第四十四話 ガーゴイルを倒してレベル四になりました
地下二階を地道に探索しているパーティ四人。厄介な魔物が出現することも多く、苦労が絶えません。探索と戦闘の連続で疲れることもありますが、それでも地道に頑張っています。
それから五日間。パーティは探索範囲を広げ、地図を描き加えながら、地道に探索を続けた。
地下二階では、出現する魔物も地下一階より強く、同じ種類でも厄介な場合が多かった。しかも、複数で出現することもあり、倒すのに苦労することも増えていた。
しかし、四人がみないろいろな場合の対処法を身に付け、連携の良さを生かして、常に勝ち続けていた。どうすれば倒せるのか、きちんと作戦を考えて実行し、確実に魔物を仕留めていたのである。
そして、そろそろ地下二階の地図作製も終わりが見えてきた頃、一番の強敵が出現した。
いつものように部屋の扉を開く。中に魔物がいるのは探知の魔法で確認済みだった。そして、中にいたのは人型にコウモリのような羽を付けた、鬼のような顔を持つ魔物だった。大きさは二メートルと少し、人間よりやや大きい程度の動く石像である。しかし、大きくないからといって、決して侮れない相手だ。
「ガーゴイルだわ。攻撃は殴るかひっかくかくらいだけど、ロックゴーレム並みの硬さとジャイアントバットのような機動力があって、かなり厄介な相手よ」
「空中にいたら攻撃できないわ。魔法で直撃を狙うのも難しそうだし。襲って来たところで反撃、何とか羽を切り落として、地上戦に持ち込みたいところね」
「またセインに負担掛けることになるな。済まないが壁役頼む」
「分かってる。今回もしんどいことになりそうだね」
こうして戦闘が始まった。
最初は四人で固まって、ガーゴイルの襲撃に備える。
ガーゴイルはその強みを生かして、空中に舞い上がると、急降下して襲い掛かってきた。鋭い爪が四人に迫る。
セインが一歩前に進み出て、いつものように魔法を発動させる。
「ホーリーシールド!」
強い衝撃がセインを襲う。それほどの大きさもなく、見た目も力がありそうには見えないが、思った以上に攻撃には威力があった。セインが驚いて大きく息を吐く。
相手が攻撃した瞬間こそ、地上に近い位置にいるので反撃のチャンスである。カーラとジョルダンが二人で同時に左右から切り込む。
「えいっ!」
「そりゃっ!」
狙い違わず、二人の斬撃はガーゴイルの羽に当たった。しかし、硬さが勝り、わずかな傷をつけただけだった。思わぬ反撃を受けたガーゴイルは飛び下がり、またもや空中へと飛んでいく。
「一撃じゃ少ししか削れないぞ」
「何度も繰り返すしかないけど、セイン、大丈夫そう?」
ジョルダンとカーラが声を上げる。
「大丈夫。連続攻撃じゃない分、今のところ、余裕あるから」
セインは笑みを浮かべて強がって見せた。その強がりを見抜けない仲間達ではない。十発くらいは持ちこたえてくれるだろうが、あまり回数が増えると負担しきれなくなる可能性が高い。
何とか一撃で大きなダメージを与える方法がないものかと、マリサが必死で考えていた。手持ちの魔法で何とかできないか。しかし、フレイムピラーは、相手が動き回るので直撃させるのが難しいだろう。ファイアボールやアイシクルランスでは威力不足に思える。ウィンドストームでも、吹き飛ばすだけの威力はなさそうだ。
考えている間にも、ガーゴイルは動き回り、四人の隙を窺って襲い掛かってくる。その都度、セインがシールドで守っているが、やはり一撃が重く、受けるのもやっとという状況だった。
ガーゴイルの攻撃に合わせ、ジョルダンとカーラがすぐに飛び出し、羽に攻撃を加えていく。少しずつだが傷が増えていく。しかし、羽の動きは収まらず、すぐに空中へと逃げられてしまい、追撃ができない。
「羽をなんとかできればってことよね。羽、羽ね……」
マリサはまだ考えている。
「一撃が重いなあ。仕方ない、ストレングス!」
セインが自分に強化魔法をかけた。ガーゴイルの攻撃に対応するのに、素の体力では厳しいと感じたからである。
「一撃が重い、重い、そっか」
マリサが何かを思いついたようだった。
「左の羽の動きを止めるわ。そしたら、ジョルダンとカーラ、二人は右の羽を斬り落として」
「分かった。いくぞ、カーラ」
「いつでもいいわよ。マリサ、よろしく」
そこへ何度目になるだろうか、ガーゴイルが急降下して攻撃を仕掛けてきた。セインがそれをシールドで防ぐ。今度は強化魔法の効果もあって、きっちり押さえることができた。
「ここ! アイシクルロック!」
マリサが魔法を発動させた。氷で相手を包み、動きを封じる魔法だ。それをガーゴイルの左羽に命中させる。ガーゴイルが毎度のように飛び下がろうとしたが、重い氷に羽が包まれ、バランスを崩して地上に落下した。
「今だ!」
ジョルダンとカーラが右の羽の付け根に攻撃を加える。繰り返し斬撃を浴びせ、右の羽を根元から斬り落とすことに成功した。
羽がなくては、さすがにガーゴイルも空中に逃げることはできない。それでも地上に降りたまま、両足を動かしてパーティに迫り、しつこく攻撃を仕掛けてくる。セインがその攻撃を丁寧に受け止めていく。
