【高城の章】大正解! 01
長かった夏休みが明けた。
初日の朝、高城は自分の席に座りながら、落ち着きなく貧乏ゆすりをしていた。
塚田や佐倉の話が、あの日以来、頭から離れなかったのだ。
「だから漫才はコントにおいての舞台設定と配役を短時間で説明しなくてはならない難しさはあるものの、舞台設定にしばられないぶん、瞬時に場面と配役を変更できるという利点がある。その点で言えば落語なんてハリウッド映画なみの世界をひとりで……」
目のまえで塚田がお笑い講義をしているが、高城の耳には一切入っていなかった。
(教室の引き戸を開けて、とつぜん別の先生が入ってきたらどうしよう)
そんなことばかり考えて、不安に胸が騒いでいた。
がらりと引き戸を開き、一組の担任の稲田先生が入ってくる。
神妙な顔で、しばらくみんなの顔を見回し、ようやく重たそうな口を開いた。
「誠に残念ですが、神楽坂先生は夏休みのあいだにお亡くなりになりました。
前途ある若い教師が、はじめてクラスを受け持ってほどなく、このような結果になってしまったことは、我々としても非常に残念です。
……原因はわかっているな高城、おまえのせいだ!」
みんなの尖った視線が高城に集中する。
そのとたん鐘の音が鳴り響き、高城は我に返った。
(ろくでもない想像しちまったな、まったく……)
額から止めどなく流れ落ちる汗を、手の甲で懸命に拭いさる。
「どうした亮介、暑いのか? なら、俺のクールな笑いで暑さを吹き飛ばしてやるぜ。……暑は夏いねぇ。ってきみ、それを言うなら夏は暑いだろ!」
高城の汗が暑さのせいだと思ったのか、彼にしてはくだらない、ひとりボケツッコミを言い残して、自分の席へ戻っていく塚田。
お笑いでは、つまらないギャグでその場の空気が凍り付くことを『寒い』という。そこに引っかけたギャグだったのだが、いまの高城に気付く余裕はない。
始業の鐘の音が鳴り止むと同時に、教室の引き戸が、がらりと開いた。
高城の顔を流れる汗が、あごの先からぽたりと机に落ちた、そのとき。
教室の引き戸から姿を現したのは、神楽坂先生だった。
ほらみろ、徹! 神楽坂先生、ちゃんと生きているじゃないか!
喜びのあまり、高城はいきおいよく席を立って、そう叫びそうになったが、のど元まで出かかった言葉をあわてて飲み込み、ゆっくりと椅子に座り直した。
「日直、号令遅いよ! って、俺の起立が早すぎるのか。えへへ……」
寒々しいひとりボケツッコミでその場をごまかすも、高城は内心、ほっと胸をなで下ろしていた。
(やっぱり先生は天然なんだ。みんなのまえでびしょ濡れになったことぐらい、なんとも思ってないさ。むしろみんなに笑ってもらえたんだから、感謝して欲しいぐらいだ)




