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笑いの授業  作者: ひろみ透夏
高城の章

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19/22

【高城の章】壊れた先生 01

 

「きゃぁあああああっ!!」



 女子生徒の悲鳴が、闇に沈んだ教室内に響く。


 視界が一切きかない暗闇のなかで、生徒たちのざわめきだけが、とぐろを巻く蛇のように辺りをうごめきながら一箇所に集まっていく。


 と、そのとき、ブラックライトを仕込んだ人魂に明かりがともった。


 天井に描かれた巨大なガイコツが覆いかぶさるように姿をあらわし、棺から体を投げ出すミイラ男、白い着物姿の女の幽霊とともに、白いブラウスを着た神楽坂(かぐらざか)先生の姿が、教壇の上で紫色に浮かび上がった。


 まるでそれらと対峙するように、教室のうしろの隅のほうに、怯えるように固まって集まる生徒たちのワイシャツやブラウスが紫色に光っている。



「なんだよ、これ? 脅かしているつもり?」


 男子生徒のひとりが、引きつった笑い声とともに言った。

「もうわかったから電気つけろよ。だれだよ、いま叫んだやつ。冗談きついぜ」



「冗談なんかじゃないよ……」



 教室の真ん中にひとり取り残されて腰を抜かしている女子生徒が、震える声で言った。


 そのかたわらには、段ボール製の墓石を押し潰すようにして倒れている、もう一人の女子生徒の姿があった。口元から、墓の上にどす黒い液体が滴り落ちている。



「先生! 珠木(たまき)さんが、血を吐いて倒れたんです!!」



 腰を抜かした女子生徒が、震える声で先生に訴えた。


 教室が、ざわめき声で埋め尽くされる。

 しかし神楽坂(かぐらざか)先生は取り乱すことも、教壇の上から珠木(たまき)に駆けよることもなく、細い銀縁の眼鏡をついとずり上げて言った。



「やあね、珠木(たまき)さん。黙って死んだら駄目でしょ。もっと苦しいとか、助けてとか、大声で叫んで倒れないと、見ている人に状況が伝わらないじゃない」



 何を言っているの? 先生?



 不可解な空気が教室を支配するなか、先生が静かに続けた。 



「みんな安心して。これは『ワサビ寿司ルーレット』と同じです。毒入りジュースは一つしかありません。あれ、二つ? 三つだったかな?」



 静かに膨らみ続けていた神楽坂(かぐらざか)先生への疑念と恐怖の風船が、一気に破裂した。


 生徒たちはパニックにおちいり、怒号、怒声がうずまくなか、先を争うように教室から飛び出し、手洗い場に向かって走り出す。


 途中、また一人、男子生徒の断末魔が廊下に響き渡った。



「安川くん、いいリアクションよ。だけどもっと無様に死なないと、みんなに笑ってもらえないわよ。次はクジラみたいにぷーって空に向かって血を吐きなさい。ぷーって!」



 教室の前の引き戸から廊下をのぞき込み、お腹を抱えて笑い出す神楽坂(かぐらざか)先生。



「あはは。次って笑えるよね。もう次なんてないのに」



 笑い続けて苦しくなったのか、息も絶え絶えの体を教室の引き戸にもたせかけ、しばらく呼吸を整えている。




 神楽坂(かぐらざか)先生が……壊れた……。




 高城(たかぎ)はそう感じながらも、パニックにおちいりそうな自分を懸命に抑えていた。


 ジュースには手をつけていない。この状況さえ乗り切れば、自分は大丈夫だ。


 一人逃げ遅れた高城(たかぎ)は、教室の隅に身を潜めたまま、息を殺して先生の後ろ姿を見つめていた。

 早鐘を打つ心臓をぎゅっと押えつけながら、立ち並ぶ墓石の陰に身を潜めようと、かがめた体を慎重に動かす。


 そのとたん、とつぜん先生が振り返り、教室のなかに呼びかけた。



「ねえ、そう思わない? 高城(たかぎ)くん」



 おどろいた高城(たかぎ)は自分の姿を見た。

 完全に身を隠したと思っていたが、首に巻いていた白いタオルが稲田(いなだ)家の墓石の角にひっかかり、紫色に光っていたのだ。


 まっすぐにこちらを見つめる先生の細い銀縁眼鏡が、廊下の窓から差し込む月明かりに反射して、怪しいほどに光っている。



「そんなところに隠れていないで、さっさと逃げなさい。もう笑いの授業は始まっているのよ。次の罰ゲームは『朝まで鬼ごっこ』……。いえ、『朝まで缶蹴り』かな? 必死に逃げまわって、面白いリアクションで先生を笑わせてね」



 先生は教壇のほうへゆっくり歩いていくと、どこに隠しておいたのか派手な飾り付けの段ボール箱を教卓の上に無造作に置いた。


 そして丸く開けられた穴に手を突っ込み、まさぐり始める。

 いきおいよく引き抜いた手がつかんでいたのは、ピンク色をしたカラーボール。


 そこには黒の油性マジックで『カナヅチ』と書かれていた。



「う~ん、いまいち。先生、『ノコギリ』のほうが好きなんだけどなぁ」



 そう言いながら、文化祭の準備で使っていた金づちを教室の隅に置かれた道具箱から取り出すと、墓石のうしろで腰を抜かしている高城(たかぎ)の前まで歩み寄る。



高城(たかぎ)くん、つ~かま~えたっ!!」



 明るい声を教室中に響かせて、先生は満面の笑みで金づちを振り上げた。




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