表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

第五話 冒険者ギルドへの報告

 ダンジョンで初めて魔物と交戦したセイン達パーティ。何とか勝利は収めたものの、魔法の残り使用回数が一気に減り、一戦で引き上げることになったのだった。

 ダンジョンを出るまでは、油断は怠らないようにすべきだった。

 リーダーのジョルダンがしんがりを務め、先頭のカーラが油断なく気配を探りながら前進していく。二番目にセイン、三番目にマリサと、入る時と同じ並び順である。行きはラージウルフと戦うまで魔物とは一切出会っていないが、だからと言って安全とは限らない。四人共、それはよく承知していた。

「後方異状なし」

 時折、ジョルダンが声を掛ける。頼みの綱であるセインの魔法が、あと二回しか使えない以上、どれだけ慎重になってもおかしくはなかった。

「もうすぐ出口よ。出たら、念のため探知魔法を使うわ」

 カーラが後ろに声を掛けた。さすがシーフ、基本に忠実である。

 ダンジョンの通路の先が明るくなってきた。ようやく出口である。

「サーチ!」

 カーラが探知魔法を唱える。反応がいくつもあり、これはどうやら野生動物で間違いなさそうだった。帰り道の周辺には動物達の反応もなかった。魔物らしい反応はもちろんない。

「大丈夫そう。後は普通に帰れそうよ」

「そうか、それは良かった」

 カーラの言葉に、ジョルダンが安堵の息を漏らす。

「でも悪かったな、本当に。俺がもっとうまく戦えてたら、まだダンジョン探索できたのに」

 リーダーの責任感からか、ジョルダンが少し落ち込んだように言った。

「それを言ったら、私だって魔法を外したわよ。あれを一撃で決めていれば、もっと楽に勝てたわよ、きっと」

 マリサも悔しい思いをしているようだった。

 カーラも同様に、自分の攻撃が通用しなかったことが悔しいようだった。

「まあまあ。僕だって魔法を使い過ぎたのを反省してる。でもさ、次もあるんだから、反省はその時に生かそうよ。とにかく、一体は倒したし、無駄足じゃなかったんだ。それでいいじゃないか」

 相変わらずのお人好しぶりを発揮し、セインがみなをなだめた。確かに生きて戻れたのだから、次にまた挑戦できる。そう思えば、思い通りにならなくとも、決して失敗ではない。

「ありがとう、セインの言う通りだ。とにかく、今は冒険者ギルドに戻って、ギルド長のタイロンさんに探索の結果を報告しよう」

 ジョルダンが気を取り直して、三人を見た。三人とも黙ってうなずき返し、そして帰り道を進み始めた。

 朝、ダンジョンへと出発してから、まだ半日と過ぎておらず、日はまだ高い位置にあった。それでも元気を取り戻し、四人は村へと戻って行った。


「ただいま戻りました」

 ジョルダンが冒険者ギルドの扉を開いて中に入ると、誰もいなかった。鍵もかかっていなかったので不用心ではあるが、こののどかな村でギルドに悪さをするような村人はいないので、問題はないのだろう。

 受付のところに立札があり、『村の仕事を手伝い中』と記してあった。

「困ったな。まさか留守だとは」

「あらら、報告できないわね」

「でも、夕方には戻ってくるんじゃない?」

「僕もそう思う。とりあえず、荷物片付けて、一休みしよう」

 四人でそう話し合い、二階へと上って自分の部屋へ。荷物を一通り片付けて、また一階へと下りてきた。そう言えば、娘のアイナも息子のポルタもいない。恐らく村の友達と遊んでいるのだろう。

 仕方なく、ギルドのテーブルを一つ占領して四人で座り込む。お茶の一つくらい欲しいところだと思ったら、受付のところに大きなやかんがあり、ご自由にどうぞと書かれていた。カップもたくさん用意してある。セイン達が戻って来た時、自由に飲めるようにと準備してくれたものだった。

「ありがたい。せっかくだから頂こう」

 カップにやかんの中身を注ぐ。麦茶だった。オルクレイド王国では、大麦から作った酒、いわゆるエールが普通に飲まれている。同じ大麦から作る麦茶があるのも当然だった。

「反省会の続きするか」

「そうだね」

 余った時間を有効に活用すべく、四人は戦いの場面を振り返り、どう戦えばいいかを話し合った。

「僕のシールドで押さえた後、どうやって一撃入れるかが問題かな」

「俺が大振りしたのが良くなかったな。まず動きを止めるよう、確実に斬りつけるのが大事だったと思う」

「私の魔法も、相手がフリーだと避けられやすいから、動きが鈍ったところを確実に狙うようにするわ」

「あたしは攻撃が通らないことがあるって、もっと早く気付けばよかった。相手の気を引き付けて、かく乱するように動くのが良さそうね」

 例えば、セインがシールドで動きを止めたら、その背後からジョルダンが突きを繰り出して、手傷を負わせる。手傷を負ったら、確実に魔法を命中させてさらに動きを鈍らせる。動きの鈍った敵の周囲で、軽い攻撃を加えてさらに足止めをする。そんな風に、有効に戦う方法を四人は考えていった。

 セインは本当は戦いは好きではないのだが、これも仲間のためと、知恵を絞って意見を出していた。何せ、自分のシールドの魔法が、戦いでは一番の要なのである。それを有効に使って、確実に勝利する必要があった。

