第四十二話 森の中の探検に付き合いました
回復魔法で完治しているはずだけど、念のため休みを取ったパーティ四人。のんびり散歩に出かけることにして、以前案内してもらった湖の周りをのんびり散策したのでした。
「ただいま戻りました」
昼近くまで湖でのんびり過ごした四人は、一旦冒険者ギルドに引き上げてきた。今日は探索時と違って昼食をもらっていない。ギルド一家と一緒に普通の昼食を頂くことになっていた。その分の食費はちゃんと支払っている。
「おかえりなさい。少し待っててね。子供達が戻ったら昼食にしましょう」
ギルド長の妻ナタリアがそう言って出迎えてくれた。ギルド長のタイロンも一緒だ。午前中に村の仕事を手伝い、今はギルドに戻っていた。
「僕達も村の仕事手伝った方が良かったですかね」
セインがそう言ったが、タイロンは首を振った。
「まあみんなにもできる仕事だけど、今日は休みだからな。ゆっくり羽を伸ばしてもらうのが仕事さ」
「そうですか。分かりました。ありがとうごさいます」
「今日は何してたんだ」
「湖までちょっと散歩に」
などと、いくつかやり取りをしている間に、娘のアイナと息子のポルタも帰ってきた。
「ただいま。ちゃんと勉強してきたよ」
「偉いわね。じゃあ、お昼ご飯にしましょう」
「うん。片付けたら手伝うね」
「ぼくもぼくも。お姉ちゃん、待ってよ」
子供らしくせわしなく動いている。アイナは十一才、パーティ四人はみな十五才。年の差はさほどないので、自分達もこうだったんだなと振り返り考えて、微笑ましく思っていた。
昼食は簡単にパスタとサラダ、チーズとミルクだった。地産地消の土地なので、全て近所の農家で取れたものだ。四人もこのボルクス村の食事に慣れ、ごく自然においしいと感じていた。
「そう言えば、アイナ達は、午後は何をして遊ぶんだい?」
セインが尋ねると、アイナはうれしそうに答えた。
「森の中を探検したいんです。普段は、魔物や熊とかに出くわすといけないから、子供だけでは森の中に入れないの。学舎で、冒険者のみなさんが休みだって言ったら、頼んで一緒に森に行ってもらおうって話になって。友達みんなも乗り気になっちゃったから、セインさん達の断りもなしにいいよって返事しちゃったんだけど、一緒に行ってもらえますか?」
「いいねえ、森の探検かあ。僕の村は子供だけで入っちゃダメとかはなかったから、良く森で遊んでたな。そういうことなら僕は付き合うけど、みんなはどうする?」
お人好しのセインはむしろ賛成とばかり、アイナ達の遊びに付き合うことにしていた。だからと言って、他の三人も同じとは限らない。人の好さでは他の三人も似たようなものだから同行するというだろうが、念のため確認を取ってみた。
すると案の定、他の三人も同意してきた。
「俺も行くよ。都会育ちで、森を見て回るなんて滅多になかったからな」
「私も。農家の仕事の手伝いが多かったから、森の中ってあまり見たことがないの。だから、一緒に行くわ」
「もちろん、あたしも一緒に行く。楽しそうだし」
実にあっさりと全員の同行が決まっていた。アイナやポルタも、きっとこの親切なお兄さん、お姉さん達は頼みを聞いてくれるだろうと思っていたが、二つ返事で了承してくれてほっとしていた。
「みなさん、親切にありがとう。食べ終わったら、村の広場で集合になってるから、一緒に行きましょうね」
森の探検は子供達にとって大きな楽しみのようだ。セイン以外も似たようなもので、三人も童心に帰って楽しむ気満々の様子だった。
大広場にやってくると、男女半々で六人の子供が待っていた。年は一番下が七才、最年長がアイナで十一才。セイン達も加えて、全部で十二人で出かけることになる。
「急だったのに、私達のお願いを聞いてくれて、今日は冒険者のみなさん、ジョルダンさん、セインさん、マリサさん、カーラさんが同行してくれるよ。森に行くけど大丈夫って、みんなちゃんと家の人には伝えてある?」
アイナが確認を取った。黙って勝手に森で遊んだりすれば、後できついお説教が待っている。大人達に心配を掛けないことも含め、ちゃんと家族の了承を得るように話を進める辺りが、アイナの細やかさだった。
