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笑いの授業  作者: ひろみ透夏
高城の章

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【高城の章】佐倉咲美 03

 

「きゃぁあああああっ!」



 いきなり叫び声をあげた佐倉(さくら)の口を、あわてて高城(たかぎ)が押さえつける。

 コツコツと硬い足音を響かせながら、壁一枚隔てただけの音楽室を、誰が歩いている。


 高城(たかぎ)は片手で佐倉(さくら)の口をふさぎながら、もう片方の手で破裂しそうに暴れる自分の心臓を、制服の上からぎゅっと押えつけていた。そうしないと、心臓の鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと思ったのだ。


 足音がまっすぐ音楽準備室に向かって来て、ドアの前でぴたりと止まった。

 額から流れる汗が目に入ってしみるのも構わず、音楽準備室のドアを凝視する。  



 ガチャガチャガチャ!



 激しい音を立てながら、ドアノブが狂ったように回される。

 佐倉(さくら)は口をふさがれたまま悲鳴を上げて、そのまま気を失った。

 ドアにはめられたガラスが甲高い音をたてて割られ、先生の不気味な笑顔がのぞき込む。


高城(たかぎ)くん、佐倉(さくら)さん、みいつけた……」



 そんな想像をしただけで、高城(たかぎ)まで気を失いそうになった、そのとき――。




塚田(つかだ)くん、み~っけ!」



 突如、音楽室から、明るく大きな声が響いた。

 それは間違いなく神楽坂(かぐらざか)先生の声だったが、高城(たかぎ)の目の前にあるドアは破られていない。


塚田(つかだ)……?) 高城(たかぎ)は耳を疑った。

(いま塚田(つかだ)って言わなかったか?)


 きゅっと上靴の音を響かせて、塚田(つかだ)と思われる足音が、音楽室から走り去っていく。

 コツコツと硬い音を響かせて、神楽坂(かぐらざか)先生と思われる足音が、その後を追いかけていく。


 音楽室に、また沈黙がおとずれた。



佐倉(さくら)! 佐倉(さくら)、起きて!」


 高城(たかぎ)は気を失っている佐倉(さくら)の両肩をゆらして、無理矢理に起こした。


(とおる)が先生に見つかったんだ! 助けにいってくる!」


 それを聞いた佐倉(さくら)は、ぼんやりとした視線を急に尖らせて怒鳴った。


「だめ! あぶないよ! わたしと一緒にここにいて!」


(とおる)は親友なんだ。大事な俺の相方なんだ。見捨てるわけにはいかないよ」


「わたしは大事じゃないの? わたしは見捨ててもいいって言うの? わたしのこと守ってくれるって約束したじゃない!」


「すぐに戻るから。いま行かないと(とおる)は助からないんだ」


 立ち上がり、走り出そうとした高城(たかぎ)の腕をつかんで、佐倉(さくら)が叫んだ。


「じゃあ、抱きしめてからいって! ひとりぼっちで待ってるなんて、怖くてたまらないんだから!」


 とんでもない佐倉(さくら)の要求に一瞬耳を疑ったが、もたもたしていると塚田(つかだ)が先生に捕まってしまう。

 しかたなく高城(たかぎ)は膝をついて、佐倉(さくら)の体を力いっぱいに抱きしめた。どんどんとノックされているみたいに、佐倉(さくら)の胸の鼓動が、高城(たかぎ)の胸に伝わってくる。



(あれ。俺いま、生まれて初めて女の子を抱きしめているんだ……)


 恐怖も焦りも一瞬忘れてしまうぐらい、妙なほど冷静になった高城(たかぎ)は、急に恥ずかしくなって佐倉(さくら)から離れようとした。


 が、佐倉(さくら)の腕が離さない。

 両肩をつかんでなんとか離れると、佐倉(さくら)は目をつぶって、唇をつきだしていた。


「ばかっ! おまえこんなときに、なにしてるんだよっ!」


「言わせないでよ! 誰ともキスしないで死ぬなんて、(りょう)ちゃんだって嫌でしょ?!」


 雲の隙間を縫った月明かりが、小窓から部屋に注ぐ。

 佐倉(さくら)の顔が、透き通るようなブルーの光に照らされた。


 高城(たかぎ)はもう一度、今度はやさしく佐倉(さくら)を抱きしめた。

 いままで気付きもしなかった、佐倉(さくら)の甘い香りを感じながら誓う。



「死なないよ。咲美(えみ)も絶対に死なせない。だから俺を信じて、ここで待ってて」



 潤ませた瞳を月明かりに輝かせながら、佐倉(さくら)はこくりとうなずいた。





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