表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄氷の恋 ――不倫した妻と僕を結ぶものは、罪悪感という名の感情、ただひとつ――  作者: 書峰颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/35

第31話 ※巻島視点

「悟、ちょっといいかな?」


 名古屋へと出張して二日目。

 俺へとユリカから着信が入る。


「何よ? 悠全なら多分、マヤと一緒だぜ?」


「それは知ってる、あのね、なんか家に、監視カメラが仕掛けられてるみたいなんだよね……」


「監視カメラ?」


「うん、棚の上」


 ユリカが目ざといと言うよりも、悠全が間抜けなんだろうな。

 棚の上の変化なんて、主婦なら普通気づくだろうに。


 まぁ、悠全らしいっちゃらしいけどよ。


「どうしよう、木曜日に屋炭来るんだけど……」


「どうするも何も、そのままにしておけばいいんじゃねぇか? どっちにしろ悠全にはもう不倫がバレてるんだ。潔く全部を見せるしかねぇよ」


「全部見せるって、やだよ、悠君には見られたくない。今だって泣きそうな毎日を過ごしてるのに、これ以上なんて耐えられないよ」


 声で分かる。

 これは本気で嫌がってるな。


 だが、ここでユリカが折れちまった場合、計画の何もかもが破綻しちまう。


「ユリカ、悠全がどういう男か、ユリカが一番理解してるだろ?」


「……うん」


「アイツは一本気な男だ、嘘が大嫌いなんだ。なのにユリカは二年間、悠全へと屋炭のことを隠していた。理由はどうあれ、これは悠全からしたら立派な裏切り行為だ。贖罪してもらうには何もかも包み隠さず伝えるしかねぇ。動画データも削除出来てねぇんだろ? まだ踏ん張らないといけないところなんだよ……辛いかもしれねぇが、ここは我慢だ」


 受話器の向こうで、ユリカは泣いていた。

 はっきり言って今回の件、ユリカは何も悪くない。

 正直なところ、屋炭をこの手でぶん殴りたかった。


 だが、それじゃ何も解決しない。

 マヤの問題も、ユリカの問題も。

 

「……なんだか、辛いな」


 通話が終わった後、ひとりごちる。


 思い浮かぶのは、昔の姿のユリカだ。

 毎日俺のとこに来て、泣いていた日々。


 アイツは今も昔も、ずっと泣いていた。

 もう、泣かせたくない。

 毎回、そう思っているんだけどな。



「悟、データの削除成功した!」


 数日後、跳ねるような声でユリカから電話が掛かってきた。


「おお! そうか! ちゃんと目の前で確認したか?」


「うん! 警察は入らなかったみたいだけど、懲戒免職されたみたいで、なんか弱気になってたからそこを一気に突っ込んでみたの! そしたら〝将来の奥さんの頼みだからね〟とか言ってきてさ! もうウキウキが止まらなかったよ!」


 泣いてたのが嘘みたいに喜んでくれて、まぁ凄いこと凄いこと。

 今の世の中、一度でもネットに動画が出回ったが最後、生涯消えることは無いだろうからな。

 この成功は、間違いなく大きい。


「それで、屋炭はどうしたんだ?」


「もう別れちゃった!」


「は? もう別れた?」


「うん、だって悠君も嫌がってたし、もう目的は果たしたし」


「ああ、いや、それは構わないんだが、屋炭はそれで納得したのか?」


「私の意見で納得するような男なら、悟に相談してないと思わない? とにかく、もうアイツとは完全に終わったの、だから悠君との復縁に動くようにするから、マヤちゃんにも宜しく言っておいてね!」


 おいおい、勢いがすげぇな。


 まぁ、屋炭には懲戒免職という形で復讐は済んでいるとも言えるし、データ削除に成功したのなら用済みと言えなくはないか。


 しかし、マヤの方がまだ何も進展していないんだよな。

 最近の悠全を見るに、惚れているのは間違いないとは思うんだが。


 少し、突いてみるかね。

 などと考えていたところで。

 

「君に、聞きたいことがあるんだ」


 俺のところに、悠全から連絡が来ちまった。

 

 どう答えるのが正解か、いろいろと考えはしたものの、悠全は嘘が嫌いってのは、ほんの少し前に俺がユリカへと伝えた言葉だ。


 悠全は俺を完全に信用している。

 ここでアイツの信用を失う訳にはいかない。


「俺が、ユリカさんからお願いされて、お前に不倫を勧めたんだ」


 だから、ここで少しだけ、種明かしをすることにした。

 ユリカの目的は悠全とのやり直しだ。

 データを削除したのだから、こちらの話を進めても問題はない。 


 受話器越しに怒鳴られはしたものの、殴られる覚悟で足を運んだ先で、アイツは笑って俺を許してくれた。


 悠全の中で俺がどんな存在なのか、それが分かっただけでも嬉しく思える。


 嘘と本当を入り混ぜながら会話をし続け、このままこの会話は終わりを迎える。

 そんな、甘い考えを抱いていたのだが。


「巻島」


「ん?」


「マヤと巻島は、どんな関係なの?」


 驚愕した。

 なぜ、そこにたどり着く事が出来る。


 マヤが俺達を裏切った?


