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第五十話 ボルクス村でのんびり過ごそう

 ついにダンジョンの秘密を知ったパーティ四人。一応制覇したけど、当分はボルクス西のダンジョンを活用してレベルを上げようということになりました。セインの望み通り、ある意味のんびりした日常です。

 朝目覚めると、いつもの天井が視界に飛び込んできた。一月半ほど世話になっている部屋だ。もう十分になじんでいる。

 顔を洗いに階段を下り、井戸端へ向かう。仲間達もほぼ同じ時間に目を覚ましていて、井戸で一緒になることが多い。この日もそうだった。

「セイン、おはよう」

「おはよう、みんな」

 そしてそれぞれ順番に顔を洗って、眠気を消し飛ばす。ついでに水分も補給しておく。

「今日は何体くらい狩れるかな」

「無理のない範囲で、五、六体も狩れば十分でしょ」

「そうそう。しばらくここでレベル上げるんだもんね」

「戦闘はあるけど、のんびりした生活になって、ちょっとうれしいかな」

 そんな会話を交わして朝食へと向かう。

 朝食の支度はギルドの一家がやってくれる。ギルド長のタイロン、その妻ナタリア、娘のアイナ、息子のポルタ。いつもこの四人で手分けしてやってくれている。何度か手伝おうかと申し出たが、狭いし、パーティの四人は客だから、支度は家族だけで十分と断られている。

 支度が終わると、八人全員で朝食となる。

「いただきます」

 挨拶が唱和し、みながそれぞれ食事を口にしていく。

「アイナとポルタは今日も学舎で勉強だろ。頑張れよ」

「ありがとう。みなさんも魔物退治、頑張って下さいね」

「俺達は村で柵の修繕の仕事を手伝ってくる」

「私は畑の手伝いね。みんなはいつものダンジョンよね」

「はい。今日も頑張ってきます」

 食べながら互いを応援し合ったり、その日の予定を話したりと軽く会話をする。ギルド一家の客扱いではあるが、実際家族と同様の接し方をしてくれる。心遣いの温かな一家である。


 朝食を終えると、一度部屋に戻り装備を整える。

 そして一階に下りると、アイナやポルタが出かけるのと大体一緒になる。

「じゃあ、今日も頑張ってね」

 ナタリアから昼食を貰い、出発である。

「いってきます」

 四人はギルドを出て、村を抜けていく。途中、村人に出会って挨拶をすることもある。

「おはよう。今日もダンジョンかい。頑張っておいで」

「おはようございます。はい、頑張ってきます」

 そして村を通り抜けると草原に出る。草原を抜けて森の中へ。細い道をたどって森の奥深くへ進んでいくと、切り立った崖に出る。ここにダンジョンの入り口があった。

「さて、今日もできるだけ狩るぞ」

「そうね。無理せず、でも効率よく、しっかり連携して頑張りましょ」

「僕の回復魔法、出番がないのが一番だから。今日もケガに気を付けて」

「よし。それじゃあ行くわよ」

 隊列はいつも探知役のシーフのカーラを先頭に、壁役のヒーラーのセイン、火力のメイジのマリサ、後方警戒の戦士のジョルダンの順だ。これは最初にダンジョンに挑戦した時から変わっていない。四人にもなじみのある隊列である。

 そして地下一階。中央部辺りに毎回魔物のラージウルフが出現する場所がある。最近では、ジョルダンかカーラが一撃で仕留めることが多い。この日はカーラが見事な斬撃で、一発で片付けていた。

 しばらく進んで地下一階へ。回転床や一方通行の罠をいつも通りに突破し、戦闘も特になく階段へ到着。

 そして地下二階。複雑な構造と扉が多い階層で、最近はここを狩り場にしていた。

 カーラが探知魔法で魔物の存在する場所を割り出す。

「地図で言うと、こことこことここ。とりあえずその三か所で戦闘ね」

「了解。じゃあ行こう」

 そしてパーティは魔物を討伐していく。


「ホーリーシールド!」

 セインがいつものように魔法を発動させて、敵の攻撃を防ぐ。相手はヒュージマンティス三体。そのうち一体の攻撃を引き受ける。

 その間に他の三人が残り二体を片付ける。

「フレイムピラー!」

 マリサの最強魔法が放たれた。通常の魔法二発分の魔法力を消費するが、その分威力は絶大だ。炎の柱がマンティスを包み込み、その体を焼いていく。やがてマンティスが魔石を残して霧状になって消えていく。

 もう一体はジョルダンとカーラが引き受けている。カーラが持ち前の敏捷さで攻撃を引き付けて回避する。その隙にジョルダンが背後から繰り返し斬撃を与えて、大きなダメージを与えていく。こちらも特に苦戦することもなく、あっさりと倒し切っていた。

 そしてセインが引き付けていた残り一体へと向かう。

「魔法はなくても大丈夫だ。俺とカーラで片付ける」

「分かった。任せたわよ」

 ジョルダンが宣言通りに、セインが攻撃を引き受けている隙に、マンティスの胴体に厳しい斬撃を加えていく。先程と同じように、何発も深々と胴を斬り裂かれ、マンティスが地に倒れ、やがて霧状になって消えていった。

「よし、全員無事だな」

 リーダーのジョルダンは、戦闘の後は忘れずに全員の無事を確認する。これを怠ると、いざという時に大変なことになるからだ。残りの三人が無事を伝えると、ほっとした表情になり、魔石を回収していく。

