上、何も言わなかった。

 ただ、一度だけ、蝉原の顔を、じっと見つめてから、フロアの陰へと、静かに、その姿を消していった。


 蝉原は、その背中が、完全に見えなくなるまで、しばらくの間、見送っていた。


 やがて、大きく、伸びをしながら、


「……ふぁ……しょうもない、避難訓練だったなぁ」


 小さく、あくびを、一つ。

 まるで、ひどく退屈な講義が終わったばかりみたいな……そんな軽さだった。


 隣に立っていた、モナルーズが、感心したように、


「さすが、ギャングスター。君は思った以上の男だったよ」


 と、そう褒めてきたので、


「Ma no, è lei semmai. Mi sembra un gangster più interessante di quanto immaginassi(いえいえ、そちらこそ、思った以上に面白そうなギャングスターですね)」


 蝉原は、にっこりと微笑んで、そう返した。

 えっと、今のはイタリア語……かな?






【自己鑑定結果】


 名前:蝉原勇吾

 種族:人間ヤクザ

 レベル:5

 

 HP:71/71

 MP:25/25

 

 筋力:17

 耐久:23

 敏捷:25

 魔力:20

 知性:D(A)

 悪意:D(S)

 根性:C(SS)

 IT:D(A)

 商才:E(A)

 戦力:D(極SS)

 心理:D(A)

 話術:D(A)

 人望:C(B)

 謀略:E(極SS)

 悪運:超SS(C)


 称号:『ダークヒーロー』『宇宙一のヤクザ』

    『ギャングスター』『ゴッドファーザー』

 魔法:『自己鑑定』『カンファレンスコール』

    『霊体回収』『拳気ランク3』

    『暗黒気ランク3』『フェイクオーラ』

    『極王気ランク3』

 スペシャル:『皇気』

『威圧覇気』『火事場のバカ気迫』

       『ピンチに鬼強い』『ド根性極道』

       『色男』『アストラルウィザード』

       『超テクニシャン』『殺人のプロ』

       『チャンスに超強い』『超忍び足』

       『邪悪な魂魄』『超々精神的支柱』

       『病的な極悪』



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― 新着の感想 ―
スペシャルのインフレ具合がロマンの塊すぎて面白い!
スペシャルが面白いことになってる センエースの悪役版というか……
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