 いや、あり得ない。

 それにマヤが俺達を裏切ったのなら、こんな疑問形で質問することはない。


「さすがに、何もないぜ?」


「……まぁ、そうだよね」


 俺は一体、どんな顔で返事をしたのか。

 とにかく、生きた心地がしなかった。

 

 早めに動いた方がいい。

 このままだと、いずれ悠全にバレる。


 その後、俺は春雪と二人で映っている写真が何かないか、名古屋で悠全と映っている写真がないかを、マヤへと問い合わせた。


「……何に使うのですか?」


「そっちの問題解決の為に使いたい」


「……そうですか、わかりました」


 どこかぎこちない返事だった。

 思えば、ここで俺は気づくべきだったのだろう。

 一番あっちゃならない、最悪の可能性を。


「この写真を使って、物井カナミって人と、花桐哲臣って人と会ってくればいいんだよね」


「ああ、二人ともマヤの不倫相手の妻って言えば、間違いなく会ってくれるはずだ。それとその写真を悠全にも見せれば、アイツは動く」


「悠君って曲がったこと大嫌いだから、間違いなく動いてくれるだろうね。ふふっ、私の旦那さんが動いたらどうなるのか、徹底的に知らしめて欲しいな」


 結果として、悠全はその日の内に物井家へと乗り込み、カナミ、哲臣との対談に成功した。だが、マヤの話では完全解決には至っていない。


 それでも、腰の重い春雪を動かすには、充分過ぎる刺激にはなっただろう。

 最後のトドメは、俺で充分だ。


「久しぶりだな春雪」


「え、巻島君? どうしたの急に」


 久しぶりに再会した旧友は、随分と老けている様に見えた。


「マヤからいろいろと話を聞いてな」


「マヤから?」


「お前、いつまで逃げてんだよ」


 昔から春雪は引っ込み事案な男だ。

 今回も流されるままに終わろうとしている。


「カナミちゃんを取られて悔しいんだろ? だったら力尽くで奪い返せばいいじゃねぇか」


「でも、カナミの気持ちも、僕は分かる」


「分かる必要なんざねぇだろ、お前がマヤと付き合ってた、だからなんだ? 人間生きてりゃ何回も恋愛なんざするし何回も別れるんだよ。お前の場合、それがたまたま姉妹だったってだけの話だ」


「でも、僕は」


「でもじゃねぇ、お前が一番愛しているのは誰だ? カナミちゃんなんじゃねぇのか?」


 煮えきらない態度に、イライラする。


「いいのか? どこから出てきたか訳わからねぇ男なんかに取られて、それで本当にカナミちゃんが喜ぶとでも思ってんのか? おい、どうなんだよ春雪! 俺からマヤを奪ったお前は、本当にそんな男だったのかよ! 答えろよ、春雪!」


 昔、俺はマヤのことが好きだった。

 高校時代の青い思い出だ。

 だが、俺は春雪とも親友だった。


 譲ったつもりはねぇ。

 完全に負けただけの話だ。


「怒鳴っちまって済まなかったな」


「いや、いいよ」


「だがな春雪、俺達も若くねぇ。これ以上は突っ込まねぇけど……今動かないと、本当に取り返しがつかない事になるぜ? 後悔先に立たずって奴だ。今なら悠全が開けた穴がある、動くなら今なんだよ」


 叱咤激励ってのは、どうにも苦手だ。


 だが、下手くそが下手くそなりに精一杯頑張った行動ってのは、結果が付いてくるもんなんだ。


「巻島君、春雪君が動いてくれました」


 それからすぐだ、マヤから離婚成立の連絡が入ったのは。


 哲臣のことを徹底的に叩きのめした春雪は、その場でカナミちゃんを奪い返し、マヤとの離婚届に捺印させ、家から哲臣のことを追い出したらしい。


 まったく、それが出来るんならとっととやりゃあ良かったんだ。


 どいつもコイツも無駄に俺を頼りやがって。

 という感情を表に出すほど、俺は若くはない。

 全てを飲み込み、平静を装う。 


「そうか、良かったな」


「巻島君、春雪君に何かしました?」


「いや? 別に?」


 俺の活躍にする必要はないだろう。

 それよりも、俺達にはするべき事がある。


「これで、マヤが悠全と別れれば全て一件落着だな。あー長かった、これでようやく、肩の荷が下りるって奴だぜ」


「……あのね、巻島君」


 意味深な感じで、俺の名を呼ぶ。

 ぎこちない感じ、言えないことを伝える感じ。


 とても、嫌な感じだ。


「なんだ?」


 一番あっちゃいけない可能性。

 今回のシナリオで一番のバッドエンド。

 それを、マヤは選択しやがった。


「……ごめん、私、ゼン君のこと、本気で好きになっちゃった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