もちろん、ちゃんと話したよなど、子供達全員からちゃんと話を通したことがつぶやかれる。アイナがそれを聞いて了解したとばかりうなずく。
「じゃあ、みんな出発しましょう」
「やったー! 久しぶりに森に入れる!」
子供達はうれしそうにはしゃいでいた。そんな様子を見て、パーティ四人が微笑を浮かべた。数年前はこのはしゃぐ側だった自分達が、今回は安全確保の大人役だと思うと、何だかこそばゆい。
そしてアイナを先頭に、子供達は森の方へと歩いて行った。
最初は道に沿って歩いていく。草原を通り、しばらく行くと森が見えてくる。森の中にも道はあるが、ダンジョンへ続く細い道で、パーティ四人が通い出すまで、道かどうかも怪しい感じになっていた。散々通って、今は踏み固められて道らしくなっている。
アイナはそれを知っていて、あえてダンジョンの方を目指していた。せっかくなので、入り口だけでも見たかったのである。
結構歩き通して、切り立った崖の場所へとやってきた。確かに崖の一部に開けた場所がある。これがダンジョンの入り口だった。
「冒険者のみなさんが魔物退治してるのが、ここのダンジョンよ。実は私も一度見てみたかったの。でも、今日は外から見るだけよ」
「中に入っちゃダメ?」
「そいつは俺達が許さない。村の大人達との約束だからな」
こういう時、ジョルダンはきちんと厳しくなれる。マリサやカーラが笑みを浮かべてその様子を見ていた。
「代わりに、道のないところを探検しよう。何か見つかるかもね」
セインが子供達の興味をあおる。禁止ばかりでなく、代わりを提示する辺りがセインの上手なところだ。
代わる代わる入り口からダンジョンの中を覗いていた子供達が、その言葉に興味を覚え、集まってきた。
「分かった。じゃあ、好きに探検してもいいんだね」
「どんなに迷っても、こっちのカーラお姉さんが、探知魔法っていうのを使えるから、絶対に村に戻れるんだ。安心していいよ」
「やったね。じゃあ行きましょう、アイナ隊長!」
子供達が調子に乗ってそんなことを言い出す。最年長のアイナがリーダーなのは子供達の暗黙の了解である。そこで隊長などと呼んで、調子に乗るのも子供らしいことであった。
「分かったわ。じゃあ、森の中に入るわよ」
こうしてあえて道を外れ、森の中へと入り込んでいくのだった。
「すごいなあ。道がないと、こんなに歩きにくいんだね」
枝が落ちていたり、若木が生えていたり、森の中は人が通るようにはできていない。それでもアイナは先頭に立って、道を切り開くように進んでいく。十一才の女の子にはちょっときつい作業だ。
「アイナには大変でしょ。僕が代わろうか」
田舎育ちで森にも慣れているセインが申し出た。確かに適任である。しかし、自力で進むのは大変だけど楽しいようで、アイナは首を振った。
「どうしようもなくなったら頼みます。それまでは私が何とかします」
文字通りの探検だった。道なき森を切り開くように進む。子供心には緊張感もあり、スリル満点で楽しいらしい。
すると、セインが何かを見つけて声を掛けた。
「アイナ、右側の方へ行ってくれる? 幅の広い葉っぱの木に向かって」
「分かりました」
セインに言われて、アイナがその木を目指して進んでいく。
「みんな見てごらん。枝の間に小さな芽があるだろ。これがもう少しすると、花が咲くんだ。それで山栗の実がなるんだよ」
「へえ、栗の木なんだ。食べられるの?」
「もちろん。とは言っても、森の動物達がみんな食べちゃいそうだけど」
さすがは森で遊ぶこともあったというだけはある。ジョルダンもマリサもカーラも、初めて見る野生の栗の木に感心して、まじまじと眺めていた。
「あ、近くにキノコがある。これ、食べられるのかな」
「うーん、さすがの僕でも、キノコの種類までは分からないな。僕の村にはキノコ採りの名人がいて、その人だったら分かるんだろうけどね」
「そうかあ。ねえねえ、あれは?」
「ナラの木。栗に似てるけど、どんぐりのなる木だよ」
そんな具合で、ガイド役としてのセインは、子供達に大人気だった。
そしてセインは、子供達が一番興味のあることを言い出した。
「うーん、そろそろおやつでもほしいところかな」
「森の中でも食べられるものがあるの?」
