第四十九話 ダンジョンの秘密
ボルクス西のダンジョンは地下三階までだった。最深部に着いたパーティ四人は、そこで魔物を生み出す仕掛けを目撃した。勝手に手を出すべきでないと判断した四人は、ギルド長のタイロンに見つけた物を報告し、どうすべきなのかを相談したのだった。
その日の夕食時、ギルド長の娘アイナと息子のポルタは、冒険者のお兄さん、お姉さん達の様子がいつもと違うことに気付いた。
「今日は何かあったんですか?」
子供らしく率直にアイナが聞いてくる。まさか正直に答えるわけにもいかず、ジョルダンが口ごもる。それを察してセインが助け舟を出した。
「それがね、凄い強敵と戦ったんだよ。マリサの魔法の回数があと少ししか残らないくらいの強敵で、二十分以上戦ったんじゃないかな。そのくらい大変だったんだけど、何とか倒したんだよ」
「四人でもそんなに苦労したんだ。強敵だったのに倒せて凄いね」
ポルタが心底感心した表情で言った。本当の出来事だ。ただ、それより衝撃的な事実があって、それを伏せているだけだ。タイロン達も子供達に話せないと言っていたので、それは守る必要があった。
「それにしても、マリサさんの魔法をそんなに使うことになるなんて、とても強い魔物だったんですね。それでも勝って無事に戻ってくるんだから、さすがですね」
アイナに褒められて、四人がほっとした表情になった。話が無事に逸らせたこともあるが、何より確かに無事に戻れたのは良かったことだと再認識したのである。
「今日はよく食べて、ゆっくり休んでくださいね」
アイナがそんなことを言う。まだ子供だが、十分に気遣いのできる娘だった。さすがはタイロンとナタリアの自慢の娘である。
「よく食べて元気になって、明日も頑張ってね」
負けじとポルタが応援してくる姿が微笑ましい。
四人は二人に礼を言うと、いつものように元気よく夕食を食べていくのだった。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、お父さん、お母さん」
その後、二人が就寝する。ここからが話の本番だ。
四人が二階の自室から下りてきて、ギルドのロビーの席に着く。
タイロンとナタリアも自室から出てきて、ロビーにやってきた。
「待たせて悪かったな。じゃあ、昼間の話の続きといこう」
話が長くなることを見越して、ナタリアが全員分のお茶を入れてくれた。こういうところはさすがである。
「あの魔物を生み出す仕掛けっていうのは、いつ、どうやって作られた物なんでしょうか」
待ちかねたジョルダンが早速質問をしてきた。
タイロンが苦笑を浮かべそれに答える。
「まあ、そう慌てなさんな。まず魔物を生み出す仕掛け、つまりは魔物の発生器だな。これは現代の人間ではその仕組みを理解することも、模造することもできない。だから、いつ、どうやって作られた物なのかは分からない。人間が歴史を記録するようになって何百年か経つが、一番古い歴史書にもダンジョンの存在と、魔物発生器の存在は記されていて、はるか大昔から存在している物なんだ」
「人間の歴史より古い存在、そんなものが……」
四人は驚きを隠せない。
「だから、古代の書物には、ダンジョンの記載もあって、入ると無事には戻れない恐るべき存在とされていたようだ。その後、魔法や戦闘の技術が発達し、ダンジョン探索が行われるようになったと記されている」
タイロンがそこまで言うと、マリサが疑問を呈した。
「魔物が発生するような恐ろしい場所、そして魔物を発生させる仕掛け、それは人間が歴史を記録するようになった時にはすでに存在していたって言いましたよね。昔の人達はそれを壊そうとはしなかったのでしょうか」
「そう、そこで魔石の存在が大きな意味をもつことになる。やはり古代から魔物発生器を破壊すべきかどうかの議論はされていたようだ。やはり魔物は獣とは違い、人間にとっては害をなす脅威の存在だからな。しかし、魔物を倒すことで得られる魔石の便利さを知ったことで、その供給源を絶つのは損失だという結論に達した。だから、冒険者ギルドを作って、魔物を狩る専門の人間を配置し、安全にかつ確実に魔物を狩り、魔石を安定供給できるように組織化したんだ。冒険者ギルドが国から運営金を貰えるのも、そうした事情からなんだ」
