表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/91

27話 刻印。


 27話 刻印。


「いい加減……倒れろよ」


 夜間が、渾身の拳を顔面に叩き込んだ。

 僕は盛大に吹っ飛んで、壁に激突。

 意識が、ふっと遠くなりかけた。


 その時、


(7分か)


 聞き慣れた声が、頭の奥に響いた。


(夜間相手に、よく頑張ったじゃないか。世界雑魚ランキング50億位ぐらいになれたんじゃないかな。ワースト1位だった頃を考えると大健闘じゃないか)


 と同時に、身体の感覚が変わった。

 蝉原が、主導権を奪った。


 意識がスイッチすると、体の痛みは感じなくなる。

 今、蝉原が、この身体の痛みを全部引き受けているはずだ。

 ……なのに、なんでこいつは、ケロっとした顔をしているんだ。


 それがヤクザの見栄ってやつなのだろうか。


「まだ、立つのか」


 夜間が、わずかに目を見開いた。


「頑丈さだけは認めてやっても――」


「さて、夜間」


 蝉原の声が、静かに遮った。

 首をゴキゴキと鳴らしながら、美しく挑発的に、


「7分ほどサンドバッグをしてやったわけだが、ここからはこっちのターンだな」


 にっこりと、笑う。


「俺の攻撃に7分耐えてもらう。出来なかったら、腕をもらうぞ」


 その言葉の直後、凪が目を輝かせて、


「きたぁあああ! エンペラァアタァアアイム!! さっきまで自由に殴らせていたのは、力量差をハッキリさせるためだったんすねぇえええ! やっぱ、渋すぎ、総長!!」


 次の瞬間、蝉原が動いた。

 さっきまでと、何もかもが違った。

 同じ身体のはずなのに、まるで別の生き物が入っているみたいだった。


「……な、なんだ……急にーー」


 夜間も動揺している。

 ゴミみたいな雑魚が、急に、総合格闘技のチャンピオンみたいな動きになったんだから当然。


「足元のお留守番がアクビをしているね」


 綺麗な水面蹴りが、夜間の重心を刈り取る。


「うぉっ!」


 夜間の身体が、宙に浮いた。


「殺神覇龍拳!」


 落ちてきた顔に、蝉原のアッパーが炸裂した。

 必殺技名を叫ぶのはどうかと思うけど、その切れ味は本物だった。


「ずぐぁあああ!」


 夜間の巨体が持ち上がる。


 そこから先は、一方的だった。

 踏み込み、崩し、打ち込む。

 全ての動作に無駄がない。

 夜間が受けるたびに、骨に響くような音が会場に広がる。


 3分ほどで、


「が……」


 夜間は膝から崩れ落ちた。


「3分12秒。7分には全然足りていないね」


 蝉原の声は、静かだった。


「では、腕をもらうぞ」


 冷たい声を受けて、

 夜間は、


「……ま、まだ……死んでない……倒れた……だけだ」


 夜間が、震える声で言う。

 僕の比じゃないぐらいボコボコにされているのに……夜間の目はまだ死んでいない。


 彼女は、だいぶすごいレディースだ。

 蝉原と比べたらかすむだけで、そこらの雑魚とは格が違う。


 蝉原は、そんな夜間に、


「君が気絶するまで殴るのはしんどいよ。殺しちゃうかもしれないし」


 そこで、蝉原は、振り向いて、


「愛羅……あれ、用意できてる?」


「ええ」


 愛羅が差し出したのは、電熱式の焼きゴテだった。

 特殊な形状の、小ぶりなもの。


 蝉原は、それを夜間の腕に押しつけた。


「あつっ」


 一瞬の沈黙のあと、焼きゴテを離す。

 夜間の腕に、悪魔の紋章が刻まれていた。

 綺麗に、くっきりと。


「ディアブロの刻印をプレゼント。俺のサインみたいなもの……これで君の腕は俺のもの。今後、俺の右腕として頑張るように」


「……」


「なにか文句でも?」


「ひ、ひとつだけ……きかせてくれ……」


「なにかな?」


「あんた、強すぎる……どうやったら、そこまで……強くなれるんだ?」


 夜間の声は、怒りでも悔しさでもなかった。

 純粋な問い。


 蝉原は少し間を置いてから、


「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。それが秘訣だね」


「……」


「知らない? 亀仙流の教えだよ」


 蝉原は、にっこりと笑った。


「教養が足りないねぇ。そんなんじゃ俺の右腕として失格だぞ、と」


 会場が、一拍の沈黙のあと、どっと沸いた。

 笑い声と、どよめきと、どこか安堵したような空気が混ざり合って、シアターホール全体を満たしていく。


「総長、強すぎぃ!」

「ゲロ吐く演技は必要なかったんじゃないすか!」

「夜間、お前も、なかなか強いじゃねぇか!」


 刻印を押された夜間は、ぼんやりと自分の腕を見ていた。

 怒っているのか、納得しているのか、よく分からない顔だった。


 たぶん、両方なのだと思う。


 凪は、羨ましそうな目で夜間の刻印を見ていた。


「総長! ボクにも、ぜひ、あの刻印を!! 総長の所有物である証を、このボクの腕にもぜひ!!」


 そう言って腕を差し出してきた。

 蝉原は、鼻で笑って、


「また今度ね」


 と、あしらうようにそう言った。


 ――ちなみに、今日もセフィアさんはずっと蝉原を見ていた。

 この大騒ぎの最中も、一秒たりとも視線を外さずに。

 もはや、それが当たり前の光景になってきてしまった自分が少し怖い。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公が繋いだ7分間からの「エンペラータイム」、 鳥肌が立ちました!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