「この時期だとキイチゴやグミの木かなあ。村の中にも生えてる場所あるでしょ。森の中でも、探せば見つかると思うんだ」
「それいいね。さすがセインの兄ちゃんだ。じゃあ、みんなで探そう」
「そうだね。ただ、迷子になると困るから、場所を移動しよう」
セインがカーラに耳打ちすると、カーラが探知魔法を使った。そして、栗の木から右手の方を指し示す。
「アイナ、ちょっと先頭行かせてもらうよ」
セインがそう言って、カーラの示した方へ向かう。
しばらく進むと、森の中の広場とでもいうべき場所に出た。森の全てが木々でいっぱいなわけではなく、こうした空白地も所々にあるのだ。
「じゃあ、僕がここで待ってるから、みんな自由に探してみて。良いもの見つけたらこの場所に戻ってきて」
「うん、分かった。それじゃあ探してくる!」
そして子供達は方々に散らばり始めた。単なる探検でなく、おやつ探しという目的もできて、どの子もうれしそうである。
「ジョルダン、マリサ、カーラは小さい子について行ってあげて」
「分かった。しかし、セインはさすがだな。学舎の先生でも務まりそうだ」
三人も森の中を探す子達について行った。
それから二十分ほどして、あった、という声が聞こえてきた。その声を聞いて、子供達が一度セインの元へと戻る。
見つけたのはポルタだった。
「あったよ、キイチゴ。何本も並んで生えてた」
「そっか。良く見つけたね。じゃあ、みんなで食べに行こう」
「やった! ポルタ、案内よろしく」
「任せといて。こっちだったよ」
十二人が一斉に歩いていく。広場から十分ほどで、ポルタが見つけた場所へと到着する。確かにポルタの言う通り、雑然とした灌木の集団の一部がキイチゴの木だった。そこに数多くの実がなっていた。
セインが一つだけ注意をした。
「食べ過ぎて腹を壊さないように注意だよ。じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
子供達がそれぞれ実をもいで食べていく。村の中では、食べるのに木の持ち主の許可がいるのだが、今回は食べ放題である。
ジョルダン、マリサ、カーラは、これまで野生の木の実を食べることがなかった。初めての経験である。セインも含め、周りの子達がおいしそうに食べているのを見て、自分達もまねをしてみた。
「お、これ普通のイチゴと少し違って、独特のうまさがあるな」
「そう言えば、庭にキイチゴの木を持ってる家があったわね。そうか、そこの家の人はこの味を知ってたわけね」
「おいしい。野生の木の実もいいね。セインはこういうの、良く知ってるよね。さすがだわ」
三人にも好評だった。セインが笑みを浮かべて仲間達を見た。
「ね、森の中も面白いでしょ。でも危険があるのも確かだから。道に迷うこともあるし、熊と出会ったら大変だし。この村の人達が、大人と一緒って条件つけるのも分かるんだ」
しばらくして、セインは子供達に声を掛けた。
「もっと食べたいと思うけど、終わりだよ。食べ過ぎは良くないからね」
「うん、分かった」
「久しぶりに食べたけど、おいしかった」
子供達も満足できたようだった。
それからしばらく森の中を探検し、蜂の巣を見つけたり、きれいな花の咲く木を見つけたりしながら、全員で森の中を堪能した。
日が傾き始めた頃、セインが村に戻ることをみなに伝えた。森の外に出るのに、暗くなり始めてからでは遅いのである。リーダーをしていたアイナがそれを受けて、全員を引き連れて森の外へと向かい始めた。
「今日はありがとう、セインさん、ジョルダンさん、マリサさん、カーラさん。おかげでとても楽しい探検ができました。こんなに気分のいい遊びは、すごく久しぶりでした」
アイナの礼を受けて、他の子供達も、口々にありがとう、楽しかったと声を掛けてきた。子供達の笑顔に、四人も笑顔を返し、うなずいた。
そして、そんな子供達にセインが四人を代表して答えた。
「森の中って楽しいよね。今日はそのお手伝いができて、僕達もうれしかったし、一緒に遊べて楽しかった。またの時に、こうして一緒に遊ぼうね」
休日編その2、森の中の探検隊です。自然のままで手つかずの森の中を楽しむ様子を描きました。道なき森の中は本当に迷うので、完全に探検状態でしたね。セインが思わぬ大活躍の回でした。