「なるほど、冒険者も他の職業と同様、普通の就職先として考えられるようになっているのは、魔石の安定供給のためなんですね」
ジョルダンがうなずきながら口を開いた。鉱山で鉱石を掘り当てるのと同じように、冒険者は魔物を狩って魔石を得るのである。それが独立した職業として成立するくらい、魔石の需要は大きい。この前、王都で見た工房に、魔石を利用した動力があったことが思い出される。
「さて、話をまとめよう。ダンジョンの存在は大昔から知られていた。魔物を倒す技術が進歩した。そして魔石の利用方法が発達した。ダンジョンは新たに作り出すことはできないが、魔物はダンジョンがある限り発生してくる。ということで、ダンジョンがある限り魔石が供給できることを知った人間達は、冒険者ギルドを設立し、ダンジョンを保護する役割も担わせた。魔物を狩って生計を立てる冒険者を保護、育成すると同時にな。だから、みんながアースジャイアントと戦って、もし負けて戻ってきたとしても、どの道この話をするつもりだったんだ。なのに、まさか初見で倒してくるとは、全く驚いたよ」
タイロンの話は分かりやすく、そして納得のいくものだった。しかし、まさか倒してくるとはと驚かれると、少し心外である。
だが、そんな余計な話をするつもりはなく、ジョルダンは率直に疑問を尋ねた。
「アースジャイアント、あれもダンジョンで生み出された魔物なんですか。他の魔物に比べ、恐ろしく強かったんですが」
「そうだ。いわゆるボスモンスターだな。一番奥に配置され、最重要の魔物発生器を守る役割を担っている。だから周囲の魔物よりもはるかに強い。どこのダンジョンにもこうしたボスモンスターはいて、それを倒すのが一つの目標でもあるな。一度倒しても、時間が経てば、魔物発生器から次のボスが生み出される。早ければ一日、遅くとも数日中には再生されるはずだ」
「他の普通の魔物達も、発生器で生み出され、それをダンジョン内に転移させて配置するというわけですね。なるほど、魔物発生器のおかげで、俺達人間は魔物を狩って魔石を得ることができる、だからそれを守る必要があるということなんですね」
「物分かりが早くて助かる。結論としてはそういうことになる。ただし、この話は一般の人には内緒だ。なぜ魔物を放置するのかって話になってしまうからな。これで納得してもらえるだろうか」
四人が顔を見合わせた。やはり、あの場で魔物発生器に手をつけなかったのは正解だったわけだ。新たに作ることもできない、貴重な過去の遺物。
しかし、疑問もある。マリサが口を開いた。
「魔物発生器は止まったり壊れたりしないものなんでしょうか。話を聞く限りでは、少なくともこの何百年もの間、ずっと動き続けていることになりますけど」
「記録によれば、驚くことにそれが全くない。発生器は常に稼働し続けていて、魔物を生み出しているようだ。まあ、地下深くの安全な場所に設置されているおかげなんだろうな」
「そうなんですね。それはすごいことですね」
全く、ダンジョンには不思議が多いものだと思った。
そしてタイロンが一言付け加えた。
「それはそうと、ボルクス西のダンジョン、クリアおめでとう。ボスを倒して最奥部の魔物発生器にたどり着いたんだから、これで制覇したことになるわけだ。初心者だけのパーティが一月半ほどでクリアするなんて、かなり早い記録、経験者ならともかく初心者としては最速だろうな」
「そうですか。ありがとうございます」
「そう、だから、みんなもこの先どうするか、考える時期が来たっていうことだ。このままもうしばらくこのダンジョンで稼ぐか、他の場所のダンジョンに挑戦するか、それをな」
四人があっという顔をした。なるほど、言われるまで気付かなかったが、ダンジョン制覇ということで一区切りついたと考えていいのだ。
四人は再び顔を見合わせて、それぞれ思う所を話した。
