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笑いの授業  作者: ひろみ透夏
神楽坂の章

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11/18

【神楽坂の章】プール事件 01

 

 夏休みを間近に控えた、ある日の午前中。


 一年二組は体育の時間を利用して、一組と合同でプール掃除をすることになっていた。


 その時間に授業のない神楽坂(かぐらざか)先生も手伝うことになっていたが、更衣室のロッカーに入れておいたジャージが見当たらない。職員室の机にもないので、先生は教室に行って自分の机のまわりを探すことにした。


 すでに二組の教室は女子生徒が着替えに使用しているので、窓もカーテンも閉め切られた教室内は薄暗く、むんと熱気がこもっている。

 神楽坂(かぐらざか)先生は額に汗を浮かべながら、引き出しの中はおろか、机の下にまで潜り込んで自分のジャージを探した。



「先生、どうしたの? あわてちゃってさ」



 すっかり体操服に着替え終わった一組の女子生徒のひとりが、そんな神楽坂(かぐらざか)先生の姿を見て、心配そうに声をかけてきた。



「先生のジャージが見当たらないの。こまったなぁ、この格好だと汚れちゃうよね」



 神楽坂(かぐらざか)先生は白いブラウスに、ベージュのタイトスカートをはいていた。

 この格好でプール掃除など、どう考えてもありえない。



 着替え終わった一組の女子生徒たち数人は、声を掛け合って教室のなかを一緒に探した。


 二組の女子生徒たちは、遠巻きにその光景を眺めつつも、気にも留めない様子で談笑しながら着替えている。



「先生、ほかの場所に置いたんじゃないの? これだけ探してないんだから、きっとここにはないと思うよ」


「そうでしょうけど……」



 すでに教員用の更衣室も職員室も散々探しまわっている先生は、あきらめ切れずに、辺りに視線をさまよわせながら教室を歩き回った。



「隠されたんじゃないの?」



 そのとき、教室のうしろの引き戸から入ってきたのは、珠木(たまき)早苗(さなえ)だった。

 いまだ制服に身を包んだ彼女は、ようやく自分のロッカーからジャージを取り出し、着替えを始めた。



「そんなわけないじゃん。誰が隠すっていうのよ」



 笑いながら言った一組の女子生徒に、珠木(たまき)は真面目な顔で言い返した。

「妬まれてるんだと思うよ。神楽坂(かぐらざか)先生、生徒に人気あるからさぁ」



 一瞬にして、教室が静寂に包まれる。

 みな、神楽坂(かぐらざか)先生を横目で見ながら、ひそひそと小声で話をしている。

 一緒に探してくれた一組の生徒でさえ、苦笑いを浮かべながら先生から目をそらした。


 生徒の動揺を感じ取った神楽坂(かぐらざか)先生は、わざと明るく振る舞いながらこたえた。



「先生方が、そんないじめみたいなことするわけないでしょう」


 すると珠木(たまき)が、にやりと不敵な笑みを浮かべた。


「笑える。先生たちに妬まれてるなんて、ひと言も言ってないのに。……もう行こう、みんな」



 すっかり着替え終わった珠木(たまき)は、女子生徒たちを引き連れて教室をあとにした。



 薄暗い教室に取り残された神楽坂(かぐらざか)先生のまわりには、もう誰もいなかった。




           *




「どうしたんですか、その格好? ジャージに着替えてと言ってあったでしょう」


 神楽坂(かぐらざか)先生の格好を一目見るなり、一組の稲田(いなだ)先生は肩を落としてそう言った。



「すみません。あの、持ってきたはずのジャージが見当たらなくて……」



 山の瀬中学校のプールは、第二校舎わきの高台になった場所にある。

 抜けるような真夏の青空のもと、一組と二組の生徒は、すでに体操服に着替えてプールサイドに並んでいた。

 目のまえで怒られている神楽坂(かぐらざか)先生を見て、みな、くすくすと笑っている。



「仕方ないな。じゃあ用具置き場の整頓でもしていてください」


 ため息を残してその場を去ろうとした稲田(いなだ)先生に、神楽坂(かぐらざか)先生はあわてて食い下がった。



「あの、わたしやります! 転ばなければ、どうってことはないですから!」



「いいんですか? まあ、あなたには、なにを言っても無駄だからな」


 皮肉のこもった苦笑いを浮かべると、稲田(いなだ)先生は神楽坂(かぐらざか)先生にデッキブラシを手渡した。



「よおし、おまえら! プールに入って床をこすれ! 滑るから気を付けろよ!」



 稲田(いなだ)先生の号令のもと、水が抜かれたばかりのプールに、生徒たちがおそるおそる降りていく。




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