 そして次に魔物がいる場所へと向かう。今度はロックゴーレムが相手だった。最初に戦った時は、あまりの硬さに撤退を余儀なくされた相手だ。

 だが、今では攻略法を完全に身に付けていた。

「じゃあ、セイン、いつも通り頼む」

「了解。ホーリーシールド!」

 セインが攻撃を引き付けるのは毎度のことである。ヒーラーだが壁役でもあるという、とても重要な役割である。ロックゴーレムの攻撃は重く、威力があるが、それを上手に受け流していく。

 カーラがその傍らで牽制の攻撃を仕掛ける。大した傷はつかないが、これも戦術の一つなのである。

 その間に後方に回り込んだマリサが魔法を発動させる。

「ファイアボール!」

 まずは火球を背に直撃させ、その周辺を高熱で焼く。

「アイシクルランス!」

 続いて氷の槍を放つ。火球が直撃した場所を見事に的中し、その周辺を一気に冷やす。温度差でゴーレムの背が脆くなり、一部が剥がれ落ちていた。

「よし、ここだ!」

 すかさずジョルダンが全力での突きを放つ。続いて渾身の斬撃を繰り返す。脆くなったゴーレムの体はどんどん砕けていき、最後に真っ二つに割れて倒れた。そして霧状になって消えていく。見事な連携による圧勝だった。

「よし、今度もみんな無事だな」

「ええ、もちろん。それじゃあ、次行きましょう」

 四人はどんどん先へと進んでいく。

 次の相手はリザードマンだった。

「ホーリーシールド!」

 今回もセインが楯の魔法で攻撃を引き受ける。リザードマンの攻撃は速く鋭いが、防げないほどではない。その間、ジョルダンとカーラがリザードマンを挟み撃ちにして斬りつける。

 しかし、リザードマンの動きは速く、斬撃を見事にかわしていた。セインが攻撃を防ぎ、ジョルダンとカーラが攻撃し、リザードマンがかわすという展開がしばらく続く。

 それに相手が慣れた頃、マリサが見事にその間隙を突く。

「ファイアボール!」

 拳大の火球がリザードマンの顔面に直撃する。高温に焼かれて、リザードマンの動きが一気に鈍った。すかさずジョルダンとカーラが斬撃を加え、リザードマンの傷を広げていく。

 やがて、激しい斬撃で大きなダメージを負ったリザードマンが倒れ、霧状になって消えていく。これで三連勝である。

「みんな無事だよな」

「もちろん大丈夫」

「あたしも平気」

「私も何ともないわ」

「よし、そろそろ昼食休憩にしようか」

 一区切りついたところで休憩である。今回も、みなの連携はうまく機能していて、苦戦することはなかった。

 昼食はギルドでナタリアにもらったサンドイッチである。ダンジョン内で食べることを前提にしているので、毎回手で食べられるサンドイッチを持たせてもらっているのである。

「ダンジョン内でもナタリアさんの食事はおいしいわね」

 マリサがのんきにそんなことを言う。

「確かに。俺としては食べられれば文句はないんだけど、おいしいに越したことはないからなあ」

「それはそうよね。この後のやる気が全然変わっちゃうし」

「うん。おいしいことはいいことだよね」

 四人でのどかに会話しながら、のんびりと食べていく。

 そうして心身共にしっかり休んだところで、討伐再開である。

「よし、行くぞ」

 この後、四人はまた四回ほど戦闘をこなし、地上へと帰還したのだった。


 日が傾き始めた頃、ギルドに戻る。夕方まであと少しという時間だ。タイロン達は仕事を終えて戻っていることもあれば、まだのこともある。今日はナタリアと二人、仕事が早めに終わったようで、すでにギルドにいた。

「今日も調子良かったみたいだな」

「はい。問題もなく、無事に戦えてます」

 そこで魔石を換金する。最近では、一日に銀貨十五枚から二十枚は稼げるようになっていた。

 洗濯物のある日は、この時間にやっておく。朝は早くからダンジョンに入るので、夜に室内に干しておくことがほとんどだ。それでも一晩あれば十分に乾かすことができる。

 アイナとポルタが遊びから戻ってきた後は、ギルド一家と一緒に公衆浴場へ向かう。男同士、女同士で、のんびり会話しながら風呂を楽しむ。

 ギルドに戻ると夕食の支度だ。この時間、四人はすることがないので、自室で読書をしたり、ロビーで話をしたり、好きに過ごしている。

 そして夕食。ナタリアを中心に四人で作った食事が並ぶ。これも毎回おいしい。

 食後はお茶を飲みながら、のんびり会話をして過ごす。

「僕は結局、この村の暮らしが気に入ってるんだって、良く分かったよ」

 セインがしみじみと言う。実感の籠った言葉だった。

「でもセイン、のんびり暮らしたいって、希望があるんじゃなかった?」

 問い返されて、セインは満足そうな笑みを浮かべて答えたものだ。

「魔物との戦闘はあるけどさ、それ以外はすごくのんびりした生活ができてるじゃないか。これも十分理想的な暮らしだなあって思って。パーティのみんなやタイロンさん達と話をするのも楽しいし、村の人は親切だし、たまに子供達と遊ぶのも楽しいし。みんなと出会えて、この村に来て、本当に良かったと思うよ」


 ここはオルクレイド王国辺境のボルクス村。その西に初心者向けのダンジョンがあり、そこで魔物と戦っているパーティがあった。

 彼らの将来はまだ未知数だ。もしかすると、将来は王国でも有名なパーティに成長するのかもしれない。この話は、そんな彼らが初めてダンジョンをクリアした時の出来事を記したものである。

 お人好しヒーラーの話も、ここで一区切りです。何度も苦戦して成長してきました。時には村の子供達と遊んだり、村人と交流したり、休むこともありました。ここまでお読みいただいたみなさまに、紙面にて失礼ながら厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

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