「俺はこれでクリアと言われても、ちょっと納得いかない感じだな。せめて、あのアースジャイアントを、もっと楽に倒せるようになりたい」
「私も、自分の強さが今のところ半端だと思ってるの。その辺、ジョルダンと同じ考えね。やっぱり、はっきりと強くなった実感がもてるようになってから、次のダンジョンに挑戦したいかな」
「考え方ってみんな似るものね。あたしもちょっとすっきりしてなくて、もう少し強くなっておきたいって思ってる。それにせっかくここまで地図描いたんだし、有効活用したい気持ちもあるかな」
要するに、三人はもう少しボルクス西のダンジョンで鍛えたいということなのである。ここまで探索したダンジョンなら、魔物討伐も難しくない。レベルアップに良いだろうと考えていたのだ。
その辺、セインは少し考え方が違っていた。
「僕はまあ、正直どっちでもいいかなって思う。でも、ここの暮らしはのんびりしてて好きなんだ。暮らし始めてまだ一月半だし、もう少しのんびりここで過ごしてもいいかなっていうのが、僕の希望」
それを聞いた他の三人が目を丸くして、そしてぷっと吹き出した。
「相変わらずだな。まあ、そののんびりしたところが、セインのいいところだけどな」
「ホントよね。あたしも確かにここの暮らしは気も楽だし、落ち着いて過ごせていい場所だな、とは思うけどね」
「そうね。タイロンさんやナタリアさんには、まだ教わりたいこともいろいろあるし。アイナやポルタ、村の子供達と遊ぶのも楽しいし。村の人達はみな親切だし。もう少しボルクス村で過ごすのはいいわね」
三人がそれぞれ思う所を口にした。それを聞いて、タイロンもナタリアもうれしく思っていた。
「そう言ってくれるとありがたい。何せ、みんなが来るまで、このギルド、一年近く閑古鳥が鳴いてたからな」
「それで私達夫婦で、ダンジョンの外に出た魔物を細々と討伐してたの。だから、みんながダンジョンの魔物を狩ってくれるのは大助かりなのよ」
二人にそう言ってもらえて、セインがほっとしたように言った。
「それは良かったです。僕達がいると、食事とかで負担掛けるじゃないですか。苦労掛けて悪いのかなあとか思ってましたから、いる方が助かると言われると気も楽です。今後もしばらくの間、よろしくお願いしますね」
お人好しののんびり屋らしい言葉だった。
ジョルダンがそこで釘を刺した。
「でも、いつまでもずっとってわけにもいかないだろう。俺達が強くなって、ここでは物足りなくなる日がいつか来る。でなくても、もし俺達みたいな初心者のパーティが、ボルクス西のダンジョンに挑戦したいって来たら、やっぱり譲ってやるのが筋ってもんだろ」
マリサもその点、シビアに考えていた。
「そうね。私達が強くなった時、もしかするとこのパーティを解散して、それぞれ別の場所に挑戦したいってなるかも知れないわよ。残念だけど、いつまでも同じではいられないから、心の片隅にその覚悟だけは置いといてよ」
確かにその通りなのである。しかしカーラが言った。
「そうなんだけど、まあ先のことはまた話し合って決めればいいと思うよ。当面、レベル五を目標に、これからもここで頑張っていきましょ」
セインがうれしそうにうなずく。少し遅れて、残る二人もうなずいた。
「それじゃあ、まずはレベル五を目指して」
「ここボルクス西のダンジョンで」
「せっかく描いた地図を有効に使って」
「魔物討伐を頑張ろう」
四人が手を重ねて、おーと掛け声を上げた。
その姿を見て、こんな純粋にダンジョンに挑んでいた時代もあったなと、タイロンやナタリアが懐かしく思っていた。
「それじゃあ、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく頼むな」
四人は、タイロンとナタリアと、それぞれ固く握手を交わすのだった。
ダンジョンの秘密編です。石油がどうやってできたのか知らないまま利用しているのと同じく、魔物が生み出される謎はそのままに魔石を利用しているという設定です。ちょっと強引ですがご容赦を。ともあれ、パーティ四人はダンジョンクリア。でも、しばらくここでレベルを上げていきます。