ようやく地上戦になった。これなら負けはしない。ゴーレムを何体も屠った連携がここで炸裂した。
「ファイアボール!」
まずはマリサが拳大の火球をガーゴイルの背に炸裂させる。高熱がその背を焼く。
「アイシクルランス!」
続けて同じ位置に氷の槍の魔法を放つ。高熱を帯びた場所が急激に冷やされることで、硬い石像の胴体がもろくなり、表面がはがれていく。
「よし、とどめ! 闘気剣!」
ジョルダンが必殺技を使う。淡い光が刀身を包み、伝わった闘気により剣の威力が増す。そして渾身の斬撃をガーゴイルの背に放つ。振り下ろされた剣が、見事に脆くなった背を砕いた。
そのまま二撃目、三撃目と追撃を加える。一撃ごとに大きくガーゴイルの体が削られていく。そして四撃目で、ついにその体が両断された。ガーゴイルが霧状になって消えていく。見事な連携で、ついに四人が勝利を収めたのだった。
「空を飛ぶ上に硬いとかって、きつい相手だったな。みんな、無事だよな」
ジョルダンがいつものように全員の無事を確認する。ダンジョン内では絶対におろそかにできないことの一つだ。
「私は無事。魔法三発消費はちょっと痛いけど」
「あたしも大丈夫。でもセインが」
「僕も平気だよ。強化魔法使ったから、最後まで受け切れた。……って、あ、またレベルアップみたいだ」
冒険者証に反応がある。全員がそれを懐から取り出し、確認してみる。
「本当だ。レベルが四に上がったぞ」
ジョルダンがうれしそうにカード状の冒険者証を眺める。身体の能力値、いわゆるステータスも上がっているし、何より必殺技の回数増加が大きい。
「やった、闘気剣、三回までから、一気に六回に増えた」
「私も。十三回から十七回。かなり助かるわ。あと、炎属性を武器に付与するフレイムエンチャントが増えてる。ナタリアさんの言った通りだったわ」
マリサも魔法の回数が格段に増え、使える魔法も増えていた。
「あたしは十回から十三回。魔法の種類は増えてないけど、探知や潜伏の効果が上がってる」
カーラも魔法の回数増があった。
当然、セインもである。
「僕は十七回から二十二回。ディスパラライズが増えた。これで毒の他に麻痺も治せるようになったわけだね」
みんなでレベルアップで得られたものを伝え合う。全員、いろいろと強くなったことが確認できて、拳をぶつけ合って喜びを共有した。
「さて、レベルも上がったし、キリが良ければ引き返すところだけど」
「地図の方、この左手の部屋だけ見ておきたいかな。それでキリが良くなるから」
ジョルダンの言葉にカーラが答える。
「また魔物がいても何とかなるでしょ。キリよく左の部屋、行っちゃおう」
「そうね、私も賛成。まだ魔法も六発と余裕あるし」
セインとマリサも同調したので、左手の部屋へと行くことになった。
魔物がいるのは探知魔法で確認済みだ。
「よし、行くぞ」
扉を開くと、ジャイアントワームが三体。何度も倒したが、そのうち一度はジョルダンが重傷を負わされた相手だ。油断はできない。
「いつも通り、セインが一体押さえて、マリサが一体、俺とカーラで一体仕留める。頼むぞ、みんな」
ジョルダンの指示で四人が飛び出す。
まずはマリサが問答無用で魔法を発動させた。
「もう引き上げるなら遠慮はいらないわよね。フレイムピラー!」
普通の魔法二発分の魔法力を消費するが、現時点では最強火力の魔法である。炎の柱が巻き起こり、ワーム一体を包み込む。強力な炎に焼かれて、そのまま霧状になって消滅していった。これで一体。
もう一体は、カーラが囮になって正面から当たっている間に、ジョルダンが繰り返し斬撃を浴びせて、見事にワームを両断した。ワームはあっという間に倒され、霧状になって消えていった。これで二体。
最後の一体は、セインがシールドで攻撃を押さえていたが、そこにジョルダン、カーラ、マリサが援軍としてやってきた。
「ファイアボール!」
またもマリサの魔法が文字通り火を噴き、ワームの頭部を焼き焦がす。弱った頭部にカーラが斬撃を浴びせ、ジョルダンが渾身の突きを放ってワームを刺し貫いた。それが見事に決まり、最後の一体も霧状になって消えていく。かくして三体全てをごく短時間で倒し切ったのだった。
「よし、全員無事だな」
「もちろん」
三人がほぼ同時に返事をした。今回の戦いはあまりに一方的だった。
「レベルアップの恩恵があったみたいね。すごく楽に倒せたわね」
マリサの言葉に三人がうなずく。みなその通りだと思っていた。実際剣のや魔法の威力が増している実感があった。
「よし、この部屋の地図を描いたら撤収だ」
カーラが地図を描き足す。
「いやあ、シールドで攻撃を受けるのも楽になったよ。レベルアップはありがたいねえ」
「そうね。頑張った甲斐があったわね」
「俺達もこの一月ちょいでずいぶん強くなったな。改めて実感したよ」
「地図描けたわよ。それじゃあ引き上げましょう」
ダンジョン探索もかなり進み、地下二階も残すところあとわずかだろう。十分な成果を得て、四人は明るい表情で引き上げ始めた。
久々のレベルアップです。強敵を倒した直後だっただけに、喜びもひとしおです。かなりダンジョン探索も進みました。初心者ばかりだったのに、すでにいっぱしの冒険者になっています。