 少し熱を入れて話している間に、やかんのお茶も減っていった。この四人も、軍資金を稼ぐのに一週間同じ宿で暮らし、ここボルクス村に来るまで一週間一緒に旅をしてきたので、かなり踏み込んで話ができる仲になっていた。命も懸かっているので、意見の交換でも本音を言い合っていた。互いに信頼していないとできないことだ。

 話をしている間に日は傾き、ギルド長も帰ってきた。

「よお、四人共、お帰り。無事に戻ってこられて何よりだ」

 タイロンが、開口一番、無事を喜んでくれた。

「ありがとうございます」

「無事戻りました」

「タイロンさんも、おかえりなさい」

「お仕事ご苦労様です」

 四人が口々に返事をする。

「早速ですが、ダンジョンでの出来事を報告したいのですが」

 リーダーのジョルダンがそう言うと、タイロンがうなずいた。

「分かった。だが、ナタリアが帰ってきてから、一緒に聞くよ」

「私なら、ちょうど戻ったところよ。四人共お疲れ様」

 タイミングよく、タイロンの妻ナタリアも戻ってきた。

「ただいまー。おやつ食べたいなー」

 引き続いて、子供達二人も戻ってきた。一家全員、似たような時間で戻ってくるとは、何とも仲の良い事である。

「じゃあ、焼き菓子を用意するから、みんなで食べながら、ジョルダン達の話を聞きましょうか」

 ナタリアがそう言って、おやつの準備をし始めた。ダンジョンから戻ったらおやつが出てくるのか、何とものどかな話だと、セイン達四人が思わず笑顔になってしまっていた。


「なるほど、慎重に探索して、行き止まりの場所を四か所まで確認できたんだな」

 探索の様子を聞いて、タイロンがうなずく。

「隊列も考えているし、面倒がらずに気配を探りながら進んでいるし、基本はしっかりできているようだな。初心者の割に大したものだ」

 合わせて、そう褒めてくれた。

 戦いぶりに関しては、残念ながらミスが多く、やっとの事でラージウルフ一頭を仕留めたと説明した。

「何はともあれ、倒せて良かったな。その説明を聞く限りでは、安全にも十分気を付けているし、そう悪くはないと思うぞ。後は上手に連携できれば、もっと簡単に倒せるようになるだろうさ。ナタリアはどう思う?」

「私も同じ意見。無理に一撃で倒そうとせず、確実に敵にダメージを与えることと、ちゃんと相手の攻撃を避けること、その二つを守ればもっと伸びるでしょう。特に最初のうちは基本に忠実なのが一番ね」

 さすがに二人も元冒険者だけあって、アドバイスも的確だった。四人で話し合った内容ともほぼ合致する。なるほどと四人がうなずく。

「それで、魔石は?」

「はい、これです」

 ジョルダンが二人に魔石を渡した。ラージウルフを倒した後に出てきた物である。

「確かにラージウルフのだな。対価は銀貨二枚だ」

 タイロンが魔石の代金を渡してきた。ジョルダンがそれを受け取る。

「何はともあれ、ご苦労だった。よく頑張ったな」

 労いの言葉で話を締めた。四人も安堵の息をついた。

「でな、悪いんだけど、早速クエストやってみないか」

「え、もうクエストですか」

 四人が驚く。閑古鳥が鳴くようなダンジョンのある、こんな辺境の村に、一体何事があったのだろうか。

「ヒュージスパイダーが出たんだそうだ。名前の通り、大型の蜘蛛の魔物でな。いつもなら俺とナタリアで討伐するんだが、レベル一でも戦える相手だし、どうせなら四人にやってもらおうかと思ってな」

「そうなの。時々村の近くの森とかに、魔物が出ることがあってね。ほら、昨日も私達が討伐に出てたでしょ。今回は相手もそんなに強くないし、あなた達のいい練習台になると思うわ」

 四人で顔を見合わせる。戦い方の相談をしたばかりで、それを実際に試してみるいい機会でもある。例によってセインは、戦うよりのんびりしたい気持ちがあるのだが、やはりパーティのため、村人のためとなれば、労力を惜しむつもりは全くない。

 タイロンが地図を持ってきて、目の前で広げた。

「じゃあ、詳しく説明するな。村からキノコを取りに西の森に行った女の人がいてな。その人が、地図で言うとこのあたりだな、そこで大きな蜘蛛の化け物を見たって逃げ帰ってきたんだよ。さすがに驚いてたから、牛と同じくらい大きな蜘蛛だってことしか分からないんだけどな。まあ、それに当てはまるのは魔物、いわゆるヒュージスパイダーってことになる。どうだ、退治できそうか」

「話には聞いたことがあります。確かに言われる通り、初級者でも倒せる程度の魔物だったはずです。やります」

 ジョルダンが強い決意と共に返事をした。こういうときはリーダーらしくきっぱりしている。

「なら、ギルドからの正式な依頼、つまりクエストとして扱おう。報酬は銀貨二枚。蜘蛛の魔石は別払いとする。これでいいか」

「了解です。明日、朝のうちに出て、退治してきます」

「よし、なら四人に任せよう。足の関節を狙って動きを封じて、高火力で止めを刺すんだ。頑張って来いよ」

 かくして、セイン、ジョルダン、マリサ、カーラの四人パーティは、次の戦いへと赴くことになったのであった。

無事にギルドに帰還できました。魔石の値段は弱い魔物なので安目です。ともあれ、一件落着はしましたが、すぐに次の課題に直面することと相成りました。果たして無事に倒せるかどうか、四人の戦いぶりに期待です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